社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
ブラックホールはどのように形成されるのか?
巨大ブラックホールが、ついに撮影された!
2019年4月10日、巨大ブラックホールとその影の存在を初めて画像で直接証明することに成功したことが、世界6か所での同時記者会見において発表されました。撮影されたのは、おとめ座銀河団の楕円銀河M87の中心に位置する巨大ブラックホールです。この偉業を進めたのは、「イベント・ホライズン・テレスコープ」。地球上の8つの電波望遠鏡を結合させた国際協力プロジェクトです。代表を務めるシェパード・ドールマン氏(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)は「200人以上の研究者がチーム一丸となって成し遂げた偉大な科学的業績」について誇らしく語りました。
ブラックホールを簡単に定義すると「その強力な重力のために光すら脱出することができなくなった天体」だと慶應義塾大学理工学部物理学科教授の岡朋治氏は言います。物質だけでなく光すら吸い込んでしまう超強力な存在は、どのように形成されるものなのか。「星の一生」という概念を用いて理解していきましょう。
「星の一生」を早回しで追跡してみると
そもそも恒星とは、自分自身の核燃料を燃やしながらエネルギーを生成して光っている天体のこと。これらは「星間分子雲」と呼ばれる、分子の形をしたガスが濃密な領域で生まれます。最初の「原始星」と呼ばれる赤ちゃんの段階では、恒星の質量の降着、収縮は止まっていません。やがて原始星の中心で核反応に火がつき、質量降着が止まると、星は「主系列星」と呼ばれる活動期に入ります。主系列星は、中心のガスを核反応で燃やしながら、軽い元素を重元素へと合成してどんどん進化していきます。進化が進み、中心の核燃料を使い果たすにつれ、水素がヘリウムに、ヘリウムが炭素になり、重くなって燃えにくくなるのです。
この結果、燃えない状態のコアが残されると、外層部は膨張して「赤色巨星」となります(私たちの太陽がこの段階に至るのは約50億年後と考えられています)。赤色巨星が非常に重かった場合、「超新星爆発」と呼ばれる大爆発を起こします。
爆発を起こした中心のコアは鉄のコアになり、核融合反応では燃えません。中でエネルギーを発することができないからです。一方で外側には膨大なガスがあるため、中心にある鉄のコアはつぶれざるをえません。
さて、ここからが、ブラックホールになるかならないかの分かれ道です。つぶれた後に中性子のコアが残ると「中性子星」になり、残らない場合(星の質量が非常に重い場合)、完全につぶれてブラックホールになると考えられています。
宇宙には無数の「野良ブラックホール」が存在
ブラックホールを残す恒星は質量が重いといいましたが、およそ太陽の30倍以上の質量を持つ星が、進化の最終段階にブラックホールを残すと考えられています。今回撮影されたブラックホールがあるのは、おとめ座にある銀河団。地球からこの銀河団中心までは約5500万光年の距離があり、その中心にあるM87は直径約12万光年の中に、数兆個の星と約13000個もの球状星団を含む巨大な楕円銀河です。その質量は、太陽の65億倍にも及ぶと考えられています。
ほかにも著名なブラックホール候補天体として、「はくちょう座X-1」や「SS433(マナティー星雲)」の名前を聞かれた方もあるでしょう。宇宙には無数の「野良ブラックホール」が存在していますが、岡氏の研究グループはその手がかりとなるガス運動を検出しています。
地球の周りにブラックホールは存在しないため、吸い込まれる危険性は今のところありえないと岡氏は保証します。地球が真正面からブラックホールに迫らない限り、その危険はないからです。ただ、野良ブラックホールが向こうから近づいてくると、気づかないうちに吸い込まれていることはあるかもしれません。惑星の軌道が妙などの間接的な証拠でしか、そのことはわかりませんが、逃げると言っても、さて、どこへ行けばいいのでしょうか。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
運も実力のうち!?小早川の寝返りを生んだ黒田長政の好運
運と歴史~人は運で決まるか(2)運に恵まれるにはどうすればいいか
普通の人間の「運」については、どう考えればいいのだろうか。例えば、日本において消費文化が花開いた江戸時代、11代将軍・徳川家斉の治世には、庶民が「運がめぐってこない」ことを皮肉った狂詩があった。運には「めぐりあわ...
収録日:2024/03/06
追加日:2024/04/25
陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景
グローバル・サウスは世界をどう変えるか(4)サウジアラビアとイランの存在感
中東のグローバル・サウスといえば、サウジアラビアとイランである。両国ともに世界的な産油国であり、世界の政治・経済に大きな存在感を示している。ただし、石油を武器にアメリカとの関係を深めてきたのがサウジアラビアであ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/24
起業の極意!サム・アルトマンと松下幸之助
編集部ラジオ2024:4月24日(水)
ChatGPTを開発したことで一躍有名となったOpenAI創業者のサム・アルトマン。AIの発展によって社会は大きく、急速に変化しており、その中心的な人物こそが彼であるといっても過言ではありません。
そんなアルトマンが...
そんなアルトマンが...
収録日:2024/04/15
追加日:2024/04/24
権威主義とポピュリズムへの対抗…歴史を学び、連帯しよう
民主主義の本質(5)民主主義を守り育てるために
ポピュリズムや権威主義的な国家の脅威が迫る現在の国際社会。それに対抗し、民主主義的な社会を堅持するために、国際社会の中で日本はどのように振る舞うべきか。議論を進める前提として大事なのは「歴史から学ぶ」ことである...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/04/23
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンス美術とはいったい何なのか。これを考えるためには、なぜその時代に古代ギリシャ、ローマの文化が復活しなければならなかったのかを考える必要がある。その鍵は、ルネサンス以前のイタリアの分裂した都市国家の状態や...
収録日:2019/09/06
追加日:2019/10/31