社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.08.25

味はそのまま、値段は半分?「代用魚」の正体

 回転寿司のニセモノとしてどちらかと言えばネガティブなイメージが強かった代用魚。それが最近では近所のスーパーで見かけるほどに流通・消費が増えてきました。あらためて、代用魚とはどんなお魚なのか。実態が分かってくると、意外と「いいね!」と思えるかもしれません。

代用魚はスーパーヒーロー?

 マグロの代用魚のアカマンボウ、ウナギの代用魚のパンガシウスが代表的な代用魚としてよく知られています。代用魚とは、その名の通り、もともと消費されてきた魚と味が似ていて代用可能な外国産や深海魚など魚介類のこと。漁獲量の減少、それにともなうコストの削減などが代用魚を採用する主な理由です。

 とりわけウナギについては、ニホンウナギが絶滅危惧種に指定され、ワシントン条約の会議で国際取引の規制対象となる可能性があるとも指摘され、「ウナギを食べてはいけないのか」というような議論が活発におこなわれています。また、つい最近も、今年2018年7月にツイッター上に「うなぎ絶滅キャンペーン」というアカウントが突如出現。16,000以上のフォロワーがつき話題となりました。

 そこで注目を浴びているのが先ほどのパンガシウス、アナゴやナマズなどウナギの代用魚たち。いわば、代用魚とは漁獲量の減少、地球の生物多様性を助けるスーパーヒーローなのです。

マダラの代用魚は欧州の高級魚

 近大マグロの養殖で有名な近畿大学は「ウナギの味のナマズ」として近大ナマズを養殖しています。近大ナマズの蒲焼はイオンをはじめとする大手スーパーなどで売られています。

 イオンリテールは本記事でも何度か登場しているウナギの代用魚「パンガシウス」、不漁のマダラに代わる「ひたちだら」を販売している。ただし、イオンリテールとしては「代用魚」として販売している認識はないという報道もあります。わざわざ「代用魚」と言わなくても、その魚の味そのものに自信があるということでしょう。消費者からも「安い」「うまい」とどちらも評判は上々です。

 ちなみに「ひたちだら」はスペインなどヨーロッパでは高級魚として知られていて、ムニエルなどの調理法で食されています。

全身がクロマグロのトロ

 近畿大学やイオンリテールの例のように、代用魚は「回転寿司のニセモノ」というかつてのネガティブ・イメージから抜け出て、新たなマーケットを生み出すお宝のような存在になりつつあります。代用魚がニーズを呼んでいるポイントは、高級魚や希少な魚の味に似ているという点と安いという点です。

 愛媛県と愛媛大学は「全身がクロマグロのトロ」と評される高級魚スマの養殖に成功し、スマの養殖ブランド「伊予の媛貴海」を確立しマーケットの拡大を狙っています。スマは高級魚ですので、決して安くはありません。ここにはかつての代用魚の開拓とは異なる戦略が打ち出されています。

 「伊予の媛貴海」は、もはや「代用」ではなく市場の「代替」を狙った「代替魚」というべきしょう。これからは、高級魚や希少魚が買えないためにやむなく代用魚を選ぶ場合もあれば、むしろ積極的にその味を求めて代替魚を買うというふうに選択の幅がいろいろ生まれてくるでしょう。

 歴史を振り返れば、「天然」に対する「養殖」もかなりネガティブなイメージに包まれてきました。というより、いまだに「養殖」に対する偏見は多く残っていると言えます。天然と養殖と代用魚が同じレイヤーで比較される日もそれほど遠い未来ではないと思いますが、大事なことは名称に惑わされずに、実態を知ることです。食べ物であれば、自分の舌で確かめてみるのが一番早いでしょう。ぜひぜひ試しに、今夜の食卓に代用魚を。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割

豊臣と羽柴…二つの名前で語られる秀吉と秀長だが、その違いは何なのか。また、これまで秀長には秀吉の「補佐役」というイメージがあったが、史実ではどうなのか。実はこれまで伝えられてきた羽柴(豊臣)兄弟のエピソードにはか...
収録日:2025/10/20
追加日:2025/12/18
黒田基樹
駿河台大学法学部教授 日本史学博士
2

日本の外交には「インテリジェンス」が足りない

日本の外交には「インテリジェンス」が足りない

インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動

国家が的確な情報を素早く見つけ行動するためには、インテリジェンスが欠かせない。日本の外交がかくも交渉下手なのは、インテリジェンスに対する意識の低さが原因だ。日本人の苦手なインテリジェンスの重要性について、また日...
収録日:2017/11/14
追加日:2018/05/07
中西輝政
京都大学名誉教授 歴史学者 国際政治学者
3

逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾

逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾

逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる

「逆境とは何に逆らうことなのか」「人はそもそも逆境でしか思考しないのではないか」――哲学者鼎談のテーマは「逆境に対峙する哲学」だったが、冒頭からまさに根源的な問いが続いていく。ヨーロッパ近世、ヨーロッパ現代、日本...
収録日:2025/07/24
追加日:2025/12/19
4

葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る

葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る

編集部ラジオ2025(31)絵で語る葛飾北斎と応為

葛飾北斎と応為という「画狂親娘」の人生と作品について、堀口茉純先生にそれぞれの絵をふんだんに示しながら教えていただいた講義を、今回の編集部ラジオで紹介しました。

葛飾北斎といえば知らぬ人はいない江戸の絵...
収録日:2025/12/04
追加日:2025/12/18
5

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制

「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授