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山本五十六は連合艦隊司令長官になって変わってしまった

本当のことがわかる昭和史《1》誰が東アジアに戦乱を呼び込んだのか(10)なぜ大バクチは画竜点睛を欠いたか

渡部昇一
上智大学名誉教授
概要・テキスト
山本五十六
1941年12月、海軍内部に不信渦巻く中での決行となった山本五十六連合艦隊司令長官による真珠湾攻撃は、結果として画流点睛を欠くことになった。それはなぜか。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第一章・第10話。
時間:02:25
収録日:2014/11/17
追加日:2015/08/13
タグ:
≪全文≫
 そもそも日本海軍を率いた山本五十六海軍大将からして、連合艦隊司令長官になった頃から、まるで人が変わってしまったのではないかと思えるふしがある。

 山本五十六は非常に頭脳明晰な人物で、米内光政大将、井上成美少将(のち大将)とともに日独伊三国同盟の条約締結(昭和15年〈1940〉)に反対したことでも有名である。

 アメリカ大使館付武官を務めたこともある山本大将は、もともと日米開戦には消極的だった。ところが連合艦隊司令長官になってからは、「開戦の劈頭(へきとう)、敵の主力艦隊を猛撃撃破して、米海軍と米国民をすっかり意気阻喪させる」ことが必要だと考えるようになり、真珠湾攻撃を立案・実行したのである。

 当時、日本海軍は出撃してくる米艦隊を日本近海で迎え撃って撃滅する計画を立てていた。だが、山本五十六が「真珠湾攻撃ができないならば、自分は連合艦隊司令長官を辞める」と強硬に主張して譲らなかった。

 開戦時には将兵の練度も砲撃の命中率も、圧倒的に日本海軍がアメリカ海軍よりも高かったといわれる。航空兵力の性能も練度も日本がアメリカのはるか上を行っていた。結果論ではあるが、もし真珠湾攻撃をしなければ、「日本は卑怯な騙し討ちをした」といわれることもなかった(もちろん、騙し討ちになったのは外務省のせいであるが)。また、日本近海にやってきた米太平洋艦隊を撃滅していたら、米国の士気は立て直せぬほどに落ちたかもしれない。

 だが山本大将はバクチのような乾坤一擲(けんこんいってき)の作戦に賭けた。その信念は提督として立派だったかもしれない。だが、海軍内部に真珠湾作戦への不信が渦巻く中での作戦決行になってしまったことが、画竜点睛を欠く結果をもたらすことになってしまう。

 そうなったのは、山本大将の人事が悪かった。彼の部下である一航艦司令長官の南雲忠一中将は、本来、真珠湾攻撃に反対だったのだ。そもそも海軍がロンドン軍縮条約をめぐって「条約締結やむなし」とする条約派と、「条約は断固締結すべからず」と主張する艦隊派に分かれて派閥抗争に陥ったとき、条約派の山本に対して、南雲は艦隊派の強硬派だった。お互いに遺恨があったことは否定できず、当然、息が合うはずもない。本来、山本大将は、自分の方針に反対している人物を艦隊司令長官のような要職に就けてはならなかった。また南雲中将は、昭和16年...
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