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占いが「当たった気がする」のはなぜ?
水晶、タロット、筮竹など道具を使った占いから、手相、人相、血液型など身体的特徴に関する占い、はては星座や風水など自然現象を用いた占いまで、古今東西数多の占いがあります。また、歌占(うたうら)、年占(としうら)、辻占(つじうら)など、文化や伝統と深いかかわりのある占いもたくさんあります。
現代でも占いに接する機会は多く、占いによって一喜一憂する場面が多々あります。占いに対して「当たった」や「当たらない」などの感想は人それぞれだと思いますが、未だに占いが支持されることを鑑みると、少なくとも一定数の人々が最低でも「当たった気がする」と思っているのではないかと考えられます。ではなぜ、占いは「当たった気がする」のでしょうか。背景に迫ってみたいと思います。
安斎氏の述べる「思い当たり」による効果を、心理学用語では「バーナム効果」といいます。バーナム効果は「占いや血液型による性格診断など、だれにでも該当するような曖昧で一般的な性格に関する説明を、まさに自分のことだと思いこんでしまうこと」(『デジタル大辞泉』)で、例えるなら雑誌の占いなどを根拠無く「当たっている!」と思い込んでしまう現象を指し、東洋大学社会学部教授で臨床心理士の松田英子氏は「不確実な状態に対する期待や不安がかかわると考えられている」と述べています(『イミダス 2018』)。
また、信州大学人文学部教授で認知心理学が専門の菊池聡氏も、社会心理学者が行った多くのステレオタイプ研究から「人は何かの判断を行うとき、さまざまな情報を適切に利用するのではなく、自分の考えに合致する有利な情報を選択的に使用する傾向を持っている」としています。
そして、「あなたの性格は、これこれです」と占われると、自分の性格や行動の中から占われたことにそって解釈してしまい、結果として「占いは当たる」という実感が残ることを、血液型性格判断研究の泰斗で心理学者の大村政男の命名した「フリーサイズ効果」として解説しています(『超常現象の心理学』)。
「人間のうちには、法則性を見いだして将来を的確に予想しようとする傾向がある」と、明治大学情報コミュニケーション学部教授で認知科学専攻の石川幹人氏は著書『人はなぜだまされるのか』で述べています。そして、法則を見いだしておけば法則があるときには有利である一方、法則がないときの損失は予測しないときとほぼ同じであるため、進化心理学的解釈で脳がそのように発達してきたと考えられていると説明しています。
また、多くの人は、意識的にも無意識的にも納得できなかったり腑に落ちなかったりする状態に不安や不満を感じます。作家の橘玲氏が著書『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』で「ぼくたちはみな、無意識のうちに単純な物理法則や因果関係で世界を把握しようとする」と述べているように、誰しも自分なりの物語性の中に、外界の現象を落とし込んで解釈していると考えられます。
さらに橘氏は、「ひとはみんな、自分が特別だと思っている」と提言し、その理由を「自分はたった一人しかいないのだから、その臨場感は圧倒的だ。どれほど冷静沈着なひとでも、“自分を中心に世界が回っている”という錯覚からは逃れられない。<中略>認知の歪みによって、よいことの確率は大きく、悪いことの確率は小さく評価される<中略>だから、他人が騙された話は鼻で笑っても、自分に同じ“幸運(信じたいことなど)”がやってくるとあっさり信じてしまう」と述べています。
客観性を持つことを意識や想像はできたとしても、思考する主観はあくまで自分です。誰しも自分という臨場感から逃れることはできません。
だからこそ占いなど合理的根拠のない話も信じることができ、さらにはいったん信じてしまうと自己正当化の圧力が加わり、信じる力、つまり占いが「当たった」と思う気持ちがより強くなっていきます。「自分」という物語性と臨場感が、「思い当たり」による効果を引き起こし、高めていっているのではないでしょうか。
人はすべてを納得しなくても生きていかなくてはなりません。たとえ結果として間違えていたり勘違いであったとしても、予測したり情報を補ったりして判断し行動しなければ、日常生活を送ることすら困難になってしまいます。その半面、行き過ぎた思い込みは自分だけでなく周りの人にも悪影響を与えることもあります。占いは嗜好品のように、節度をもって生活の中によりよく取り込んでいきたいものです。
現代でも占いに接する機会は多く、占いによって一喜一憂する場面が多々あります。占いに対して「当たった」や「当たらない」などの感想は人それぞれだと思いますが、未だに占いが支持されることを鑑みると、少なくとも一定数の人々が最低でも「当たった気がする」と思っているのではないかと考えられます。ではなぜ、占いは「当たった気がする」のでしょうか。背景に迫ってみたいと思います。
「バーナム効果」と「フリーサイズ効果」
占いは「当たっている」というより「合っている」ことが心に残る、つまり“「思い当たり」による効果”があると、立命館大学名誉教授で専門の平和学・放射線防護学とともにオカルト現象の科学的究明にも取り組む安斎育郎氏は指摘しています(『「だまし」の心理学』)。安斎氏の述べる「思い当たり」による効果を、心理学用語では「バーナム効果」といいます。バーナム効果は「占いや血液型による性格診断など、だれにでも該当するような曖昧で一般的な性格に関する説明を、まさに自分のことだと思いこんでしまうこと」(『デジタル大辞泉』)で、例えるなら雑誌の占いなどを根拠無く「当たっている!」と思い込んでしまう現象を指し、東洋大学社会学部教授で臨床心理士の松田英子氏は「不確実な状態に対する期待や不安がかかわると考えられている」と述べています(『イミダス 2018』)。
また、信州大学人文学部教授で認知心理学が専門の菊池聡氏も、社会心理学者が行った多くのステレオタイプ研究から「人は何かの判断を行うとき、さまざまな情報を適切に利用するのではなく、自分の考えに合致する有利な情報を選択的に使用する傾向を持っている」としています。
そして、「あなたの性格は、これこれです」と占われると、自分の性格や行動の中から占われたことにそって解釈してしまい、結果として「占いは当たる」という実感が残ることを、血液型性格判断研究の泰斗で心理学者の大村政男の命名した「フリーサイズ効果」として解説しています(『超常現象の心理学』)。
「自分」という物語性と臨場感
しかし、バーナム効果やフリーサイズ効果といった「思い当たり」による効果は、どうしてそんなにカンタンに現れてしまうのでしょうか。その背景には、「自分」という物語性と臨場感が潜んでいると考えられます。「人間のうちには、法則性を見いだして将来を的確に予想しようとする傾向がある」と、明治大学情報コミュニケーション学部教授で認知科学専攻の石川幹人氏は著書『人はなぜだまされるのか』で述べています。そして、法則を見いだしておけば法則があるときには有利である一方、法則がないときの損失は予測しないときとほぼ同じであるため、進化心理学的解釈で脳がそのように発達してきたと考えられていると説明しています。
また、多くの人は、意識的にも無意識的にも納得できなかったり腑に落ちなかったりする状態に不安や不満を感じます。作家の橘玲氏が著書『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』で「ぼくたちはみな、無意識のうちに単純な物理法則や因果関係で世界を把握しようとする」と述べているように、誰しも自分なりの物語性の中に、外界の現象を落とし込んで解釈していると考えられます。
さらに橘氏は、「ひとはみんな、自分が特別だと思っている」と提言し、その理由を「自分はたった一人しかいないのだから、その臨場感は圧倒的だ。どれほど冷静沈着なひとでも、“自分を中心に世界が回っている”という錯覚からは逃れられない。<中略>認知の歪みによって、よいことの確率は大きく、悪いことの確率は小さく評価される<中略>だから、他人が騙された話は鼻で笑っても、自分に同じ“幸運(信じたいことなど)”がやってくるとあっさり信じてしまう」と述べています。
客観性を持つことを意識や想像はできたとしても、思考する主観はあくまで自分です。誰しも自分という臨場感から逃れることはできません。
だからこそ占いなど合理的根拠のない話も信じることができ、さらにはいったん信じてしまうと自己正当化の圧力が加わり、信じる力、つまり占いが「当たった」と思う気持ちがより強くなっていきます。「自分」という物語性と臨場感が、「思い当たり」による効果を引き起こし、高めていっているのではないでしょうか。
人はすべてを納得しなくても生きていかなくてはなりません。たとえ結果として間違えていたり勘違いであったとしても、予測したり情報を補ったりして判断し行動しなければ、日常生活を送ることすら困難になってしまいます。その半面、行き過ぎた思い込みは自分だけでなく周りの人にも悪影響を与えることもあります。占いは嗜好品のように、節度をもって生活の中によりよく取り込んでいきたいものです。
<参考文献>
・『「だまし」の心理学』(安斎育郎著、PHP研究所)
・「バーナム効果」、『デジタル大辞泉』(小学館)
・「バーナム効果」、『イミダス 2018』(松田英子著、集英社)
・『超常現象の心理学』(菊池聡著、平凡社新書)
・『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』(橘玲著、幻冬舎文庫)
・『人はなぜだまされるのか』(石川幹人著、講談社)
・『「だまし」の心理学』(安斎育郎著、PHP研究所)
・「バーナム効果」、『デジタル大辞泉』(小学館)
・「バーナム効果」、『イミダス 2018』(松田英子著、集英社)
・『超常現象の心理学』(菊池聡著、平凡社新書)
・『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』(橘玲著、幻冬舎文庫)
・『人はなぜだまされるのか』(石川幹人著、講談社)
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