テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.10.17

ゲノムとは何か?遺伝学的にみた「人類みな兄弟」の真実

 2000年6月にヒトゲノムの解読計画がほぼ終わったと発表され、話題となりました。このことにより遺伝子の研究は一層進化し、さまざまな病気の原因解明や新しい薬の開発が進んでいるのですから、今や「ゲノム」は私たち人類の明るい未来を象徴するキーワードの一つとなっているといえるでしょう。

 しかし、よく耳にするようにはなったものの、いざ「ゲノム」って何?と聞かれると答えに窮する人もいるのではないでしょうか。そもそもゲノムとは何か、また、解析研究の進んでいるヒトゲノムとはどういったものなのでしょう。

そもそもゲノムとは?

 ゲノムは遺伝子とほぼ同じと思ってしまいがちですが、実はゲノムという言葉は、遺伝子(gene)、及び染色体(chromosome)を意味する2つのドイツ語を合成してできた言葉です。ヒトゲノムは文字どおりヒトが持っているゲノムということになります。

 私たちの体は細胞で成り立っていますが、その細胞には核があり、その核の中にあるのが染色体です。この染色体の中に、デオキシリボ核酸という物質(いわゆるDNA)が存在していて、そこにタンパク質の設計図が書かれている部分が遺伝子です。さらに、その遺伝子の情報とタンパク質以外の情報をすべてひっくるめた遺伝情報の全体を「ゲノム」と呼んでいるのです。

ヒトゲノムの99.9パーセントが共通部分

 国立遺伝学研究所集団遺伝研究室教授で遺伝学者の斎藤成也氏によれば、ヒトゲノムは約32億個あるといわれ、その核の部分(核ゲノム)のちょっとした違い(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)が人間の個々人の差となっているのですが、この違いのある部分はゲノムのうちのわずか0.1パーセント。つまり、99.9パーセント以上、私たちは共通のゲノムを持っているということになるのです。それだけでなく、チンパンジーとも99パーセント共通のゲノムを持っていることが分かっています。

 そもそもゲノムには染色体に書き込まれた遺伝情報がすべて反映されているわけですから、ヒトゲノムの情報量は膨大です。その膨大な情報量を持った32億個のゲノムの0.1パーセントであるならば、割合は少なくても数にすれば数百万個になるわけです。そして、この数百万個が持つ情報の差異が、たとえば、個々人の「太りやすい、太りにくい」「ある病気にかかりやすい、かかりにくい」という違いに影響している可能性があるので、やはりゲノム研究は人類の大いなる関心の対象だと言えるでしょう。

赤の他人もさかのぼれば皆、親戚!?

 ところで、このようにわれわれ人類は遺伝子の観点から見て「ほとんど同じ」なのですが、生物学的に見ても、さかのぼれば赤の他人ではなく皆、親戚同士になるのだそうです。

 たとえば、もし曽祖父と曾祖母がいとこ同士で結婚した場合、その父親か母親のどちらかが兄弟だったということになります。するとその一代前は同一の両親ということになり、こうしたことがあちこちで何代にも渡って繰り返されれば、祖先は自ずと重なってきます。逆にこうしたことがなければ、祖先は膨大に膨れ上がって、当時の人口をはるかに超える数のヒトがいたことになってしまいます。しかし、そうはなっていません。つまり、これは先述した重なり現象によるもので、実は人類に限らず有性生殖、すなわち父親と母親、雄と雌から生まれる生物全般に言えることなのです。

 このように生物学的にみると、私たち人類はさかのぼれば皆、親戚と言えるわけで、また、遺伝学上から見ても前述したようにヒトとチンパンジーはゲノムの99パーセントを共有しており、これもまた、「さかのぼれば親戚同士」の証です。さらに言えば、チンパンジーだけでなく多くの生物がヒトと共通のゲノムを有するため、どんどんさかのぼれば「生物の大きな共通性を生みだす源にたどりつく」と斉藤氏は言います。

 かつて、チャールズ・ダーウィンはさまざまな生物が共通祖先から枝分かれを繰り返しながら進化してきたとする「生命の樹」仮説を打ち立てましたが、どうやら遺伝学上から見ても「人類、生きとし生けるもの皆、兄弟」という言葉は、ある真実を告げているように思えます。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

55年体制は民主主義的で、野党もブレーキ役に担っていた

55年体制は民主主義的で、野党もブレーキ役に担っていた

55年体制と2012年体制(1)質的な違いと野党がなすべきこと

戦後の日本の自民党一党支配体制は、現在の安倍政権における自民党一党支配と比べて、何がどのように違うのか。「55年体制」と「2012年体制」の違いと、民主党をはじめ現在の野党がなすべきことについて、ジェラルド・カ...
収録日:2014/11/18
追加日:2014/12/09
2

5Gはなぜワールドワイドで推進されていったのか

5Gはなぜワールドワイドで推進されていったのか

5Gとローカル5G(1)5G推進の背景

第5世代移動通信システムである5Gが、日本でもいよいよ導入される。世界中で5Gが導入されている背景には、2020年代に訪れるというデータ容量の爆発的な増大に伴う、移動通信システムの刷新がある。5Gにより、高精細動画のような...
収録日:2019/11/20
追加日:2019/12/01
中尾彰宏
東京大学 大学院工学系研究科 教授
3

マスコミは本来、与野党機能を果たすべき

マスコミは本来、与野党機能を果たすべき

マスコミと政治の距離~マスコミの使命と課題を考える

政治学者・曽根泰教氏が、マスコミと政治の距離を中心に、マスコミの使命と課題について論じる。日本の新聞は各社それぞれの立場をとっており、その報道の基本姿勢は「客観報道」である。公的異議申し立てを前提とする中立的報...
収録日:2015/05/25
追加日:2015/06/29
曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
4

BREXITのEU首脳会議での膠着

BREXITのEU首脳会議での膠着

BREXITの経緯と課題(6)EU首脳会議における膠着

2018年10月に行われたEU首脳会議について解説する。北アイルランドの国境問題をめぐって、解決案をイギリスが見つけられなければ、北アイルランドのみ関税同盟に残す案が浮上するも、メイ首相や強硬離脱派はこれに反発している...
収録日:2018/12/04
追加日:2019/03/16
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

健康経営とは何か?取り組み方とメリット

健康経営とは何か?取り組み方とメリット

健康経営とは何か~その取り組みと期待される役割~

近年、企業における健康経営®の重要性が高まっている。少子高齢化による労働人口の減少が見込まれる中、労働力の確保と、生産性の向上は企業にとって最重要事項である。政府主導で進められている健康経営とは何か。それが提唱さ...
収録日:2021/07/29
追加日:2021/09/21
阿久津聡
一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻教授