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DATE/ 2019.10.11

保険はギャンブル?確率で考える「保険」の価値

 「保険」。辞書でその意味を調べてみると、「火災・死亡など偶然に発生する事故によって生じる経済的不安に備えて、多数の者が掛け金を出し合い、それを資金として事故に遭遇した者に一定金額を給付する制度」(デジタル大辞泉)とあります。裏を返せば何かが起きてしまうことにベットする、ある意味ギャンブルと見ることもできます。その勝負、果たして賭ける価値はあるのでしょうか?

その保険、“還元率”は何%?

 例えば40歳男性の場合、月2000円ほどの払い込みで入院した時1日につき5000円の給付を受け取れるという保険があります。それくらいの金額を払っておけばいざという時に助かる!と感じるかもしれませんが、入院する確率、平均して何日間入院するかのデータを見てみましょう。

 「退院患者の平均在院日数等」という厚生労働省の調査によると、35~64歳の平均入院日数は21.9日。40~44歳の男性の入院率は3.5%。ここから計算すると、入院をすると5000×21.9=109500円の給付を受けられるものの、確率3.5%とすると、期待値は3832円。例で挙げた月2000円の保険は年間24000円の払い込みに対し、“還元率”は16%程度にとどまります。

 平均で見れば“損”をするケースであっても、いざという時に大金を用意できない、だから保険に入るんだ、そういう意見もあるでしょう。大病というイメージがあるがんの治療にかかる費用をみてみると、実質の負担額は年間24万円という調査結果があります(「がん治療にかかる費用の平均や自己負担額はいくら? | 保険テラス」)。もちろん健康保険の適用外となる先進医療を受けようとするともっと高額になることもありますが、健康保険内の平均的な金額だと上で挙げた金額になります。小さな金額とは言えないものの、保険に入る代わりに貯金をすれば何とか貯まる額ではないでしょうか?例えば月4000円のがん保険に入るとしたら、年間で48000円。5年間でちょうど24万円になります。

もしも死亡事故を起こしてしまったら…

 そもそも保険の商品はアクチュアリーという専門家が綿密な計算をして価格を決めているため、還元率で考えたら消費者が損をするに決まっているのです。そうしなければ保険会社は利益を出せないのですから。じゃあ入っても損するなら保険なんていらないのか?そこまで単純なものでもありません。発生する確率は低くても、出くわしてしまったら数千万円、場合によっては一億円以上の負担となるようなケースへの備えとしては価値があるでしょう。例えば自動車の対人賠償保険がそうです。死亡事故を起こしてしまった場合、裁判で認定された損害額が億単位になることもあります。

 ほかにも、自分がもし今亡くなってしまったら家族が路頭に迷ってしまう、そのためにお金を残したい、という動機も有りうるでしょう。ただ、意外と知られていないのですが国民年金や厚生年金の被保険者がなくなると、残された家族に支払われる遺族保険という制度があります。死亡者の平均標準報酬月額が35万円、子どもが2人いたとすると、遺族年金は月額14.9万円です。これだけで残された家族が生計を立てるのは難しいかもしれませんが、少なくとも生命保険金だけで家族が生活をしなければ!と考える必要はないわけですね。

 今入っている保険、本当に必要ですか?改めて考え直してみるのも良いかもしれないですね。

<参考サイト>
・厚生労働省 平成26年(2014)患者調査の概況 - 11 - 3 退院患者の平均在院日数等
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/17/dl/03.pdf
・厚生労働省 平成26年(2014)患者調査の概況 - 8 - 2 受療率
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/02.pdf
・がん治療にかかる費用の平均や自己負担額はいくら? | 保険テラス
https://hoken-eshop.com/column/がん治療にかかる費用の平均や自己負担額は/
・遺族年金(必要保障額シミュレーション)|オリックス生命保険株式会社
https://www.orixlife.co.jp/guide/navi/survivors_pension.html
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小原雅博
東京大学名誉教授