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カトリック、正教会、イスラム教…宗教と民主主義

民主主義の本質(3)宗教と教会と民主主義

橋爪大三郎
社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授
概要・テキスト
『権力』(橋爪大三郎著、岩波書店)
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キリスト教圏において、神に与えられた権利を守るために必要とされた「法の支配」という原理。それは近代民主主義の礎となったが、同じキリスト教内でも、カトリックやプロテスタントといった宗派によって、その実践は異なっていた。つまり、そこで見えてくるのは異なる政教分離の実態である。さらに、イスラム教のような他の一神教とも比較することで、法の支配における教会の役割も明らかになる。(全5話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:33
収録日:2024/02/05
追加日:2024/04/09
≪全文≫

●宗派によって異なる政教分離の実態


―― もう1つ、著書『権力』の中で印象深いのが、やはり今の議論ですね。というのが、基本的にはアメリカ、あるいはイギリスなどでの主流の話であって、同じ一神教の世界では、例えばプロテスタントとカトリックでは違うし、いわゆる正教会とも違いがあるというようなご指摘なのですけれど、やはり、今ずっとお聞きしてきたのは、基本的にはアメリカ合衆国での論理ということになるのでしょうか。

橋爪 イングランドもだいたい同じです。カルヴァン派の影響力がイングランド、スコットランドではとても強いですから。フランスは少し別なのですけれど、哲学の影響が強いから、だいたい同じです。ドイツはルター派なので、少しカルヴァン派ではないけれど、似たようなものです。つまり西ヨーロッパという地域は、おおむねこの論理で納得しているわけです。

 さて、カトリックのほうはどうなっているかというと、教会が国をまたがって世界に1つしかないという原則でできているのです。こういうものを「普遍主義」「普遍(的)教会」といいますけれど、そういう教会があって、しかも個別の政治権力があります。個別の政治権力は、教会が認めるというスタイルでしたから、近代になってもカトリック系の国ではそういう考え方が抜けていないのです。ですから、契約によってこの国を守り、人権を守るのだという意識が希薄です。教会がそれに代わって、イエスの代理人として人々を守っているという意識がどこかにあるからです。そうすると、政教分離がうまくいきません。

 東のビザンチン教会、ギリシャ正教会のほうは、カトリックよりももっとカルヴァン派のやり方から遠いのです。どうしてかというと、東ローマ帝国がずっと最後まで残っていて、15世紀にやっと壊れてしまいました。それまで教会と政治権力は二人三脚で、ほぼベッタリでやってきたので、教会と政治が“なあなあ”の関係にあるのです。これが東の伝統です。

 ですから、ロシア正教会があるとすると、ロシア皇帝と“なあなあ”の関係になっていて、それからソビエト連邦があると、共産党とソ連の政府が、“なあなあ”の関係になっている。“なあなあ”の関係になっていると、誰かが良心に基づいて、「これはおかしい。この教会の考え方はおかしい」と言うと、政治犯になって、捕まって、処分されてしまうから、宗教改革も起こらない。良...
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