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『働く女子の運命』著者が語る、女性の働きづらさの理由
世界の男女平等ランキングで日本は144位中111位
世界経済フォーラムは、「ジェンダー・ギャップ指数」という世界の男女平等ランキングを毎年発表しています。2016年、日本は調査対象144カ国のうち111位。過去最低の結果でした。2015年が101位と、もともと良い成績ではありませんでしたが、さらに順位を下げたことになります。ジェンダー・ギャップ指数は、「経済」「教育」「政治」「健康」における男女格差を指数化しています。日本は、「経済」と「政治」のスコアがいちじるしく低く、政治家と企業幹部に女性が少ないことが全体のスコアを下げている大きな原因ではないかと言われています。ちなみに1位はアイスランド、2位はフィンランド、3位はノルウェー、4位はスウェーデンと、上位は北欧の国々が占めています。
欧米の「ジョブ型社会」との違い
どうして日本は女性の働く環境が改善されないのか。独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所長である濱口桂一郎氏は、著書『働く女子の運命』(文藝春秋)の中で女性の活躍を阻んでいるのは「日本型雇用システム」にあると指摘しています。日本にいると「日本型雇用システム」は普通に感じますが、欧米や諸外国からみるとかなり変わっているのだそうです。濱口氏は、「欧米社会では、企業の中の労働をその種類ごとに職務(ジョブ)として切り出し、その各職務を遂行する技能(スキル)のある労働者をはめ込みます。旋盤操作ができる人、経理事務ができる人、法務ができる人、といった具合です」と説明しています。そのため、就職も賃金もスキルが前提となります。こうした欧米型の雇用システムを濱口氏は「ジョブ型社会」と呼んでいます。
日本の特殊な「メンバーシップ型社会」
「ジョブ型社会」の欧米では、企業が「職務」(ジョブ)の束であると考えられているのに対して、日本では企業が「社員」(メンバーシップ)の束であると考えられています。したがって、日本型雇用システムにおいては、ジョブをこなせるスキルに基づいて採用したり昇進させたりするわけではありません。濱口氏は同書の中でこう述べています。「新卒採用から定年退職までの長期間にわたり、企業が求めるさまざまな仕事をときには無理をしながらもこなしていってくれるだけの人材であるかどうかという全人格的判断がなされます」。すなわち、日本の働く女性たちは「数十年にわたって企業に忠誠心を持って働き続けられるかという『能力』が査定され、どんな長時間労働でもどんな遠方への転勤でも喜んで受け入れられるという『態度』が査定され、それができないようでは男性並みに扱われないのです」
このような「能力」と「態度」の度合いを表す日本的な職能資格は、やはり欧米社会から見ると、かなり異質に見えるのです。
解決策は、就活=「メンバーシップ型」、中途=「ジョブ型」
以上のような日本型雇用システムの問題解決策について、濱口氏は次のように解説しています。「日本型雇用システムの下で得をしているのは誰かといえば、もちろんスキルなどなくてもすいすいと企業が採用してくれる若者ですし、誰が損をしているかといえば、スキルや経験があっても採用されにくい中高年である(中略)それを前提に、できるだけ痛みを伴わない形で雇用システムの改革をしようとすれば、若者の入口はできるだけ今までどおりにし、中高年以降をジョブ型にシフトしていこうという議論になるはずです」
つまり、就活のシステムは従来の「メンバーシップ型」を維持し、中途採用については欧米の「ジョブ型」を採用するのが妥当ではないかという話です。
「女性が輝く社会」や「女性活躍」を掲げる安倍政権は、「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」の結果を含め、この問題についてどのように受け止めているのでしょうか。1986年に施行された男女雇用機会均等法以降、多重に錯綜する日本型雇用システムに振り回されている働く女性の早期の処遇改善が期待されます。
<参考文献、関連サイト>
・『働く女子の運命』(濱口桂一郎著、文藝春秋)
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166610624
・濱口桂一郎氏のブログ
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/
・内閣府男女共同参画局:ジェンダー・ギャップ指数(2016)
http://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2016/201701/201701_04.html
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