テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.08.03

「残業」は何時間を超えると健康リスクが増すのか?

 働き方改革ワークライフバランスの改善など、仕事との付き合い方、向き合い方に多くの人が悩み、国も動き出す時代です。長時間労働を強いられ、体を壊したり、うつ病を発症してしまう人も増え、最悪の場合は過労死や、過労自殺をするという事件もしばしば目にします。

 しかし、いざ多忙な状況になり毎日何時間も残業が続いても、「まだ大丈夫」「まだできる」と、ついつい自分に厳しくなってしまったり、無理をしがちではありませんか? いったい、どのぐらいの残業をすると健康に害が出てくるのでしょうか?

労災認定のおりる基準は1か月100時間を超える残業

 過労によって脳や心臓に疾患が引き起こされた場合、労災認定基準では、時間外労働が1か月で100時間超、2か月または6か月の平均で80時間超が基準とされています。これは、世界中の医学的根拠に基づく研究結果をまとめ、導き出された数値で、月45時間以内の残業であれば、健康障害を起こす危険性は低いと判断されています。逆に、時間外労働が月100時間を超え、継続して長時間の労働を行った場合、健康被害のリスクが高くなると考えられ、労災認定基準にはこの数値が使われているのです。

 具体的な健康被害としてあげられるのは、心臓病や脳卒中です。人は1日に8時間の睡眠を必要とするといわれていますが、残業時間が増えれば、その分睡眠時間は削られていきます。若い世代であれば、多少の無理はきくでしょうが、2時間、3時間などの短い睡眠が何か月も続いた場合、それは生死に関わるような事態に発展する可能性もあるのです。

 また、1日に残業なしで7~8時間働く人がうつ病になる確率を1とすると、1日11~12時間働く人では、2倍以上に跳ね上がったというイギリスの研究結果もあり、過度の残業は、体だけでなく心にも深い傷を残しかねません。

残業をしていないからといってリスクが0ではない

 しかし、残業が少なければ安心というわけでもありません。少ない残業時間でも、その分、別日に働いていたり、勤務日数が多くなると、やはり健康被害のリスクが高まるといわれています。

 海外の調査では、週の労働時間が36~40時間の場合の脳卒中を発症するリスクを1とすると、週の労働時間が55時間以上の場合は、1.33倍になりました。

 長時間仕事をしたり、1週間で6日や7日も仕事にとられると、ストレスがたまります。そのストレスは、精神的な負荷だけではなく、暴飲暴食やタバコやアルコールの過剰摂取などにつながり、体を少しずつむしばんでいきます。自分がいったいどのくらい働いているのか、客観的に見つめ直すことも必要かもしれません。

仕事との関わり方を社会全体で考えていこう

 現在、国は月に残業の上限を45時間、年間で360時間を基準に、残業を制限する方針で動いています。繁忙期は1か月でも100時間の残業、それを含めて、年間720時間までを認めるというものです。

 とはいえ、日本では周囲に合わせ長時間仕事をしたり、もう仕事が終わっていても、切り上げると仕事をしていないように見られるといった風潮が根強くあります。今後は、こうした意識をひとりひとりが変えて行く必要性があるといえるでしょう。

 また、「これくらいの残業当たり前だ」という人もいますし、実際にそうした労働環境でも問題なく働けている人がいるのも事実です。しかし、やりがいのある人の残業100時間と、精神的に追い詰められ、辛い仕事を押しつけられている人の残業100時間では、まったく意味合いが異なります。

 ひとりひとりの形にあった仕事の環境を整えていくことや、お互いに理解しあい、仕事のバランスを変えていくことが、今後の社会の課題ともいえます。

<参考サイト>
・1日何時間残業すると健康を害するのか
http://president.jp/articles/-/22452
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か

地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か

海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ

海底はどうやってできるのか。なぜ火山ができるのか。プレートが動くのは地球だけなのか。またそれはどうしてか。ではプレートは海底の動きの全てを説明できるのか。地球史規模の海底の動きについて、海底調査の実態から最新の...
収録日:2020/10/22
追加日:2021/05/02
沖野郷子
東京大学大気海洋研究所教授 理学博士
2

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率

日本の政治史を見る上で地理的条件は外せない。「島国」という、外圧から離れて安心をもたらす環境と、「山がち」という大きな権力が生まれにくく拡張しにくい風土である。特に日本の国土は韓国やバルカン半島よりも高い割合の...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/15
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
3

「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味

「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味

未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査

現在の宇宙開発は「国際月探査」を合言葉に掲げている。だが月は人類の移住先にも適さず、探査にさほどメリットがない。にもかかわらずなぜ「月探査」が目標として掲げられているのか。それは冷戦後、宇宙開発の目標を失った各...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/16
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
4

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本

組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授
5

トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ

トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ

トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン

アメリカのトランプ大統領は、2025年5月に訪れたサウジアラビアでの演説で「トランプ・ドクトリン」を表明した。それは外交政策の指針を民主主義の牽引からビジネスファーストへと転換することを意味していた。中東歴訪において...
収録日:2025/08/04
追加日:2025/09/13
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー