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DATE/ 2018.09.09

なぜ日本の貯蓄率は低い?日本と世界の差

 かつて日本人は貯蓄好きの国民というのが一般的な常識でした。実際にはオイルショック直後の1974年まで家計貯蓄率は上がり続け、ピーク時には23.2%にまで達しています。それ以降は低下傾向が続き、特に2000年からは急速に低下。2013年にはマイナス1.0%を記録しています。

 そこで今回は、日本の貯蓄率の推移と世界比較について調べてみました。

日本の貯蓄率は31か国中、下から10番目

 OECDでは約38か国の家計貯蓄率を毎年統計しています。21世紀に入り、ずっと1位を続けているのは中国。最高だった2013年には38.46%の数字を記録し、最新統計の2015年でも37.07%となっています。一方、国が財政危機に陥ったギリシャやラトヴィア、ポルトガルなどはなかなかマイナスからの回復が難しい様子を見せています。

 日本はどうかというと、2013年のマイナス以来徐々に持ち直し、2015年には0.82%で38か国中30位(下から9番目)、2016年には2.56%で31か国中21位(下から10番目)まで回復しました。2016年の調査で日本より貯蓄率が低いのは、G7の中ではイギリス-1.11%だけ。ドイツ9.69%、フランス8.16%、アメリカ5.04%、カナダ3.28%、イタリア3.09%と比べて、まだまだ見劣りします。

 日本、フランス、ドイツ、韓国、アメリカの5か国について長期的な動向を見てみましょう。

<西暦:日本/フランス/ドイツ/韓国/アメリカ>
1990年:13.9/9.5/13.7/22.5/7.0
1995年:11.9/12.9/11.0/17.5/4.6
2000年:8.6/12.0/9.2/10.7/2.3
2005年:3.0/11.9/10.6/4.3/-0.4

 国ごとに定義や制度があるため単純に比較はできませんが、1990年にフランスやドイツを上回っていた日本の家計貯蓄率が、2005年には下回っています。とくに「失われた10年の後半に当たる1998年以降、日本では可処分所得自体が対前年比マイナス成長を続け、貯蓄率にも影響したことが分かります。

なぜ貯蓄率は低迷するのか

 「不景気だから貯金どころではない」と言ってしまえば簡単ですが、貯蓄率低下の原因はそれだけではありません。

 経済学者の多くは、構造的な要因として、第一に人口の高齢化をあげています。高齢者は若いときに蓄えた貯蓄を少しずつ取り崩して生活しているため、高齢者世帯の貯蓄率はマイナスになりがちなのです。無職世帯は1984年の6.0%から2004年に22.4%へ増加しています。

 一方で、労働人口に占める非正規率の高さも見逃せません。2016年に行われた連合総研の調査では、非正規労働者が主な働き手である家庭では、4分の1が貯蓄ゼロと回答していますが、そもそも44.2%が年間での「赤字」を訴えているので、実際にはもっと多いはずではないでしょうか。また、76%が老後に不安を感じながら、収入が低いため老後の貯蓄が十分できない現実が指摘されています。

100万円を1年間預けても利息は10円の現実

 さらに追い討ちをかけているのは、「金利の低さ」です。日本の長期金利が21世紀に入ってから一貫して2%を下回る水準であることも大きな要因に数えられます。普通預金の金利などは0.001%ですから、「100万円を1年間預けても利息は10円」です。銀行にお金を預けるメリットが見当たらないことは、貯蓄離れの要因として当然のことではないでしょうか。

 ちなみに各国の金利を一覧すると、アメリカ2.91%、イタリア2.74%、韓国2.66%、イギリス1.42、フランス0.75、ドイツ0.33に比べ、日本は0.03です(2018年6月)。こちらでも、世界との差は歴然ですね。

 「備えあれば憂いなし」と言われますが、貯蓄をめぐる現実にはなかなか厳しいものがあり、備えたくても備えられない状況が見えてきます。

<参考サイト>
・OECD主要統計(家計貯蓄、長期金利)
https://www.oecd.org/tokyo/statistics/
・レファレンス平成19年9月号:我が国の家計貯蓄率の動向
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/refer/200709_680/068009.pdf#search='%E8%B2%AF%E8%93%84%E7%8E%87+%E9%95%B7%E6%9C%9F+%E6%8E%A8%E7%A7%BB'
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