『歴史とは何か』を語る
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
奴隷制も復活? 歴史学の作法に適わないイスラム国の主張
『歴史とは何か』を語る(5)ある断面から全体を語れるか
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
「イスラム国」の考え方は明らかにおかしいと、イスラム研究の第一人者・山内昌之氏は言う。「複合的な見方」がないからだ。それは一体何か。『歴史とは何か』を語るシリーズ・第5回。
時間:11分46秒
収録日:2014年10月21日
追加日:2015年7月23日
≪全文≫

●多元的要素を解析すると同時に、全体を俯瞰する


 皆さん、今日は、素朴な善悪二元論だけで歴史を語ることに対する私の疑問について、引き続き語っていきたいと思います。

 全体として、歴史のプロセスをあまりにも単純化して、論理的に整理・整序し、案配をつけていく説明は、素朴な認識論にすぎないことが多いように思われます。歴史のある断面を説明することはできますが、必ずしも歴史を複雑性や多様性において捉えることにはなりません。

 言い換えますと、歴史とは混交性や全体性で成り立つもので、そこに含まれるのは多元的な要素です。歴史家は、多元的要素を物質の分子を扱うように慎重に個別解析・分析していくと同時に、全体の模型を俯瞰する視点を併せて持つ必要があります。

 例えばかつて、明治維新このかたの日本近代史は悪の連続である。したがって、それ以降の日本史は、自分は認めないと語った歴史家がいました。他方には、侵略戦争や植民地支配の負の現実を忘れがちな立場の人たちもいます。いずれも、歴史の決定要因の複合性を解釈できていません。あまりにも歴史を単純化しています。

 日本近代史が悪の連続だという考えを突き詰めていくと、明治維新以前の日本史はグローバリゼーションや世界のマーケットから切り離されていたわけですから、「日本史だけ見ていればよい」「それまでの日本史は幸せだった」という主張にもなりかねません。本来、明治維新以降の日本史とは、世界と結びつくことによって、さまざまな化学反応を起こしてつくられてきたのです。そうしたことを、「悪の年代記」という解釈だけで捉えることはできないのです。

 また、日本の中国大陸への進出、日中戦争へ至る道、さらに朝鮮半島の支配と植民地化など、日本の歴史には、現代にも多くの問題を残している事象があります。こうした事象をあたかもなかったかのようにしたり、見ようとしないというのもおかしなことです。「歴史とは、多くの決定要因がある複合的なものだ」ということを前提に考えなければならないのです。


●イスラム国の主張はイスラムの一断面でしかない


 私の専門に近い「現代イスラム」についても考えてみましょう。例えば今、「イスラム国」という現象があります。

 イスラム国家はカリフの下で一つの共同体をつくっていた。その共同体が、教団=国家である。そのような立場からイス...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
明治維新から学ぶもの~改革への道(1)五つの歴史観を踏まえて
明治維新…官軍史観、占領軍史観、司馬史観、過誤論の超克
島田晴雄
徳川将軍と江戸幕府~徳川家斉(1)家斉が長期政権を維持できた理由
11代将軍・徳川家斉が50年もの長期政権を築けた理由
山内昌之
核DNAからさぐる日本のルーツ(1)人類の起源と広がり
人類の祖先たちの「出アフリカ」…その時期はいつ頃?
斎藤成也
古代中国の「日常史」(1)日常史研究とは何か
『古代中国の24時間』英雄だけでなく無名の民に注目!
柿沼陽平
百姓からみた戦国大名~国家の本質(1)戦国時代の過酷な生存環境
戦国時代、民衆にとっての課題は生き延びること
黒田基樹
ローマ史に学ぶ戦略思考~ローマ史講座Ⅳ(1)古代の持つ意義と重み
一神教もアルファベットも貨幣も全て古代に生まれた
本村凌二

人気の講義ランキングTOP10
デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
津崎良典
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
東秀敏
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
認知バイアス~その仕組みと可能性(1)認知バイアス入門
誰もが陥る「認知バイアス」…その例とメカニズム
鈴木宏昭
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(3)カントの公共性論
いま学ぶべきカントの挑戦~なぜ「公開性」が重要なのか
齋藤純一