社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.06.25

なぜ「野球くじ」はダメなのか?

 先ごろ、早ければ2019年から導入すると言われていた「野球くじ」の導入が当面見送られることが報道されました。

 なぜ、「野球くじ」はなかなか始まらないのでしょう。同じ人気スポーツのサッカーくじがもう10年以上も前から実施されていることを考えると、とても不思議ではありませんか。

戦後の野球くじと黒い霧事件

 じつは野球くじ、今までまったくなかったわけではありません。戦後すぐに発売されたことがあったのです。しかし、数年で廃止。その後も1964年の東京五輪の際、資金調達のために導入が検討されましたが、実現されませんでした。

 そんなに前から検討されていたのなら、もうすこし早く実現してもいいはずですが、それを大きく阻んだのが八百長事件です。1969年に発覚した一連の八百長事件、いわゆる黒い霧事件がいまだに尾を引いているようなのです。

延期は金銭面が問題?

 近年も、プロ野球の選手らによる野球賭博事件がセンセーショナルに取り上げられたことがありましたが、このような野球くじの歴史を踏まえて考えてみると、野球界がくじの導入に慎重にならざるを得ないのは納得できます。

 今回、野球くじの導入が延期された理由については、スポーツ議員連盟と日本野球機構が議論した結果、金銭面で折り合いがつかなかったとされています。

アメリカでもスポーツ賭博解禁の機運が?

 日本と親密な関係にあり、スポーツの交流もさかんなアメリカで今、スポーツ賭博が大きな話題を呼んでいます。というのも実は、2018年5月に米国の連邦裁判所がスポーツ賭博を禁止するPASPA法を違憲とし、米国ではスポーツ賭博が解禁に向かっている渦中にあるのです。

 しかし、問題はそう単純ではありません。ここではプロ野球の参考になる例として大リーグを取り上げますが、大リーグもプロ野球と同じく八百長事件でファンに大きな失望をもたらした歴史があります。とりわけ史上最強打者と言われたピート・ローズが八百長に関与し、永久追放となった事件は衝撃的でした。それもあって、米国の野球界もスポーツ賭博の導入にはかなり慎重なようです。

 話をもどして、日本では野球くじを導入するか否かが注目されていますが、本来のポイントは、導入の目的となるスポーツ振興に寄与できるか否かです。野球くじの導入が八百長を招き、ファンを失望させてスポーツ振興とは程遠い結果となってしまっては本末転倒です。

 したがって、今回の延期は決してネガティブに捉えることはないでしょう。導入するためにまずは八百長が起こらないための仕組みづくりを徹底すべきです。そうでなければ、野球くじは一時的な効果しかあげられず、結局はファン離れをさらに加速させてしまうことになるかもしれません。ともあれ、もし、くじの導入が決まれば、野球観戦がよりエキサイティングになるのはまちがいないでしょう。

<参考サイト>
・朝日新聞DEGITAL:プロ野球くじ当面見送り NPBと議連折り合いつかず
https://www.asahi.com/articles/ASL647J45L64UTQP02P.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍

習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴

国際社会における中国の動きに注目が集まっている。新冷戦ともいわれる米中摩擦が激化する中、2021年7月に中国共産党は創立100周年を迎えた。毛沢東以来、初めて「思想」という言葉を党規約に盛り込んだ習近平。彼が唱える「中...
収録日:2021/07/07
追加日:2021/09/07
小原雅博
東京大学名誉教授
2

史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?

史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?

歴史の探り方、活かし方(4)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈上〉

実際に史料をどうやって読み解いていけばいいのか。今回から具体的な史料の読み解き方をケース・スタディしていく。最初は『太閤記』に関する参考資料を用いて、太閤・豊臣秀吉と関白・秀次の関係を考える。そもそも『太閤記』...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/22
3

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観

岡本浩氏、長谷川敏彦氏の話を受けて、今回から鎌田氏による講義となる。まず指摘するのは、空海が説く『弁顕密二教論』の考え方である。この著書で空海は、仏教の顕教は「中論」「唯識論」「空観」など世界を分割して見ていく...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/20
4

ギャングの代わりに弁護士!? 壮絶なアメリカ労働史の変遷

ギャングの代わりに弁護士!? 壮絶なアメリカ労働史の変遷

内側から見たアメリカと日本(4)アメリカ労働史とトランプ支持層

労働経済を学んでいた島田氏は、ウィスコンシン大学留学中、労働者の教化運動に参加している。アメリカ産業史を学習する中、労働運動の実態を触れ、ウォルター・ルーサーとヘンリー・フォードの熾烈な闘いを知ったからだ。労働...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/18
5

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授