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DATE/ 2015.04.09

ハウステンボス奇跡の黒字化~3つのお願い

黒字の2文字に踊らなかった社員

 ハウステンボス再生のため、澤田秀雄社長が佐世保に乗り込んだのは2010年4月1日のこと。1000名のスタッフを前にぶつけた最初の言葉は、「自分はいろいろな会社を手がけて、再建してきた。これから言うことを実行すれば黒字になる。みんなで黒字にして、年末にはボーナスを取りましょう」との呼びかけだった。

 しかし、反応は鈍い。何しろ18年の赤字と再生の失敗続きで、成功体験のない社員ぞろいなのだ。何をどうすれば黒字になるのか、何を頑張ればいいのかわからない。これはヤバイぞ、と澤田氏は言い方を改める。

装備とゴールのない「走り」は挫折する

 「皆さんは、何のためにハウステンボスをやっているのか?」と澤田氏は聞く。テーマパークは顧客に楽しみと感動を提供する素晴らしい仕事。それを自覚して、一緒に元気にやっていこうと言うと、少し反応がある。これから走ろうというときには、まず装備が必要。それは「走るのは自分自身」という気づきになる。

 次に澤田氏は、5年後のハウステンボスはこうなるという自身の夢を共有する。ゴールのない走りは、つらいだけ。その先に夢や目標があってこそ、人は努力できるものという彼の持論もまた、ここでシェアされたわけである。

社長のお願い1:朝15分の掃除

 「では、今から3つお願いをします。これをやれば黒字になり、年末にはボーナスが出ます」
 ただ静かに聞く社員に向け最初に命じたのは、朝の掃除だ。成功する会社は「掃除が行き届いている」という澤田氏の成功哲学に初めてふれるスタッフは目を丸くしている。

 現に多くの企業を見てきた氏が導いた経験則でもあり、「お客様商売」の第一のポイントとも言える。朝礼前の掃除には、澤田社長も当然毎朝参加するのだ。

社長のお願い2:明るく元気にニッコリと

 元気と笑顔のないテーマパークに人は来ない。お客様に感動を提供するスタッフが暗い顔では始まらない。澤田氏からのお願いの2つ目は「明るく元気にニッコリと」だ。「うそでもいいから」笑顔をつくれば年末にはボーナスがついてくる。その言葉に、つられてあちこちで笑顔がこぼれ出す。

 楽しいときに笑うのは誰でもできる。いや、うまくいっているときは控えめな方がいい。失意のときほど元気を出すのは中国の教え「得意淡然失意泰然」に通じるのだという。

社長のお願い3:行動は1.2倍速で

 澤田社長の成功の方程式は、「2割経費をカットし、2割売上を増やせば上下で4割」どんな企業も必ず黒字になるというものだ。2割の効率化を図るため、ハウステンボスでは敷地の一部をフリーゾーンとした。

 そして、社員に3つ目のお願いとしたのが、作業の1.2倍速化だ。何もできなければ歩く時間を2割早めるだけでいい。この心がけで残業も減り、経費も2割下がるのである。

まとめ:奇跡はない、皆が頑張るのみ

 誰もが少し気をつければできそうな「3つの約束」がハウステンボスに成功をもたらした。奇跡は起こらない。再生の天才も、一人では何もできない。皆が一つの方向に向かえば、力は湧いてくる。策を講じるのは、それからでも遅くないのだ。

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橋爪大三郎
社会学者 東京科学大学名誉教授 大学院大学至善館教授
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授