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DATE/ 2018.08.21

高齢者に増える筋力低下の恐怖と予防

 全身の筋肉量が減少する「サルコペニア」は、「寝たきり」の原因のなかでも大きな割合を占めています。老年医学の専門家で、2017年にはIAGG(国際老年学会議)のpresidential award(会長賞)を受賞された国家公務員共済組合連合会虎の門病院院長の大内尉義氏によると、今最も注目されることばは「サルコペニア」と「フレイル」。その意味合いや予防方法について大内氏にお聞きしましたので、お伝えいたします。

「寝たきり」になる境界線はあるのだろうか

 日本は2010年に65歳以上人口が21%を超える「超高齢化社会」に突入しています。さらに18年3月には、75歳以上の人口が1770万人と、65~74歳の1764万人を上回りました。長生きは喜ばしいことですが、なるべく介護されない健康な状態を長く保つことが、次の課題となっています。

 お年寄りの身体状態が衰え、足腰が弱くなり、食が細くなっていくことは、これまで「年齢のせいだ」と諦められてきました。これは寝たきりに向かう下り坂のコースでもあり、要介護と健常の間のゾーンとして、最近は「フレイル」の名で呼ばれています。

 一方で、85歳を超えても元気によく動き、自立した社会生活を営んでいる健康長寿の方々も、身の回りには増えてきています。

 両者の間では一体何が違うのでしょうか。フレイルのうち、身体的な症状の中心となるサルコペニアの状態をみれば、「筋肉の減少」が大きな違いであることが分かります。

足の細いあなたはサルコペニア予備軍?

 サルコペニアは、加齢や疾患により筋肉量が減少することで、握力や下肢筋・体幹筋など全身の筋力低下が起こることを指します。日常生活では「歩く速度が低下する」「転倒・骨折のリスクが増加する」「着替えや入浴などの日常生活の動作が困難になる」などさまざまな影響があり、結果的に「死亡率が上昇する」ことが分かっています。

 筋肉量の減少は65歳以上の高齢者に多く、とくに75歳以上になると急に増えてきます。しかし、65歳以下の若い人の中にも、デスクワークや自動車に頼る生活習慣などで、筋肉量の少なくなったサルコペニア予備軍が多いと考えられます。

 大内氏が紹介する自己チェックの方法は、二つあります。一つは、「青信号を時間内に渡りきれるかどうか」ということ、もう一つは「指輪っか」テストです。

 「指輪っかテスト」とは、ふくらはぎの周囲に両手の人差し指と親指で指輪っかをつくり、囲めるかどうかを見るもの。「囲めない」のが健常で、囲めたり余ってしまう場合は、サルコペニア予備軍の可能性があります。

タンパク質の摂取と筋トレでサルコペニアを予防!

 ふくらはぎが輪っかより細かった人は、「美脚」を心がけてきた女性にはとくに多いと思います。将来の「寝たきり」を予防したければ、年齢にかかわらず、今日からタンパク質の摂取と筋トレを心がけるようにしましょう。

 タンパク質は体重1キログラム当たり1.1グラム必要と言われますが、肉や魚には重量の5分の1程度のタンパク質しか含まれません。体重50キログラムで1日250グラム以上の肉や魚を食べる必要がありますが、半量は豆腐や豆類などの植物性タンパク質に頼るといいでしょう。

 サルコペニアやその予備軍では、持続力を保つ赤筋よりも瞬発力を支える白筋が障害されているとの研究データも出ています。白筋を鍛えるには、スクワットやダンベルなど、無酸素運動が効果的。ウォーキングやダンスなどで運動が足りているという方も、サルコペニア予防のためには筋トレを1日30分程度行う必要があります。

 「最近、階段よりエレベーターを使ってしまう」という方は、サルコペニア予防を考えてみてはいかがでしょうか。
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