社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
高齢化社会の原因と対策を考える
重層的な高齢化社会の原因
今や、「高齢化先進国」とまで言われるほど高齢化が進んでいる日本ですが、高齢化社会の問題は世界においても、少なくとも先進国の間では共通の問題です。もちろん、その原因はさまざまに考えられるのですが、大きな歴史的観点からみれば、文明の発達により人類がその日一日を生き延びることに必死だった時代を終え、飢餓から脱出したこと、またさまざまな医療技術、制度の進化が挙げられるでしょう。加えて、寿命の延伸だけでなく、後に続く世代数の減少、すなわち未婚化・少子化も結果的に高齢化社会の原因となっています。少子化については、世界的な傾向からいえば避妊の確実性が高まったことも一因であるとされています。また、未婚化については特に先進国では生涯独身でいてもさほど困らずに生活できるサービスやシステムが整っていることなどが原因の一つと言われています。衣食住の各分野で充実している代行サービスを駆使すれば、メンタル面はともかくとして実生活で困ることはほとんどないというのが実情です。
また、日本では改善策が議論されているとはいえ、女性が出産、育児を経て仕事を続けていくことにまだ困難が多く、したがって結婚、出産を控える人が多いということも原因の上位を占めているようです。他にも、男女共に所得格差の問題で結婚に踏みきれない人も多いなど、一口に「高齢化社会」の問題といっても、実に原因は重層的になっています。
発想の転換で高齢化社会対策を考える
原因が重層的であるだけに、その対策も多方面から検討しなければなりません。医療や社会保障制度の見直し、またこれらの問題に直結する財政赤字再建といった抜本的構造改革は必須であり急務です。加えて、ちょっと発想を転換して、「高齢化社会」を困ったこと、厄介な問題としてのみ捉えるのではなく、元気なシニア層による「新しい社会像創造のチャンス」と、捉えることも必要なのではないでしょうか。実際に、高齢者が自立して、かつ社会とのつながりも維持していける生活の実現を目指し、具体的なプロジェクトが推進されています。東京大学高齢社会総合研究機構特任教授秋山弘子氏を中心とした、千葉県柏市における長寿社会のまちづくりの試みです。
新たなコミュニティー構想
高齢化社会対応のまちづくりの舞台として選ばれたのは、典型的な郊外のベッドタウン千葉県柏市の駅から徒歩15分ほどのところにある豊四季台団地です。築50年ほどのこの団地は居住者の約40パーセントが高齢者という、いわば近未来の日本社会の縮図であり、実験的プロジェクトの推進には格好のモデルというわけです。秋山氏たちのチームは、まず老朽化した5階建て団地の建て替えからスタートしました。10~14階建ての高層ビルにして、もちろんエレベーター完備、バリアフリー対策も万全です。画期的なのは、建物を個別の居住空間の集合体としてではなく、今後そこに出現する新たなコミュニティーの拠点として構想したことです。
例えば、建物の高層化によって生まれた空き地を利用して、高齢者施設を新設することを考えました。団地の真ん中に在宅医療の拠点や皆が集まって食事ができるコミュニティー食堂を提案。一人暮らしの若い人も食堂を利用できるので、そこで自ずと多世代間の会話が生まれるということも期待できます。「高齢者施設」というよりコミュニティー全体のダイニングルームという発想です。当然のことながら、介護施設やサービス付きの高齢者住宅も構想に含まれています。
就労プロジェクトと二人三脚で推進
また、このプロジェクトのモットーが、高齢者の自立期間の延長を目指した「全員参加・生涯参加」であることも特徴の一つです。弱者を保護するだけでなく、今持っている力を衰えさせない、できるだけ長い間活用していく、ということです。そのため、秋山氏は高齢者向け施設といったハードウェアだけでなく、セカンドライフの就労プロジェクトも並行して始めたと言います。仕事はリタイアしても、なんらかの仕事を続けたいという意志を示す人が非常に多いからです。それはあながち経済的事情によるものばかりでもなく、いくつになっても社会の一員でありたい、という気もちの表れのようで、そのため秋山氏らは団地から通いやすいところに、多くの仕事場を創出しようと計画しているそうです。今後は、高齢者を「弱者」に留めるのではなく、今もつ力を最大限に活用する、そしてその期間をできるだけ長くする、といった超高齢化社会日本ならではの試みが、積極的に行われていくことに期待したいと思います。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
「歴史を探索していく」とは、どういうことなのだろうか。また、「歴史を活かしていく」とはどういうことなのだろうか。歴史作家の中村彰彦氏に、歴史を探り、活かしていく方法論を、具体的に教えてもらう本講義。第一話は、歴...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/14
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
「ワット・ビット連携」の概念がある。これは神経と血管の関係にも似ており、両者が密接に関係するところから、それをもとに人間の本質について考察していくことになる。また、中村天風の思想から着想を得て、人間の心には霊性...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/13
なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ
編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?
「何回説明しても伝わらない」「こちらの意図とまったく違うように理解されてしまった」……。そんなことは、日常茶飯事です。しかしだからといって、相手を責めるのは大間違いでは? いやむしろ、わが身を振り返って考えないと...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/13
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02


