『歴史とは何か』を語る
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古来より歴史書に人物や事実を記録する基準はとても難しい
『歴史とは何か』を語る(8)智者と愚者の混淆
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
いったい歴史家は何をどう記録すべきなのか。イブン・ハルドゥーン、ブハーリー、吉田松陰、劉知幾。古今東西の歴史家の言動を対比し、歴史が向かうべき事実と真実を考える。歴史学者・山内昌之氏が著書『歴史とは何か』を語る。シリーズ第8回。
時間:22分54秒
収録日:2014年11月26日
追加日:2015年8月3日
≪全文≫

●全てを知り尽くすことはできないとしても


 皆さん、こんにちは。

 しばらくご無沙汰していましたが、また『歴史とは何か』について考える連載のシリーズに戻りたいと思います。ここでは“連載”とは申さず、おそらく、連続講演、あるいは、連続したお話ということになるのでしょう。ご理解ください。

 この間も私は、中東4か国に出掛けてまいりました。(2014年)11月初旬の7日から17日まで10日間です。訪問先は、ドバイ、オマーン、ヨルダン、エジプトでしたが、私はいずれの地の講演においても、チュニジアの生んだアラブの歴史家イブン・ハルドゥーンのことを、最初の所説として、あるいは、私の結論の一部として、しばしば引き合いに出しました。

 イブン・ハルドゥーンの歴史に関する指摘、ひいては、歴史家に関する指摘は、大変多くのエジプト人やオマーン人、他のアラブの人たちにとっても、関心のあるものでした。それは、「イブン・ハルドゥーンの指摘は、ややバランスを失するほど歴史家に厳しいのではないか」という感想です。

 そもそも、あらゆる事件、あらゆる出来事の原因について知り尽くすことは、いかなる人々、すなわち、どのような優れた歴史家をもってしても不可能です。さらに、どんなに優れた歴史家たちの共同作業、営みをもってしても不可能であることは間違いありません。ですから、イブン・ハルドゥーンの歴史家に対する批判や資格の厳しい追及は、本来なかなか難しい注文をつけている面があります。

 そもそも歴史家とは、自分なりに理解する歴史の基本的な原則や拠り所、あるいは、事実そのものと情報を対比させて、事実であるかどうかを検証し、そして、さらにその中の研ぎ澄まされた真実とは何かについて確定する努力を払ってきたものです。


●ムハンマドの伝承をつぶさに収集したブハーリーの労作


 9世紀に活躍したブハーリーという人物がいます。

 ブハーリーは、自分の生涯を尽くす仕事として歴史を選びました。その仕事において、当時の人々はもとより、後世の人々にも、高く評価されました。なぜならば、ブハーリーは、ムハンマドが何を語り、どのように行動したかという伝承を、あらゆるところから、飽きることなく、丹念に収集した人物であるからです。

 その労作は『サヒーフ』と言います。サヒーフとは、“紛うかたなく正しいこと”という意味...

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