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DATE/ 2017.09.09

「コーヒーを飲むと長生き」が証明されつつある?

 日本に初めてできた喫茶店の名前、ご存じですか?東京下谷に1888(明治21)年に誕生したのが「可否茶館(かひさかん)」。残念ながら4年で店はたたまれたようですが、今も「日本最初の喫茶店『可否茶館』跡地」の碑が残されています。

 130年前に「可否」が当て字されたように、コーヒーをめぐっては「健康にいい」「わるい」の議論がずっと付き物になってきました。朝の目覚めや気分転換に、「一杯のコーヒーが欠かせない」という人が多い一方、「胃にわるい」「習慣性がある」などと、子どもの頃からおどかされてきた人も少なくないはず。そんな「コーヒー健康論争」に、世界の最先端医学が取り組んでいます。

1日にコーヒーを3杯以上飲むと死亡リスクが低減!?

 2017年7月、「コーヒーを飲むことの健康作用」について二つの論文がアメリカの内科学誌「Annals of Internal Medicine(AIM)」に掲載されました。内容をざっと見てみましょう。

 まず、欧州の10カ国(デンマーク、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、英国)に住む35歳以上の52万1330人を対象に、コーヒーと寿命の関係を調べたのが、インペリアル・カレッジ・ロンドンからの報告です。

 それによると、1日にコーヒーを3杯以上飲む男性は、コーヒーを飲まない男性と比較して、死亡のリスクが12%低下しているのです。女性では死亡のリスクが7%低下しました。平均追跡年数は16.4年。コーヒーと寿命の関係を調べた研究としては過去最大規模で、コーヒーと長寿に相関関係のある可能性が強くなっています。

 この調査では、肝臓病や男性の自殺、女性のがん、消化器疾患、循環器疾患について、1日3杯以上のコーヒーを飲む人のリスクが低いと報告されました。これはカフェインの有無とは無関係。カフェインレスでも、カフェイン入りと同じ結果が出ているのです。

人種を超えたコーヒーの摂取の有効性

 一方、ハワイ大学がんセンターでは、これまでのコーヒーと長寿研究の多くが米国の白人が対象だったことを受け、人種を超えた報告を行っています。内訳は日系アメリカ人(29%)、ラテン系アメリカ人(22%)、アフリカ系アメリカ人(17%)、ハワイ先住民(7%)、白人(25%)です。

 平均追跡年数16.2年の結果、日に2~4杯のコーヒーを飲む人は、コーヒーを飲まない人に比べて死亡リスクが18%低いという結果が出ました。多くの病気の発症には、ライフスタイルや遺伝子が関与していると言われますが、この結果は従来の白人を主対象とした結果とも一致しています。

 こちらもやはりカフェインの有無は無関係。特に心疾患、がん、呼吸器疾患、脳卒中、糖尿病、腎臓病については、死亡リスクとコーヒー消費が逆相関関係にあることが判明したのです。

抗酸化作用にコーヒーの秘密が?

 なぜコーヒーが死亡リスクを軽減させるのか。そのメカニズムはまだ分かっていませんが、研究者たちはコーヒーに含まれる抗酸化物質に注目しています。

 ポリフェノールとは、植物が自身を活性酸素から守るために作り出す物質で、抗酸化物質の代表。ネスレ日本によると、コーヒーには赤ワインと同じくらいたくさんのポリフェノールが含まれていて、カフェインより多いということです。

 体の錆びをもたらす「活性酸素」と戦うのがポリフェノール。抗酸化物質を日々摂取する食生活は、健康維持のために役立っている可能性があり、注目されています。

 ただし、今の段階では、コーヒーを好きではない人が無理をして飲む必要はないとのこと。好きな人は安心して飲みながら、続報に期待しましょう。

<参考サイト>
・CNN:コーヒーを飲むほど長生きの傾向 米欧で多民族・多国籍調査
https://www.cnn.co.jp/fringe/35104080.html
・毎日新聞 医療プレミア:長生きしたければコーヒーを飲もう?!
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20170725/med/00m/010/010000c
・ネスレ日本:ポリフェノールとコーヒー
http://www.nestle.co.jp/nhw/coffee/polyphenol
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