社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.09.12

クレーマーには定年後の「管理職」が多い?

 駅や図書館、コンビニやカフェなどで、そこで働くスタッフに対して、すごい剣幕で怒っている高齢の男性を見かけたことはありませんか。そのクレーマーの属性は、もしかすると、「定年後の元管理職」かもしれません。

なぜ、元管理職はクレーマーが多いのか

 『定年後 50歳からの生き方、終わり方』(楠木新著、中央公論新社)によると、クレーマーは元管理職の男性が多いのだそうです。著者の楠木氏は、取材を通じて、その理由について、元管理職の人たちは、定年後に会社を離れた後も、「かつて権限をもっていた当時の立場を忘れられないのではないか」という証言を得ています。

 それに加え、「日頃の生活に満足していない気分がクレームになって表に出ているのだろう」と推測しています。

家庭内クレーマーもいる?

 彼らのクレームは元同僚や家族に対しても及びます。 楠木氏がある企業2社の顧客対応の責任者に取材したところ、共通して「自社のOBからの厄介な苦情」があることが分かりました。

 また、別のメーカーのOB会の窓口を担当している人事担当者は、クレームとまではいわないまでも、「先輩だという姿勢で会社に対して要望をぶつけてくる」こともあり、現役の役員はそれを煙たがるため、OBと現役の間に挟まれて苦労しているそうです。

 「現役時に会社中心の考え方や生活が完璧に身についている人は、退職しても切り替えが難しい」ため、家庭でも「家の重要事項も誰にも相談せずに勝手に決め」、「意見などしようものならいつまでもネチネチと嫌味を言う」など、管理職のように振る舞う場合もあるとのこと。恐ろしいのは、当の本人たちにはまったく悪気がないということです。

日本人男性は世界一孤独

 定年後の元管理職にクレーマーが多いのは、彼らが「元管理職」だったことにもまして、「定年後」という状況に非常に戸惑っているからです。

 経済協力開発機構が2005年にまとめた調査報告書によると、日本人男性は仕事以外の日常生活において、友人や仲間と過ごすことが「全くない」「ほとんどない」が16.7パーセントと最多で、世界一孤立していることが明らかになりました。

 ただし、この結果が示しているのは、「仕事以外」においての社会的孤立度なので、仕事が中心の現役時代は、日本人男性もさして孤独は感じていないのかもしれません。彼らが世界一孤独になるのは、まさに仕事以外が中心となる「定年後」のことになります。

 孤独にならない・させないための指南書として書かれたのが本書 『定年後』です。著者の楠木氏は47歳の時、会社生活に行き詰まって体調を崩し、長期間休職したそうです。休職中、「自分がいかに会社にぶら下がっていたか」ということに気づき、それが定年後の「予行演習」になったと語っています。

 会社員であれば、誰にでも定年はやってきます。まだ定年前という方は、早めに定年後を見据えたライフスタイルを考えてみるといいのではないでしょうか。


<参考文献・参考サイト>
『定年後 50歳からの生き方、終わり方』(楠木新著、中央公論新社
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/04/102431.html

『定年後』楠木新さん | YOMIURI ONLINE
http://www.yomiuri.co.jp/life/book/raiten/20170703-OYT8T50067.html

<関連サイト>
楠木新氏のブログ
http://blog.livedoor.jp/kusunoki224/

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか

葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか

葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化

浮世絵を中心に日本画においてさまざまな絵画表現の礎を築いた葛飾北斎。『富嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」が特に有名だが、それを描いた70代に至るまでの変遷が実に興味深い。北斎とその娘・応為の作品そして彼らの生涯を深...
収録日:2025/10/29
追加日:2025/12/05
堀口茉純
歴史作家 江戸風俗研究家
2

夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは

夜まとめて寝なくてもいい!?「分割睡眠」という方法とは

熟睡できる環境・習慣とは(4)起きているときを充実させるために

「腸脳相関」という言葉がある。健康には腸内環境が大切といわれるが、腸で重要な役割をしている物質が脳にも存在することが分かっている。「バランスの良い食事」が健康ひいては睡眠にも大切なのは、このためだ。人生は寝るた...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/12/14
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授
3

平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?

平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?

平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想

平和は、いかにすれば実現できるのか――古今東西さまざまに議論されてきた。リアリズム、強力な世界政府、国家連合・連邦制、国連主義……。さまざまな構想が生み出されてきたが、ここで考えなければならないのは「平和」だけで良...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/08
川出良枝
東京大学名誉教授 放送大学教養学部教授
4

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制

「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く

自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く

禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅

大学院を中退して禅の道に進み、アメリカ東海岸で18年間禅堂を開いた藤田一照師に、禅と仏教の心について話を聞いていく。アメリカの禅にはすでに百年近い歴史があり、最初に鈴木大拙が伝えたといわれている。その後、一時はカ...
収録日:2024/08/09
追加日:2025/01/13
藤田一照
曹洞宗僧侶