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ショパンはいかにマズルカを芸術的な作品に高めていったか

ショパンの音楽とポーランド(3)ショパンのマズルカ

江崎昌子
洗足学園音楽大学・大学院教授/日本ショパン協会理事
概要・テキスト
ピアノ演奏と講義でショパンを追う連続シリーズ第3話では、「ショパンとマズルカ」に焦点を当てる。ショパンの心の日記とも称されるマズルカ。実にショパンは、生涯で50曲以上も作曲している。元々、農村の楽しい民族舞踊であった「マズルカ」だが、やがてショパンは、郷愁やポーランドを思う悲しみのような気持ちをマズルカにしたためていくようになる。(全9話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:56
収録日:2022/10/13
追加日:2023/03/30
カテゴリー:
≪全文≫

●初期の「踊れる」マズルカから「踊れない」マズルカへ


―― それでは実際にショパンがマズルカを書くとどうなるかということで、演奏いただきたいと思います。最初に演奏いただくのが「マズルカ第5番 作品7-1」ということですが、これはどういう曲になりますでしょうか。

江崎 はい。先ほど「マズル 」というリズムでは付点が入って、やや騎士的な感じで誇り高い踊りだと言いましたけれども、まさにこれはそういう喜びにあふれた作品で、溌剌としたイメージです。

 マズルカでは、どちらかというと足踏みをして地面をキュッと蹴ったりしますが、ワルツなどとは違って3拍目にアクセントがきます。ワルツでは「“1”・2・3」と1拍目に重みがあってくるっと回りますが、「1・2・“3”」とアクセントが来たり、何かつっかかるような感じがあったりするのです。

 三つ編みの女の子がその三つ編みを体にぶつけて踊るような、とてもそういう威勢のいい感じですね。

―― ぜひ聴いてみたいと思います。よろしくお願いいたします。

江崎 はい。

 (♪:ショパン作曲 マズルカ第5番 変ロ長調 作品7-1)

―― ありがとうございます。今教えていただいた「女の子が三つ編みをぶつけながら」という情景を思い浮かべながら聴くと、本当に雰囲気が伝わってくるような感じがいたします。ただ、このマズルカというのは非常に変容していくというか、いろいろなマズルカになっていくわけですよね。

江崎 そうですね、今演奏したのは、村の踊りというか、先ほどちょっと聴いていただいたような楽器で、みんなが楽しんで踊っている、もしかしたら踊れるかもしれないような作品でした。

 ところが、だんだんショパンは、郷愁やポーランドを思う悲しみのような気持ちをマズルカにしたためていきます。楽しい踊りだけではなく、そういう気持ちを和声に反映したり、和音のグラデーションのような感じといったらいいのでしょうか、その色彩に自分の気持ちを込めていく。それで不協和音が入ったりするし、踊りというものを出すのではなく、踊りというリズムを使って、全然違う自分の人間的な感情を表す。マズルカをショパンがそのように芸術的な作品として高めていくというのが、だんだん作品番号が先にいけばいくほど、その雰囲気がとてもよく分かります。


●色彩豊かなマズルカに込められた切実な郷愁


―― そのよう...
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