社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
若年層にも広がる腰痛…その意外な原因とは?
日本人の死因のトップ3は、がん、心疾患、肺炎であることは、よくご存知のとおりですが、死に至る病ではなくても、時には「死にそう」とまで多くの人を悩まされているのが「腰痛」です。日本人の90パーセント以上が一生に一度は腰痛を経験し、慢性的に腰痛に悩まされている人も多数います。腰痛は、単なる腰の痛みと捉えるのではなく、全身の健康に深く関わっていることを知ると、まさに腰痛は日本人のQOL(生活の質)を脅かしかねない国民病の一つと言えるでしょう。
さらに、EMBだけでは不十分ということで重視されてきているのがNBM、対話に重きをおく医療です。NBMとはNarrative-based Medicineの略。患者の感情や個人的、社会的環境も症状に深く関係しているという観点から、患者との対話を通して治療に生かそうとする手法です。
本来、薬効成分のない薬を投与しても病気がよくなったり、あるいは治ったりする「プラシーボ(偽薬)効果」ということばを聞いたことがあるかもしれませんが、これは「病は気から」の積極活用。NBMは、数字やデータだけでは読み取れない部分を患者と医師の対話によりすくいとり、治療に結びつけているのです。
心的、社会的な要因が関与しているというのは、高齢者だけでなく若年層にも腰痛を訴える人が多いこと、しかも「ぎっくり腰」のような急性の症状だけでなく、3ケ月以上続く慢性症状、なかには「腰痛歴○年」と長期の症状を抱えている若者が増えていることでも明らかです。
長年の締切に追われる生活や、前作よりもっと良い作品をと求め続けられる人気作家ゆえの、内的な抑圧が「地獄の苦しみ」とまで表現される腰痛として、3年間夏樹氏を苦しめていたのです。結果、「夏樹静子」を捨て、解放されることで、その腰痛はうそのように消えたと言います。腰痛は、夏樹氏の心、脳が作り出しているものだったのです。
夏樹氏の例はかなり極端なケースかもしれませんが、社会生活を営む以上、誰しもその環境にさまざまな影響を受けることは必須。学生から社会人となり、新たな人間関係や仕事のうずに巻きこまれていくことで、今まで経験したことのなかった腰痛に悩む若い方もいるかもしれません。もとより、腰痛の元凶は多種多様です。「なかなか治らない。何が原因か分からない」と思ったら、整形外科だけではなく、内科や脳神経外科、心療内科受診という選択も視野にいれた方がよさそうです。
腰痛治療で注目される対話効果
最近では、腰痛に対する考え方が大きく変化し、それに伴い治療法もさまざまに進化している、と語るのは福島県立医科大学理事長兼学長の菊地臣一氏です。菊池氏によれば、治療の変化の第一はEBM(根拠に基づいた医療)の導入にあります。つまり、患者のデータを定量化する臨床疫学の手法に基づいて結論を導きだすのです。さらに、EMBだけでは不十分ということで重視されてきているのがNBM、対話に重きをおく医療です。NBMとはNarrative-based Medicineの略。患者の感情や個人的、社会的環境も症状に深く関係しているという観点から、患者との対話を通して治療に生かそうとする手法です。
本来、薬効成分のない薬を投与しても病気がよくなったり、あるいは治ったりする「プラシーボ(偽薬)効果」ということばを聞いたことがあるかもしれませんが、これは「病は気から」の積極活用。NBMは、数字やデータだけでは読み取れない部分を患者と医師の対話によりすくいとり、治療に結びつけているのです。
腰痛の原因は、意外なところに潜んでいる
このようなNBMへの着目の背景には、腰痛がいわゆる「脊椎の障害」を原因とするものだけではなく、心理的、あるいは社会的因子が深く関係した症状であるという認識が一般的になってきたことが挙げられます。すなわち、人間関係のトラブルを抱えている、職場でのストレスが大きい、仕事上のプレッシャーが半端でない等々、一見、脊椎の異常とは関係がなさそうな因子が、腰痛を引き起こしているケースが実は非常に多いということが分かってきました。心的、社会的な要因が関与しているというのは、高齢者だけでなく若年層にも腰痛を訴える人が多いこと、しかも「ぎっくり腰」のような急性の症状だけでなく、3ケ月以上続く慢性症状、なかには「腰痛歴○年」と長期の症状を抱えている若者が増えていることでも明らかです。
作家・夏樹静子の地獄の痛みはいかにして消え去ったのか
ここで思い出されるのが、作家・夏樹静子氏の腰痛体験です。『Wの悲劇』などのミステリー作家として知られる夏樹氏は数々のヒット作を生みだす一方で、ひどい腰痛に悩まされていました。年々ひどくなる腰痛をなんとかしたいと、病院を渡り歩き、整形外科で埒があかないならと、試した治療法は漢方薬、鍼灸に温灸、水泳療法に音響療法、断食法。さらには霊媒師にみてもらったことさえあったそうです。それでも、原因不明の腰痛がよくなることはなく、立っても座っても、寝ていても激しい痛みが襲ってくる。最後にかかった心療内科で医師との対話を重ねたなかで、言い渡された言葉は「夏樹静子を捨てなさい。夏樹静子の葬式を出しましょう」でした。長年の締切に追われる生活や、前作よりもっと良い作品をと求め続けられる人気作家ゆえの、内的な抑圧が「地獄の苦しみ」とまで表現される腰痛として、3年間夏樹氏を苦しめていたのです。結果、「夏樹静子」を捨て、解放されることで、その腰痛はうそのように消えたと言います。腰痛は、夏樹氏の心、脳が作り出しているものだったのです。
夏樹氏の例はかなり極端なケースかもしれませんが、社会生活を営む以上、誰しもその環境にさまざまな影響を受けることは必須。学生から社会人となり、新たな人間関係や仕事のうずに巻きこまれていくことで、今まで経験したことのなかった腰痛に悩む若い方もいるかもしれません。もとより、腰痛の元凶は多種多様です。「なかなか治らない。何が原因か分からない」と思ったら、整形外科だけではなく、内科や脳神経外科、心療内科受診という選択も視野にいれた方がよさそうです。
<参考文献>
・『腰痛放浪記 椅子がこわい』(夏樹静子著、新潮社)
・『腰痛放浪記 椅子がこわい』(夏樹静子著、新潮社)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
「信頼できない語り手」とは?村上春樹の謎に迫る文芸批評
AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(4)村上春樹の謎と信頼できない語り手
加藤典洋氏の代表作の1つに、村上春樹の作品を詳細に分析した『村上春樹イエローページ』がある。加藤氏は当時まだ評価が高くなかった村上作品を初期から高く評価していたが、それはなぜか。そこには文芸批評の用語である「信頼...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/07/16
ハミルトン経済学の継承者クレイのビジョンと歴史的影響
米国派経済学の礎…ハミルトンとクレイ(2)クレイの米国システム
歴史への回帰――トランプ第2次政権がその復活を標榜するのは、1820年代に登場したヘンリー・クレイの「米国システム」だった。そこには高関税、国内インフラの開発、第二合衆国銀行の設立という3つの柱があった。それによって、1...
収録日:2025/05/15
追加日:2025/07/15
胆のう結石、胆のうポリープ…胆のうの仕組みと治療の実際
胆のうの病気~続・がんと治療の基礎知識(1)胆のうの役割と胆石治療
消化にとって重要な臓器「胆のう」。この胆のうにはどのような仕組みがあり、どのような病気になる可能性があるのだろうか。その機能、役割についてあまり知る機会のない胆のう。「サイレントストーン」とも呼ばれる、見つけづ...
収録日:2024/07/19
追加日:2025/07/14
青春期は脳のお試し期間!?社会的ニッチェと信頼の形成へ
今どきの若者たちのからだ、心、社会(2)思春期の成長、青春の脳
思春期にからだが急激に成長することを「思春期のスパート」と呼ぶ。先行して大きくなった脳にからだを追いつかせるための戦略である。脳はそれ以上大きくならないが、脳内の配線が変化する。そうした青春期の脳の実態を知るた...
収録日:2024/11/27
追加日:2025/07/12
最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか
第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ
反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28