テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.09.07

ブラック企業と変わらない?「学校の先生」の実態

 劣悪な労働環境で、労働者にとってリスクの高い企業のことを「ブラック企業」と呼ぶことが今や当たり前となりました。

 企業以外でも「ブラック化」している現場が少なからずあるようです。そのひとつが、学校です。『ブラック化する学校』(前屋毅著、青春出版社)がその実態を伝えています。

少子化だから仕事は楽になっているのではないか

 「学校がブラック化している」というと首を傾げる方もいます。「少子化で子どもが減っているのだから楽になっているのではないか」という意見です。結論から言うと、この意見は間違っています。今、教師たちは大変な状況に立たされているのです。

平均的なビジネスマンより4時間長い

 よく取り沙汰される問題が「長時間労働」です。小・中学校の教員の平均労働時間は1日およそ13時間。これは日本の平均的なビジネスマンより4時間ほど多いことになります。

 1日13時間は、国際的にみても圧倒的に長時間で、日本の教員たちは他の先進国の平均より、1日あたり3時間も長く働いているのです。

長時間労働の原因ランキング

 何が長時間労働の原因となっているのでしょう。小学校、中学校それぞれ労働時間に占める割合から、上位をあげると以下になります。

<小学校の場合>
1位「保護者・地域からの要望等への対応」
2位「国や教育委員会からの調査対応」
3位「成績表・通知表の作成」
4位「児童・生徒の問題行動への対応」

<中学校の場合>
1位「児童・生徒の問題行動への対応」
2位「国や教育委員会からの調査対応」
3位「保護者・地域からの要望等への対応」

 先ほどの「少子化で子どもが減っているのだから楽になっているのではないか」という意見に対して間違いと伝えましたが、その理由が、このランキングから見えてきます。

いじめ、不登校、自殺、モンスターペアレント

 ランキングを見ると、小中学校ともに「児童や保護者への対応」に教師たちが長時間費やしていることが分かります。教師が仕事である以上、当然のことだと思われるかもしれませんが、少子化で子どもは少なくなってきている一方で、その分だけきめ細やかに生徒や保護者に対応する必要がでてきているのです。

 児童や保護者への対応の難しさは、いじめ、不登校、自殺、「障害」に認定される児童の増加、モンスターペアレント含め、学校をとりまく問題が増え続けていることから分かります。

年収80万円で生活保護を受けている教師もいる

 最後に、お金の話をします。教員の給与は、小・中・高の種別、地域、年齢によってかなり異なるので一概には言えませんが、リクナビNEXTジャーナルによると、平均して年収340万円ほどです(2014年12月~2015年11月に登録した会員のデータより)。お金の最大の問題は、他の企業と同様に正規と非正規にかなり大きな差があることだろうと思います。

 『ブラック化する学校』の著者・前屋毅氏によると、4人に1人が非正規である自治体も少なくなく、年収80万円で生活保護を受けながら働いている非正規の教員もいると述べています。

 劣悪な職場環境において、教師たちは本来の力を発揮できず、心を病む人も増えているそうです。ブラック化する学校で苦しむのは教師だけではありません。心の余裕を失った教師を前にして生徒たちも戸惑っています。それに対して前屋氏は、改善の第一歩は「現実を正しく知る」ことから始まると述べています。

 世の中ではブラックなものに対する感度が鋭くなっているように感じます。しかしながら、強烈な批判のわりには、実態の理解が深まっているとはいえません。これからは、知る・知らせることによりウェイトをかけることが必要といえるでしょう。

<参考文献・参考サイト>
・『ブラック化する学校』(前屋毅著、青春出版社)
・小・中・高でどのくらい異なるの?意外と知らない教師の年収
https://next.rikunabi.com/journal/entry/20160129_S1
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ニーチェ:超人、ニヒリズム…善悪は弱者の嫉妬心にすぎない

ニーチェ:超人、ニヒリズム…善悪は弱者の嫉妬心にすぎない

西洋哲学史の10人~哲学入門(10)ニーチェ 超人

ニーチェは牧師の家庭に生まれつつ、キリスト教の価値を全否定した。そこから見いだされた「強いニヒリズム」は、何が「善い」のかを価値付けするのが困難な中で、いかに現実と向き合うかを教えてくれる。こうした「超人」の思...
収録日:2018/02/09
追加日:2018/06/29
貫成人
専修大学文学部教授 文学博士
2

国際宇宙ステーション、スペースシャトルの意義と目的は?

国際宇宙ステーション、スペースシャトルの意義と目的は?

未来を知るための宇宙開発の歴史(5)冷戦の終了と変化する宇宙開発の目的

冷戦中は米国とソ連が国の威信をかけて宇宙開発に取り組み、それが技術の発展に寄与したことを見てきた。しかし冷戦が終了すると、宇宙開発の目的が問い直されることになる。そこで目的とされたのが「国際宇宙ステーション」で...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/08/19
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
3

プラトン「アカデメイア」の本質は自由な議論と哲学的探究

プラトン「アカデメイア」の本質は自由な議論と哲学的探究

「アカデメイア」から考える学びの意義(2)プラトンの学園アカデメイア

古代ギリシアでプラトンによって設立された学園アカデメイア。現代の学問共同体のモデルにもなっている「アカデメイア」とは、はたしてどのような場であったのか。政治や権力から独立を確保しつつ、人々が寝食をともにしながら...
収録日:2025/06/19
追加日:2025/08/20
納富信留
東京大学大学院人文社会系研究科教授
4

マルクスを理解するための4つの重要ポイント

マルクスを理解するための4つの重要ポイント

マルクス入門と資本主義の未来(1)マルクスとはどんな人物なのか

マルクスは世界で最も偉大な社会科学者の一人であるが、最近の学生の中には彼の思想に関して知らない人も増えてきているという。そこで、今回の講義ではまずマルクスを理解するための重要な点として、ユダヤ系ドイツ人という出...
収録日:2020/09/09
追加日:2020/12/24
橋爪大三郎
社会学者 東京科学大学名誉教授 大学院大学至善館教授
5

百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために

百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために

大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(4)百年後の日本人のために

硫黄島の戦いでの奇跡的な物語を深く探究したノンフィクション『大統領に告ぐ』。著者の門田隆将氏は、「読者の皆さんには、その場に身を置いて読んでほしい」と語る。硫黄島の洞窟の中で、自分が死ぬ意味を考えていた日本人将...
収録日:2025/07/09
追加日:2025/08/15
門田隆将
作家 ジャーナリスト