テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.06.12

有名人の結婚相手?ネット社会の誤報の拡がり方

 今年の流行語大賞候補になりつつある言葉に「忖度」があります。誰かの心中を推し量り、その望みを勝手に実現させようとすることですね。官僚の世界ではめずらしくないと聞きますが、ネット社会においては忖度よりもタチの悪い現象がしばしば起こっています。裏付けを取らない「事実誤認」や「憶測」。そして、事実無根の誤報の拡散です。

ある日突然、有名人の結婚相手と名指されたら?

 政治学者で慶應義塾大学大学院教授・曽根泰教氏は、ある日突然、自分がエッセイストで作家の阿川佐和子氏の「お相手」に名指されていることに気づきました。両氏の間に接点は一切ありません。

 ことの始まりは、2016年11月15発売のFLASH誌上。長年独身を通し、「お見合い歴30回以上」を誇ってきた彼女が、結婚宣言を放ったとの報道があったのです。お相手は、「定年になる13年まで慶大教授を務めた6歳年上のS氏」。

 これは、慶應大学の現役教授で、阿川さんとは5歳差の曽根氏のプロフィールとはまるで違っています。同じなのは「S氏」「慶大教授」というキーワードだけです。

 慶應義塾大学の教員名簿の中から、イニシャルSで比較的年齢の近い独身者を検索したのでしょうか?それでも彼女は「13年に定年になった」と言っているので、曽根氏が現役教授であることを知っている人なら、間違いようのない話です。

「一般人」に配慮した手記が、ますます波紋を広げた

 曽根氏としては、まさか記者会見をして否定するわけにもいきません。阿川さん本人による「(今更ですが)私、結婚しました」と題する独占手記が2017年5月18日発売の週刊文春に掲載されてからは、事態は収束するどころか、かえって拡散するばかりとなってきました。

 お相手が「一般人」であることに配慮して、阿川さんははっきりと身元を上げるようなことをせず、「69歳の一般男性『S氏』」として、「2、3年前に妻とは離婚」「趣味はゴルフと『数独』」などと断片的な情報を漏らすに留めたのです。これが「憶測」への引き金となりました。

 彼女がこの手記の中で、実名という肝心な情報を開示していないことから、「兄の阿川尚之と元同僚」である曽根氏への「憶測」が広がったのだろうと、曽根氏自身は「推論」しています。

ネット上での否定発言は「火に油を注ぐだけ」?

 FLASHの発売以降、曽根氏の元へは、身近な人からの問い合わせが相次ぎました。弟子たち、同僚の教授たち、関係する組織の事務局長などなど。いずれも、もし本当だったらお祝いをしなければならないとの善意が先立ってのことでしょう。

 曽根氏自身は、ゼミのOB・OG会できっぱりと否定されたほかには、これまで特に対策は取ってこられませんでした。ネット上で何か発言をしても「火に油を注ぐだけ」という、雑誌の編集長だった知人の意見を取り入れたためです。

 新聞や雑誌などで報道された場合と違って、ネット上で拡散していく誤報に対しては、相手が不特定多数のため、損害賠償や名誉毀損などを訴えることは難しくなります。また、芸能人ならともかく、大学教授が私生活にまつわる誤報についての記者会見を行うのもおかしな話です。

 曽根氏があえて10MTVオピニオンの講義のテーマとして、この問題を取り上げたのは、身に覚えのない誤報の拡散が、誰にとっても他人事ではなく、食い止めたり対処したりすることの難しい問題だからです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

青春期は脳のお試し期間!?社会的ニッチェと信頼の形成へ

青春期は脳のお試し期間!?社会的ニッチェと信頼の形成へ

今どきの若者たちのからだ、心、社会(2)思春期の成長、青春の脳

思春期にからだが急激に成長することを「思春期のスパート」と呼ぶ。先行して大きくなった脳にからだを追いつかせるための戦略である。脳はそれ以上大きくならないが、脳内の配線が変化する。そうした青春期の脳の実態を知るた...
収録日:2024/11/27
追加日:2025/07/12
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長
2

アベノマスク、ワクチン調達の決算は?驚きの会計検査結果

アベノマスク、ワクチン調達の決算は?驚きの会計検査結果

会計検査から見えてくる日本政治の実態(1)コロナ禍の会計検査

日本の財政をくまなく検査し、その収入と支出を把握する会計検査院。日本のメディア報道などでは、予算の決定や補助金などの政策決定については詳しく報じられるが、それがどのように実際に使われたかは、ほとんど言及がない。...
収録日:2025/04/14
追加日:2025/07/11
田中弥生
東京大学客員教授
3

正岡子規と高浜虚子の論争、その軍配と江藤淳暦年のテーマ

正岡子規と高浜虚子の論争、その軍配と江藤淳暦年のテーマ

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(3)正岡子規と高浜虚子の「リアリズム」

正岡子規の死後、高浜虚子が回想で述べた師・子規との論争。そこに「リアリズムとは何か」のヒントが隠されていると江藤淳氏は言う。子規と虚子、それぞれの「リアル」とは何か、そしてどちらが本当の「リアル」なのか。近代小...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/07/09
與那覇潤
評論家
4

AI時代の「真のリアル」は文芸評論の練達の手法にあり!

AI時代の「真のリアル」は文芸評論の練達の手法にあり!

編集部ラジオ2025(14)なぜAI時代に文芸評論が甦るのか

どんどんと進む社会のAI化。この大激流のなかで、人間の仕事や暮らしの姿もどんどん変わっていっています。では、AI時代に「人間がやるべきこと」とはいったい、何なのでしょうか? さらにAIが、驚くほど便利に何でも教えてく...
収録日:2025/05/28
追加日:2025/07/10
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
5

マネへの強烈なライバル意識…セザンヌ作品にみる現代性

マネへの強烈なライバル意識…セザンヌ作品にみる現代性

作風と評論からみた印象派の画期性と発展(1)セザンヌの個性と現代性

印象派の最長老として多くの画家に影響を与えたピサロ。その影響を多分に受けてきた画家の中でも最大の1人がセザンヌだが、その才覚は第1回の印象派展から発揮されていた。画面構成や現代性による解釈から、セザンヌ作品の特徴...
収録日:2023/12/28
追加日:2025/07/10
安井裕雄
三菱一号館美術館 上席学芸員