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成人の日に毎年放送されていた「国民的番組」を振り返る
日本の国民的番組と言えば、大みそかに放送される「紅白歌合戦」(以下、「紅白」)です。1951年に放送が始まり、歴代最高視聴率は第14回(1963年)のなんと81.4%、第66回(2015年)に記録した過去最低の視聴率でも39.2%に達しています。2017年は第1部35.1%、第2部40.2%でした。
「紅白」の他にも、かつて国民的番組として認識されていたテレビ番組があったことをご存知でしょうか。それはNHK「青年の主張」です。
『青年の主張 まなざしのメディア史』(佐藤卓己著、河出書房新社)では、「紅白」が国民にとっての「安住の地(ホーム)」であるのに対して、「青年の主張」は国民が求める理想や夢、すなわち「近接未来(ヴィジョン)」を供給していたのではないかと紹介しています。
著者の佐藤氏は京都大学大学院教育学研究科教授で、専攻はメディア史、文化大衆論です。主な著書に、サントリー学芸賞、日本出版学会賞を受賞した『「キング」の時代―国民大衆雑誌の公共性』(岩波書店)、吉田茂賞を受賞した『言論統制』(中央公論新社)などがあります。
とはいえ、視聴率でいえば、「紅白」とは比べものになりません。それにもかかわらず、どうして「青年の主張」は「紅白」と肩を並べて国民的番組として認知されていたのでしょう。
その答えはいたってシンプルです。実は、この番組には「『国民の象徴』たる皇室からの臨席があった」のです。1963年からは当時皇太子夫妻(現・明仁天皇、美智子皇后)が87年に代替わりするまで臨席し続けました。
つまり、およそ四半世紀にわたって今上天皇、皇后が出席する番組ということで、まさに「『象徴』的に『国民的番組』として認知されるようになっていた」ということです。
ところが、今上天皇、皇后両陛下が列席を退いた後の「青春メッセージ」を国民的番組と受け取る視聴者は少なかったようです。
ここに天皇の象徴としての影響力の強さをみることができます。結局、2005年の放送を最後に打ち切られてしまいました。
前掲書の著者・佐藤氏によると、「青年の主張」は、一見すると若者に寄り添った番組に思えますが、実は「自分たちにとって都合のよい若者を優しく見つめる大人のまなざし」が色濃く反映されており、番組で語られる美談は若い視聴者にとってはむしろ「居心地の悪さ」を感じさせる内容だったのではないかと指摘しています。
実際に「青春メッセージ」が打ち切りになった年、元NHKのプロデューサー・萩野靖乃氏は「『感心した』『もらい泣きした』と手紙を寄せる視聴者は、お年寄りばかりになっていた」と証言しています。
「青年の主張」に限らず、昨今の若者のマスメディア離れの原因は、彼らに対する大人たちの偏ったまなざしに原因があるのかもしれません。
世代間の分断は、高齢化社会を迎え、世代別人口の差が大きくなるにつれて、今後、社会問題としても深刻化していくでしょう。
佐藤氏も述べていることですが、若者にはそれぞれの世代で「それぞれの幸福と不幸」があります。それを踏まえることなく、上の世代が自分の都合に合わせて身勝手な夢や期待、責任を押し付けたり、あるいは若者の「進歩」や「堕落」を乱暴に語るのは避けるべきではないでしょうか。
「紅白」の他にも、かつて国民的番組として認識されていたテレビ番組があったことをご存知でしょうか。それはNHK「青年の主張」です。
ホームの「紅白」、「ヴィジョン」の「青年の主張」
「青年の主張」は、貧困、農村、学歴、職業差別といったテーマをもとに、若者が理想や夢を主張するNHK主催の弁論コンテストです。まずは1955年の第1回全国大会がラジオ放送として始まり、1960年の第6回全国大会からテレビでも放送されるようになり、毎年、成人の日に放送されていました。『青年の主張 まなざしのメディア史』(佐藤卓己著、河出書房新社)では、「紅白」が国民にとっての「安住の地(ホーム)」であるのに対して、「青年の主張」は国民が求める理想や夢、すなわち「近接未来(ヴィジョン)」を供給していたのではないかと紹介しています。
著者の佐藤氏は京都大学大学院教育学研究科教授で、専攻はメディア史、文化大衆論です。主な著書に、サントリー学芸賞、日本出版学会賞を受賞した『「キング」の時代―国民大衆雑誌の公共性』(岩波書店)、吉田茂賞を受賞した『言論統制』(中央公論新社)などがあります。
国民的番組になったワケ
視聴率は15%ほどを維持していました。番組内容が弁論コンテストであることを考えると異常な高視聴率だったといえます。とはいえ、視聴率でいえば、「紅白」とは比べものになりません。それにもかかわらず、どうして「青年の主張」は「紅白」と肩を並べて国民的番組として認知されていたのでしょう。
その答えはいたってシンプルです。実は、この番組には「『国民の象徴』たる皇室からの臨席があった」のです。1963年からは当時皇太子夫妻(現・明仁天皇、美智子皇后)が87年に代替わりするまで臨席し続けました。
つまり、およそ四半世紀にわたって今上天皇、皇后が出席する番組ということで、まさに「『象徴』的に『国民的番組』として認知されるようになっていた」ということです。
天皇・皇后の象徴としての力
美智子妃が皇后となった平成改元とともに「青年の主張」は幕を閉じ、「青春メッセージ」に改題されました。「青春メッセージ」には、皇室から現皇太子妃が出席しました。ところが、今上天皇、皇后両陛下が列席を退いた後の「青春メッセージ」を国民的番組と受け取る視聴者は少なかったようです。
ここに天皇の象徴としての影響力の強さをみることができます。結局、2005年の放送を最後に打ち切られてしまいました。
自分たちにとって都合のよい大人のまなざし
もちろん、番組が打ち切りになったのは、両陛下が出席しなくなったことだけが理由ではありません。そもそも番組の内容自体がある矛盾を孕んでいました。前掲書の著者・佐藤氏によると、「青年の主張」は、一見すると若者に寄り添った番組に思えますが、実は「自分たちにとって都合のよい若者を優しく見つめる大人のまなざし」が色濃く反映されており、番組で語られる美談は若い視聴者にとってはむしろ「居心地の悪さ」を感じさせる内容だったのではないかと指摘しています。
実際に「青春メッセージ」が打ち切りになった年、元NHKのプロデューサー・萩野靖乃氏は「『感心した』『もらい泣きした』と手紙を寄せる視聴者は、お年寄りばかりになっていた」と証言しています。
「青年の主張」に限らず、昨今の若者のマスメディア離れの原因は、彼らに対する大人たちの偏ったまなざしに原因があるのかもしれません。
世代間の分断は、高齢化社会を迎え、世代別人口の差が大きくなるにつれて、今後、社会問題としても深刻化していくでしょう。
佐藤氏も述べていることですが、若者にはそれぞれの世代で「それぞれの幸福と不幸」があります。それを踏まえることなく、上の世代が自分の都合に合わせて身勝手な夢や期待、責任を押し付けたり、あるいは若者の「進歩」や「堕落」を乱暴に語るのは避けるべきではないでしょうか。
<参考文献>
『青年の主張 まなざしのメディア史』(佐藤卓己著、河出書房新社)
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309625003/
<関連サイト>
佐藤卓己研究室ホームページ
http://www12.plala.or.jp/stakumi/
『青年の主張 まなざしのメディア史』(佐藤卓己著、河出書房新社)
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309625003/
<関連サイト>
佐藤卓己研究室ホームページ
http://www12.plala.or.jp/stakumi/
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