テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.11.26

なぜ「無能」な人が出世して上司になるのか?

 自分が勤務している会社で、あるいは、取引先などで「どうしてこの人は出世できたんだろう?」とか、「なんでこんなに使えない上司ばかりなんだろう?」と疑問を持ったことはありませんか。

 実は、そうした無能な上司たちは決して珍しい存在ではなく、ある程度の規模の組織であれば、どこにでもいると言えるのです。

 そのメカニズムは、「ピーターの法則」という理論によって説明することができます。

 今回は、この「ピーターの法則」とは何か、そして、どうすれば人材の無能化を防ぐことができるのかをリサーチしました。

成果主義の欠陥を指摘した「ピーターの法則」

 「ピーターの法則」は、南カルフォルニア大学教授の教育学者ローレンス・J・ピーターが1969年に提唱した社会学の法則です。ピーターの法則は成果主義の欠陥を指摘した理論としてよく知られています。

 「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ)によると、ピーターの法則は、以下の3点に要約することができます。

(1)能力主義の階層社会では人は能力の限界まで出世し、有能なスタッフは無能な管理職になる
(2)時が経つにつれ無能な人はその地位に落ち着き、有能な人は無能な管理職の地位に落ち着く。その結果、各階層は無能な人で埋め尽くされる
(3)ゆえに組織の仕事は、出世余地のある無能レベルに達していない人によって遂行される

 一言で言うと、たとえどんなに有能なビジネスパーソンでも限界まで出世すると無能になってしまうということです。さらに言えば、多くの社員が限界まで昇進し、「昇進を控える人が少なくなればなるほど、組織の仕事の遂行能力は低下する」ことになります。ここに成果主義の欠陥があるのです。

有能だった社員が出世後も有能とは限らない

 「プレジデント オンライン」では、「ピーターの法則」について次のように説明しています。

 「ピーターの法則」とは、「階層社会では、すべての人は昇進を重ねても職務遂行能力はともなわない」「すべての人は、いずれはその人の『無能レベル』に到達し、やがてあらゆる地位は職責を果たせない無能な人間で占められる」というもの。

 「たとえば、教師として生徒に教えるのが上手な先生が、管理職である教頭先生になっても、教頭先生として有能かどうかはわからないということだ」ということで、会社に当てはめると、「有能だった社員が出世後も有能とは限らない」となります。

 なんとなく、「ピーターの法則」の内容がつかめてきたのではないでしょうか。ここで問題になるのは、どうすれば「ピーターの法則」から逃れられるのかという点です。

ランダムに昇進させたほうが組織は効率化する

 「プレジデント オンライン」において、東京大学大学院経済学研究科教授の高橋伸夫氏は「ピーターの法則」を打ち破る方法として、「2000年のイグノーベル賞経営学賞を受賞した、イタリア・カターニア大学のチームが行ったシミュレーション」を紹介しています。それは「成果主義より、社員をランダムに昇進させたほうが組織は効率化する」ということを証明したシミュレーションです。

 繰り返しになりますが、成果主義に基づいて「一番成績のいい社員」を昇進させていくと「ピーターの法則」に陥って、社員は無能化していく可能性があります。そこで、上のシミュレーションでは、あくでもコンピュータ上の実験結果ではありますが、「ランダムに昇進させる」という戦略を採用したところ、「結論として、組織はランダム昇進を選択する=サイコロを振って出世を決めることが、効率化への近道となる」ことが分かりました。

 この記事のまとめとして、高橋教授は、「優秀な営業マンが優秀な営業課長になるとは限らないし」「選手としてイマイチ成績が振るわなくても、監督やコーチになって才能を発揮する人は大勢いる」として「適材適所」の大切さを指摘しています。

 今回のコラムのタイトルは『なぜ「無能」な人が出世できるのか?』となっています。

 「どうしてこの人は無能なのに、出世できたんだろう?」という疑問に応えるためにこのタイトルになっているわけですが、ここまで読んだ方はご承知の通り、実際は、無能な人が出世しているわけではなく、組織内では出世することによって有能な人が無能になるという、恐ろしいことが起こっていることが分かりました。

 問題は成果主義にあるともいえますが、とはいえ、もちろん成果主義のすべてが間違っているわけではないでしょう。高橋教授の指摘した「適材適所」と成果主義を結びつける方法もあるかもしれません。

 もちろん、出世しても有能な人はいるわけですが、いずれにしても組織づくり、働き方を考えるうえで「ピーターの法則」は頭に入れておいてもいいでしょう。


<参考サイト>
・ビジネス+IT:「ハロー効果」と「ピーターの法則」で解説、出世した有能な人が無能になるメカニズム
https://www.sbbit.jp/article/cont1/32112
・プレジデント オンライン:出世は“仕事の成果と関係なく”決まる
http://president.jp/articles/-/20695
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

人間はどうやって「理解する」のか?『学力喪失』から考える

人間はどうやって「理解する」のか?『学力喪失』から考える

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち

たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
2

一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界

一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界

習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?

「習近平中国」「習近平時代」における中国内政の特徴を見る上では、それ以前との比較が欠かせない。「中国は、毛沢東により立ち上がり、鄧小平により豊かになり、そして習近平により強くなる」という彼自身の言葉通りの路線が...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/09/25
垂秀夫
元日本国駐中華人民共和国特命全権大使
3

軍政から民政へ、なぜ李登輝はこの難業に成功したのか

軍政から民政へ、なぜ李登輝はこの難業に成功したのか

クーデターの条件~台湾を事例に考える(4)クーデター後の民政移管とその方策

台湾でのクーデターを想定したとき、重要になるのがその成功後の民政移管である。それは民主主義を標榜する民進党の正統性を保つためであるが、それはいったいどのように果たされうるのか。一度は民主化に成功した李登輝政権時...
収録日:2025/07/23
追加日:2025/10/11
上杉勇司
早稲田大学国際教養学部・国際コミュニケーション研究科教授 沖縄平和協力センター副理事長
4

仕事をするのに「年齢」は関係ない…不幸を招く定年型思考

仕事をするのに「年齢」は関係ない…不幸を招く定年型思考

『還暦からの底力』に学ぶ人生100年時代の生き方(1)定年制は要らない

新著『還暦からの底力』のなかには、「人生100年時代」を幸せに送るためのヒントが詰まっている。今回のシリーズでは、その本をもとに考え方の軸を根本から変える秘訣を伺った。その一つが「定年型社会」に対する提言だ。本人が...
収録日:2020/06/30
追加日:2020/08/01
出口治明
立命館アジア太平洋大学(APU)学長特命補佐
5

伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」

伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」

伊能忠敬に学ぶ「第二の人生」の生き方(1)少年時代

伊能忠敬の生涯を通して第二の人生の生き方、セカンドキャリアについて考えるシリーズ講話。九十九里の大きな漁師宿に生まれ育った忠敬だが、船稼業に向かない父親と親方である祖父との板ばさみに悩む少年時代だった。複雑な家...
収録日:2020/01/09
追加日:2020/03/01