テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.10.27

三日坊主はどうすれば克服できるのか?

 健康のために毎日ジョギングをしよう。英会話のクラスに通ってスキルアップしよう。「よりよい自分」になるための目標をたて、そして三日坊主で挫折してしまう。こんな経験を持っている、いえ、繰り返している人も多いでしょう。

 この悩ましくて身近な三日坊主問題はどう解決できるのか。そのヒントになりそうなのが、「行動分析学」です。行動分析学というのは心理学の一領域ですが、一般的な心理学とは異なり、人の行動の理由を「あの人はせっかちだから」「私には知識がないから」などと、心や性格、能力などで説明しません。人の行動と環境の関係性で考えてみようという学問なのです。

 ここでは、三日坊主という問題を、行動分析学の観点から「目標を立てても長続きしない、達成できない」という行動とその背景となる環境の関係性から見てみます。

なぜ三日坊主になってしまうのか

 まず、三日坊主になってしまう要因を分析すると2つの型が見えてくる、と行動分析学の研究者島宗理氏は言います。

 その1つは名づけて「ちりも積もれば山となる型」。これはいわば、毎日の行動の積み重ねが長期的な結果につながるタイプのことです。たとえば、健康のために毎日ジョギングをしよう。仕事のスキルアップのためにも英会話レッスンに通おう、と決心したのもどこへやら、続かなくなってしまったというのがこれに当たります。これらの行動の成果は、1回運動したから、1回練習したからといってすぐに現れるものではありません。毎日の行動がある程度の期間積み重なって初めて、本人がその成果を実感することができます。

 もう1つは「天災は忘れた頃にやってくる型」です。たとえば、万一のパソコンのアクシデントに備えて、データバックアップはこまめに行おう、地震や台風などの防災対策は常日頃から心がけておこう、とアタマでは分かっていても、実際にパソコンがクラッシュしたり、大災害に遭遇するといった確率は低いため、ついつい常日頃の備えの行動はおろそかになってしまいます。

どうしたら三日坊主から脱却できるのか

 では、どうしたら「やろうと思ったのに続かない」という三日坊主から脱却できるのでしょうか。島宗氏は、行動と環境の関係性から導き出す2つの方法を提案します。

 1つ目が、行動を記録に残し、かつその行動にほうびを与えるというもの。俗に言う「自分にごほうび」です。ちゃんとできたことを記録し、「1時間勉強したら10分コーヒーブレイク」といった簡単なほうびを与えることで、次の行動強化を促します。

 2つ目が、行動を起こしやすい環境をつくること。行動分析学的には「行動コストを下げる」と言います。たとえば、教材は本棚にしまいこまない。いつでも開けるように手元に置く。当の島宗氏は興味を持って始めたウクレレの練習が進まないため、まず環境を見直しました。そして、ケースに入れて戸棚にしまっていたウクレレを、ケースから出してすぐそばに置くことで、気軽にいつでも練習できるようにしたと言います。また、これは作家の井上ひさし氏の話ですが、資料の読み込みに必要な本はいつでも読めるようにばらばらにして、手軽な形で持ち歩いていたとか。これも自ら環境を工夫した好例といえるのではないでしょうか。

 要は、行動そのものではなく環境を行動が継続しやすくするように変えるのがポイントだということです。

 三日坊主というのは、目標を達成できないというデメリットもさることながら、「また、挫折してしまった。なんて自分はだめなんだ」と自己嫌悪に陥ってしまう、という負の面も抱えています。そのうち「どうせ三日坊主で終わってしまうから」と何もやる気をなくしてしまうといった事態も招きかねません。そうなる前に、環境との関係で行動を変える行動分析学の考え方を取り入れてみてはどうでしょうか。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か

地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か

海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ

海底はどうやってできるのか。なぜ火山ができるのか。プレートが動くのは地球だけなのか。またそれはどうしてか。ではプレートは海底の動きの全てを説明できるのか。地球史規模の海底の動きについて、海底調査の実態から最新の...
収録日:2020/10/22
追加日:2021/05/02
沖野郷子
東京大学大気海洋研究所教授 理学博士
2

米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長

米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長

経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力

人が成長していくために重要な経験学習。その学習サイクルを適切に回していくためには、「経験から学ぶ力」が必要になる。ではそこにはどのような要素があるのか。ストレッチ、リフレクション、エンジョイメントという3要素と、...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/17
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授
3

日本と各国の比較…税負担は低いが社会保障の負担は高い

日本と各国の比較…税負担は低いが社会保障の負担は高い

続・日本人の「所得の謎」徹底分析(1)各国の財政と国民負担

国民の税負担を増やすか、政府の財政支出を増やすか。前回の講義《日本人の「所得の謎」徹底分析》に続き、見解の分かれる日本の財政に関する議論を今一度整理し、見通しを与える当講義。まずは日本の財政と国民の負担の現在地...
収録日:2025/07/10
追加日:2025/09/17
養田功一郎
元三井住友DSアセットマネジメント執行役員 YODA LAB代表 金融・経済・歴史研究者
4

「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味

「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味

未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査

現在の宇宙開発は「国際月探査」を合言葉に掲げている。だが月は人類の移住先にも適さず、探査にさほどメリットがない。にもかかわらずなぜ「月探査」が目標として掲げられているのか。それは冷戦後、宇宙開発の目標を失った各...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/16
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
5

百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために

百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために

大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(4)百年後の日本人のために

硫黄島の戦いでの奇跡的な物語を深く探究したノンフィクション『大統領に告ぐ』。著者の門田隆将氏は、「読者の皆さんには、その場に身を置いて読んでほしい」と語る。硫黄島の洞窟の中で、自分が死ぬ意味を考えていた日本人将...
収録日:2025/07/09
追加日:2025/08/15
門田隆将
作家 ジャーナリスト