社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
『はじめての英語史』から英語の「なぜ?」を読み解く
英語に関する「なぜ?」「どうして?」
思い起こすと、英語にはじめて触れたのはいつのことでしょう。中学校に入ってから?それとも、もっと幼いころから?当たり前のことですが、英語は日本語とはルーツの異なる言語です。英語を学んでいて、「どうしてこうなるの?」と不思議に感じたという方も少なくないでしょう。たとえば、なぜ、“a apple”ではなく“an apple”になるの?またどうして、“I you love”ではなく “I love you”になるの? などなど……。
そこは「ルールだから」と言ってしまえばそれまでですが、とくに英語学習を始めた最初のころは、こんな疑問ばかりだったのではないでしょうか。慶應義塾大学文学部教授・堀田隆一氏の著書『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』(研究社)では、そんな英語に対する初歩的な「なぜ?」「どうして?」に答えています。
「英語史」というと聞き慣れないかもしれませんが、英語という言語そのものがたどってきた歴史のことです。英語を学ぶ人の「なぜ?」という疑問は、この「英語史」を解き明かすことで、その答えを見出すことができるのです。
では、先ほどあげた「なぜ“an apple”なのか」、「なぜ“I love you”なのか」の2つの代表的な疑問について、同書に紹介されている説をご紹介しましょう。
疑問1「なぜ“a apple”ではなく、“an apple”になるの?」
そもそも、この<a>と<an>の違いは、名詞の前につく不定冠詞の<a>が、母音ではじまる名詞の前では<an>となるという、英語の基礎的なルールによるものです。現在は<a>を使う名詞が圧倒的に多く、<an>に変化すること自体が少数なのですが、実は古い時代の英語では<an>のほうが一般的でした。そもそも<an>は、「1つの」を意味する数詞<one>の仲間で、<one>を短く発音したり弱く発音したりした結果、変化した言葉だと堀田氏は解説しています。つまり、古い時代の英語では、「<an>+名詞」が一般的で、<a>は時代が下ってから登場した使い方だったということです。
それが現在のルールに落ち着いたのは「発音のしやすさ」による要因も大きいのだとか。この「発音のしやすさ」は<a>や<an>だけでなく、さまざまな言葉や文法に影響を与えています。
疑問2「“I you love”ではなく “I love you”になるの?」
英語を始めてから、文法にとりかかるとき、はじめに学ぶのは主語 (Subject)・動詞 (Verb)・目的語(Object)の順番です。言語によってさまざまな組み合わせがあり、それぞれの頭文字を取って、SVO文型やSOV文型などと呼ばれます。英語の多くはSVO文型ですが、日本語はSOV文型。つまり、日本語では「わたしは(S)あなたを(O)愛します(V)」でも、英語では“I(S)love(V)you(O)”と、単語の順番が変わるのです。英語は一見そうした順番に厳格そうですが、実は古い時代にはその順番はもっと自由だったと堀田氏は指摘しています。英語には<I>や<you>、<he>などの人称代名詞が、目的語となった場合、<me>や<yours>、<him>といった具合に変化しますよね。古英語ではもっとたくさんの単語に、それぞれの単語が文章中でどんな役割を担うものなのか、明確に分かる活用形がありました。そのため、単語を聞けば、語順がバラバラでも、何が目的語なのか理解することができたのです。
しかし、これが次第に簡略化され、語順を整えなくては意味が理解できなくなっていきます。11世紀ころには半々の割合で使用されていたSVO、SOV、それぞれの文型が、何百年もかけて次第にSVO文型の割合が多くなり、16世紀にはSOV文型の使用例は1割にも満たなくなってしまいました。
疑問を解消することで英語をより身近に
この他にも、同書には「<name>を<ナメ>ではなく<ネイム>と発音する理由」や、「3単現に<s>をつけなくてはいけない理由」、「アメリカ英語とイギリス英語の違い」などなど、さまざまな疑問を解決しています。堀田氏は同書の中でこう述べています。
「このような疑問にあまりこだわりすぎると語学学習上能率が悪いので、そのうちに問うことを止めてしまう(中略)しかし、一般に疑問は素朴であればあるほど本質的であり、その答えを知ろうと努力することは、英語のみならず日本語を含めた言語というものを理解するうえで、一見遠回りのように見えて、実は近道なのである」
今回挙げたような疑問は、英語学習において大きな壁になることはないでしょう。グローバル化が進み、英語が世界の公用語ともいえる時代になった今、こうした疑問はむしろ、瑣末なこと感じる方もいるかもしれません。しかし、そうした小さな疑問こそ、今よりも英語を身近なものにするための、そして言語という存在をより深く理解するための入口なのかもしれません。
<参考文献>
『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』(堀田隆一著、研究社)
http://webshop.kenkyusha.co.jp/book/978-4-327-40168-9.html
<関連サイト>
堀田隆一氏のブログ(hellog~英語史ブログ)
http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/
『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』(堀田隆一著、研究社)
http://webshop.kenkyusha.co.jp/book/978-4-327-40168-9.html
<関連サイト>
堀田隆一氏のブログ(hellog~英語史ブログ)
http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
近代医学はもはや賞味期限…日本が担うべき新しい医療へ
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(3)医療の大転換と日本の可能性
ますます進む高齢化社会において医療を根本的に転換する必要があると言う長谷川氏。高齢者を支援する医療はもちろん、悪い箇所を見つけて除去・修理する近代医学から統合医療への転換が求められる中、今後世界の医学をリードす...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/19
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13


