テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.11.04

有給休暇の基礎知識…取得義務化でどう変わる?

 2018年6月29日、国会で「働き方改革関連法案」が成立し、毎年5日間の有給休暇取得が義務化されました。このニュースを耳にして「これからは堂々と有給休暇が取れる」と喜んだ方も多いのではないでしょうか。

来年度から有給休暇の取得が義務化

 今回の有給休暇取得義務化は、2019年4月1日から施行されます。労働基準法第39条の追加項目として法律化されており、詳しく内容を見てゆくと「企業などの使用者は年10日以上の有給休暇の権利を持つ労働者に対して、そのうちの5日間を取得する日を相談したうえで1年以内に取得させなければならない」、「ただし労働者が自分から有給休暇を取得した場合や、年次有給休暇の計画的付与制度によって有給休暇を取得させた場合はその日数分を義務から免れる」というように定められています。

 「年次有給休暇の計画的付与制度」とは、使用者側が全社、部署、個人ごとに有給休暇の取得日を指定できる制度です。このような「ただし書き」が出てくると、「これを抜け道にされて結局は有給休暇が取れないのではないか」と警戒する方もいるかもしれませんね。しかしこの制度の実施には労使協定を結ぶ必要があり、さらに使用者側が指定できるのは5日間まで。残りの5日間には労働者の自由が確保されているので、誰でも好きなときに5日間の有給休暇が取得できる仕組みになっています。

 政府が使用者側の義務にしてまで有給休暇を取得させようとする理由は、日本人労働者の有給休暇取得率があまりにも低いからです。アメリカの大手旅行予約サイト・エクスペディアの調査では、2017年の世界各国の有給休暇取得率はフランスやドイツなど12か国が100%だったのに対し、日本は50%という圧倒的な最下位でした。有給休暇は労働者の任意で取られてきたため、「休んだら周囲に迷惑がかかる」と考えがちな日本人はまったく取らないケースが多いのです。そこで今回の法案では、使用者の義務として盛り込んだのですね。

「年次有給休暇」の基本をおさらい

 近年では、長時間労働によるワークライフバランスの崩壊から心身を病む人が増えています。悲しいことですが、ときには自殺してしまう人もいますよね。労働者は人間なのですから、きちんと休まなければきちんと仕事ができないのは当然です。この「当然」がやっと世間で認められるようになり、今回の法案成立につながったといえるでしょう。

 そもそも有給休暇は「一定期間勤続した労働者が心身の疲労を回復するためのもの」であり、その間の生活を保障するために給与が出ます。正式には「年次有給休暇」という、労働基準法によって定められた制度。1年間のうち一定の勤続年数などから算出された日数を賃金が減額されない休暇にできます。勤務開始日から6か月経過すると、契約で週1日以上または年48日以上の勤務が決まっている労働者に付与されます。ただし、契約上の勤務日数である所定労働日数のうち80%出勤している必要があります。この条件を満たしていれば正社員だけでなく派遣社員、パートタイマー、アルバイトなど雇用形態を問わず取得が可能。現行法では最大で年40日、有効期限は発生から2年間とされています。

 今回の成立法案で有給休暇の取得義務が発生するのは年10日以上の有給休暇がある労働者なので、当てはまるのは「勤務開始から6か月経過した正社員、フルタイムの契約社員」、「勤務開始から3年半以上経過した週4日出勤のパートタイマー」、「勤務開始から5年半以上経過した週3日出勤のパートタイマー」と考えられます。このような労働者に5日間の有給休暇を与えなかった場合、使用者は30万円以下の罰金を科せられます。有給休暇の買い取りは法律で禁じられているので、給与を上乗せしても有給休暇なしで働かせることはできません。有給休暇は疲労回復が目的である以上、買い取って働かせることは存在意義に反するというわけですね。

有給休暇の義務化で職場はどう変わるべきか

 「有給休暇が取れるのはうれしいけど、職場が回るか心配」という方も多いかもしれませんが、実は今こそこの考え方を改める時期といえます。近年の労働者はギリギリの人数で職場を回すことに慣らされていますが、仕事とは本来チームプレイで行うもの。業務は仲間と共有して助け合いながら行うのが普通であり、一人休んだくらいで立ち行かなくなるほうがおかしいのです。これからの組織や企業は労働者が好きなときに有給休暇を取るため、誰かが休むことを前提としたチームやシステムを整えることが必要になります。

 ITベンチャー企業のロックオンは2011年からすでに、5日間の有給休暇とその前後の土日をつないだ9日間連続の休暇取得を義務づけています。休暇中は職場との連絡を一切禁止しているため、必然的に引き継ぎがしっかり行われ、ここから業務の効率化や改善点の発見などの相乗効果も上がっているそうです。休みの直前にすべてを引き継ぎしなくてすむよう、社員たちが自発的に業務の共有や助け合いをするようにもなりました。この制度の導入後は、有給休暇の年間平均取得日数が約3.5倍になったとのことです。

 政府は2020年までに有給休暇の取得率を70%まで上げることを目標にしており、今後は海外の労働者の多くが楽しんでいるバカンスのような長期休暇取得を推奨すると考えられます。そんな時流の中で、労働者が「周囲に迷惑がかかる」と感じて有給休暇の取得を遠慮してしまうような職場は時代遅れです。これからの組織や企業には、長く日本の職場に蔓延してきた「休むことは悪いこと」という意識を「休むことはいいこと」に改革し、心置きなく有給休暇が取れる雰囲気づくりも求められるでしょう。

<参考サイト>
・Work × IT:年5日の有給休暇義務化はいつから?罰則は?
https://workit.vaio.com/i-paid-vacation-mandatory/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」

経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」

東洋の叡智に学ぶ経営の真髄(1)経営とは何かをひと言で?

東洋思想を研究する中で、50年間追求してきた命題の解を得たと田口佳史氏は言う。また、その命題を得るきっかけとなったのは松下幸之助との出会いだった。果たしてその命題とは何か、生涯の研究となる東洋思想とどのように結び...
収録日:2024/09/19
追加日:2024/11/21
2

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

今求められるリーダー像とは(3)原敬と松下幸之助…成功の要点

猛獣型リーダーの典型として、ジェネラリスト原敬を忘れてはならない。ジャーナリスト、官僚、実業家、政治家として、いずれも目覚ましい実績を上げた彼の人生は「賊軍」出身というレッテルから始まった。世界を見る目を養い、...
収録日:2024/09/26
追加日:2024/11/20
神藏孝之
公益財団法人松下幸之助記念志財団 理事
3

冷戦終焉から30年、激変する世界の行方を追う

冷戦終焉から30年、激変する世界の行方を追う

ポスト冷戦の終焉と日本政治(1)「偽りの和解」と「対テロ戦争」の時代

これから世界は激動の時代を迎える。その見通しを持ったのは冷戦終焉がしきりに叫ばれていた時だ――中西輝政氏はこう話す。多くの人びとが冷戦終焉後の世界に期待を寄せる中、アメリカやヨーロッパ諸国、またロシアや同じく共産...
収録日:2023/05/24
追加日:2023/06/27
中西輝政
京都大学名誉教授
4

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

『江戸名所図会』で歩く東京~吉原(1)「苦界」とは異なる江戸時代の吉原

『江戸名所図会』を手がかりに江戸時代の人々の暮らしぶりをひもとく本シリーズ。今回は、遊郭として名高い吉原を取り上げる。遊女の過酷さがクローズアップされがちな吉原だが、江戸時代の吉原には違う一面もあったようだ。政...
収録日:2024/06/05
追加日:2024/11/18
堀口茉純
歴史作家
5

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

教養としての「人口減少問題と社会保障」(4)増え続ける社会保障負担

人口減少が社会にどのような影響を与えるのか。それは政府支出、特に社会保障給付費の増加という形で現れる。ではどれくらい増えているのか。日本の一般会計の収支の推移、社会保障費の推移、一生のうちに人間一人がどれほど行...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/11/19
森田朗
一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI)所長・代表理事