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DATE/ 2024.02.26

なぜコーヒーは缶からペットボトルに変わったか

 最近ペットボトル入りのコーヒーが店頭で目立つようになってきました。ついこの間までコーヒーといえば「缶入り」が当たり前だったのに、なぜペットボトル入りコーヒーが増えてきたのでしょうか。

サントリー「クラフトボス」が大ヒット

 ペットボトル入りコーヒー人気の火付け役となったのが、サントリーの「ボス」シリーズから2017年に発売された「クラフトボス」です。特に若者層・女性層から圧倒的な支持を受け、発売からわずか9ヶ月で1000万ケース(2億4000万本)を売り上げました。

コーヒーがずっと「缶」だった理由

 他の清涼飲料水はペットボトル入りがメジャーであるのに対し、コーヒーは長らく缶入りがシェアを占めてきました。

 実はかつてペットボトル入りのコーヒーは存在していたものの、「醤油のようだ」と言われあまり売れなかった過去があり、業界全体に「ペットボトルコーヒーは売れない」というイメージが蔓延していたのです。

 しかし現在、若者の「缶コーヒー離れ」が進んでおり、メーカーはその打開策に頭を悩ませていました。若者にとって缶コーヒーは「古くさい」「中身が見えず、味が不安」「缶詰のようでおいしくなさそう」というイメージがあったのです。

 サントリーは若者が感じる缶コーヒーのイメージと、一人黙々と働くデスクワーカーが“人のぬくもり”を感じられる商品を求めていることに着目し、ペットボトル入りの「クラフトボス」を発売。透明なボトルにぽてっとした可愛らしいフォルム、「クラフト」という手作り感を響かせたネーミング、缶入りコーヒーよりも軽やかで飲みやすい味わいが、たちまち若者や女性の心を捉え、驚異的な売り上げにつながりました。

 消費者ニーズと商品コンセプトが合致したことで、「ペットボトルコーヒーは売れない」という業界の常識を打ち破ることに成功したのです。

拡大を続けるペットボトルコーヒー。変わり種も登場

 「クラフトボス」のヒットを皮切りに、サントリーでは同シリーズの「ラテ」や「ブラック」といったおなじみのテイストに加え、「ブラウン」というブラックとラテの中間の味わいを目指したコーヒーが発売し、人気を博しています。

 いっぽう「クラフトボス」に続くべく、他社も続々とペットボトルコーヒー市場に参入。ダイドーの「ダイドーブレンド スマートブレンド微糖 世界一のバリスタ監修」のように糖や脂肪の吸収を抑える機能性表示食品のコーヒーや、アサヒ飲料の「ワンダ TEA COFFEE」のようにお茶とコーヒーをブレンドした変わり種まで登場しています。ペットボトルコーヒー業界のシェアは、ますます広がりを見せているのです。

ライバルは「コンビニコーヒー」

 コーヒー飲料メーカーにとって、今もっとも脅威に感じているのが「コンビニコーヒー」だといわれています。「コンビニコーヒー」はコーヒー市場に革命を起こし、コーヒー全体の売り上げを押し上げた存在です。手軽かつフレッシュな印象の「コンビニコーヒー」に対して、フタをして持ち運べる、多様な味わいを楽しめるペットボトルコーヒーは「コンビニコーヒー」に続くコーヒー界のニューウェーブとして注目されています。

 長きにわたる「缶づめ」状態から解き放たれたペットボトルコーヒー。大きなポテンシャルを秘めているだけに今後どんな商品が生まれるのか。目が離せません。

<参考サイト>
・環境激変、缶を捨てた「缶コーヒーのボス」 (日本経済新聞電子版)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ15HGF_V10C17A3000000/
・ちょっと味薄くない? ペットボトルコーヒーの先駆者「クラフトボス」にツッコんできた(新R25)
https://r25.jp/article/560776232625432937
・クラフトボスが大ヒットした納得の理由 「ちょっと薄味」「太い容器」「クラフト感はどこ?」→全て戦略だった(SankkeiBiz)
https://www.sankeibiz.jp/business/news/180201/bsc1802010700001-n1.htm
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