社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.04.30

真面目に働いてもお金持ちにはなれない?

 あなたがいつまでたっても経済的に余裕ができないのは、「真面目に働いているから」だとしたらどうだろう?

 どんなにコツコツ働いても、スキルアップしても、学歴をつけても、賃金労働をしている以上、お金持ちには追いつけない。そんなことを連想させる研究結果が昨年世界に衝撃を与えた。

 フランス人経済学者のトマ・ピケティの著作『21世紀の資本論』だ。日本語版で700ページにも及ぶ大作だが、主張は極めてシンプル。小学生でも理解できる簡単な数式「r>g」という3文字に集約できる。

rとgとは?

 簡単とは言え、rとgの定義を知らなければ、数式の表す本当の意味は分からない。しかし、実はこちらもそんなに難しくはない。

 r:株や証券の配当、土地や建物の貸出料、貸付金の利息など資本が産む収益の率。つまり、資産に対する収益の比率。例えば、1億円の価値を持つ家を月100万円の家賃で貸し出せば、毎年1,200万円の収益を産む。そうると毎年12%の収益率があることになる。いわゆる資本収益率。
 g:経済全体の成長率。例えば今年100兆円の経済規模の国の国民が、頑張って働いて来年101兆円の規模に成長する。そうすると、1%の成長率ということになる。いわゆる経済成長率。

資本が産む収益率は給料の伸び率よりも高い

 給料の伸び率を平均的にならすと、gと大体同じになる。なので、

 g≒賃金上昇率

 と考えられる。ピケティによるとこれは大体1%~2%。

 次にrだが、こちらは4~5%。なので、r>gとなる。つまり、投資による資産の成長スピードと労働による賃金の成長スピードは、資産が上回るので、格差はどんどん開くばかりだというのがピケティの主張なのだ。

 賃金で稼ぐ労働者は、資本の収益で稼ぐ投資家と競争しようにも、向こうは5倍も性能が高いエンジンを積んでいるため最初から勝ち目はないと言われているようなわけだ。

ピケティはどうやって答えにたどり着いたのか?

 ピケティはどのようにこの結論にたどり着いたのだろうか?実は、主要国20カ国以上の過去200年間に渡る資産や所得、税務に関する膨大な資料からデータを集め、徹底的に分析したのだ。20カ国の中にはもちろん日本も含まれている。

 そうして見えて来たのは、資本主義経済の中では投資の方が賃金労働よりも効率がいいこと。そして、今後、各国で経済成長は鈍化していくと、格差はますます広がっていくであろうということなのだ。

本当にピケティは正しいのか?

 ピケティはこれ以上の格差拡大を防ぐため、「資産課税」が必要だと言う。つまり、毎回の収益だけではなく、膨らんでいく資本の方にも課税してしまおうということだ。

 ただ、労働者と違うところは、資本家は、投資のリスクを負っているということ。労働者は契約内容の仕事をこなせば毎月の賃金が振り込まれるわけだが、資本家にはその保証はない。保証がないのに、リスクを選択する理由は、やはり高い収益を狙うからだろう。 乱暴に言えばgで生きるのはローリスクローリターン、rで生きるのはハイリスクハイリターンとも言えるわけだ。

 また、その分、労力や出費をいとわず情報を集めたり、リスクを分散させるための知恵を振り絞って考えている。労働よりも楽して儲けているとは、一概には言えない。現代日本では、少しの金銭的余裕があれば、誰でも投資に参加できる。もしあなたが、給料が思うより上がらないストレスと、パチンコやお酒ややけ食いで発散させているのなら、その分のお金を投資とその勉強につぎ込んでみるのも手かも知れない。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如

現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
2

『武功夜話』は偽書か?…疑われた理由と執筆動機の評価

『武功夜話』は偽書か?…疑われた理由と執筆動機の評価

歴史の探り方、活かし方(5)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈下〉

豊臣秀次事件に対する見方を変えた『武功夜話』だが、実は偽書疑惑もある。今回は、そのことに鋭く迫っていく。『武功夜話』は、豊臣秀吉に仕えて大名まで上り詰めた前野長康の功績を中心に記された史料だが、その発表・出版の...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/28
3

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた主な要因として、二つのオウンゴールを挙げる島田氏。その一つとして台湾のモリス・チャン氏によるTSMC立ち上げの話を取り上げるが、日本はその動きに興味を示さず、かつて世界を席巻して...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/25
4

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

編集部ラジオ2025(29)歴史作家の舞台裏を学べる

この人生を生きていくうえで、「歴史」をひもとくと貴重なヒントにいくつも出会えます。では、実際にはどのように歴史をひもといていけばいいのか。

今回の編集部ラジオでは、歴史作家の中村彰彦先生がご自身の方法論...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/27
5

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授