●人間を再定義し、資本主義を変えていく「人の資本主義」
東京大学の中島隆博と申します。今日は「人の資本主義」についての話で、副題を「新しい共生と倫理的資本主義」と付けています。
まずは、「人の資本主義」ということをご説明申し上げたいと思います。
2021年、すなわちコロナ(禍)の頃に、(私は)『人の資本主義』(東京大学出版会)という本を編集しました。私以外にも多くの先生方に貢献していただき、その議論を載せた本です。
「人」という以上は、やはり人間を再定義しないといけない。それを再定義した上で、資本主義の今のあり方を変えていく。そして、新しい人間像に寄与するような資本主義とはいったいいかなるものであるのかということを構想いたしました。
英語のタイトルをご覧いただければと思うのですが、 “Capitalism for Human Co-becoming”というふうに名付けました。また後で詳しく申し上げますが、人間をこれまでの"human being"(人間存在)ではなく、“human co-becoming”としています。“co-”というのは「誰かと一緒に」という意味ですから、他の人あるいは人間ではない(non-humanな)ものも、そこに入るのではないかと私は思っているのですが、他者とともに人間的になっていくプロセスとして人間をつかまえていく。こういったことを提案いたしました。
その後にも議論を続けていて、これから『人の資本主義Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ』として、「感染症を考える」や「貨幣を考える」、あるいは「ポスト資本主義を考える」等々の準備もしていますので、また刊行の暁にはお手にとっていただけると幸いです。
●人間の内でも外でも起こっている「分断」
では、早速「人の資本主義」の内容に入っていきましょう。
「人」と「資本主義」を合成していったものが、「人の資本主義」というわけです。
私たちは、「人間とは何か」「資本主義とは何か」ということを問うわけですが、実はなかなか難しい概念だろうと思います。と言いますのも、歴史の上でこの二つの概念はともにどんどん変化をしてきました。そのように変化し続けている二つの概念を結合することによって、今よりもましな世界を開くことができないだろうか。そのこ...