テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.11.20

正解率28%「憮然」の意味は?世論調査の結果

 「憮然(ぶぜん)として立ち去った」と聞くと、あなたはどんな場面を思い浮かべるでしょうか。「憮然」の意味を、以下の二択から選んでみてください。

 【憮然の意味はどちら?】
1)失望してぼんやりとしている様子
2)腹を立てている様子

平成から令和につながる「国語に関する世論調査」

 令和元(2019)年10月29日、文化庁国語課より、平成30(2018)年度「国語に関する世論調査」(以下「調査」)の結果が発表されました。

 調査は、平成7(1995)年度から毎年、文化庁国語課により実施されています。調査の目的は、「日本人の国語に関する意識や理解の現状について調査し、国語施策の立案に資するとともに、国民の国語に関する興味・関心を喚起する」ことにあります。

 調査対象は全国16歳以上の男女、平成30年度の調査時期は平成31(2019)年2月~3月、調査方法は個別面接調査で実施されました。そして調査の回収結果は、調査対象総数3,590人、うち有効回収数(率)1,960人(54.6%)となっています。

 調査の内容は社会や家庭での言葉遣い、新しい複合語や省略語、漢字・慣用句・敬語・外来語などの理解度や関心度から、会話・手紙・メールといった言語コミュニケーションの現状など、多岐にわたります。

 平成30年度の調査における慣用句等の意味についての問いでは、冒頭で紹介した「憮然」以外にも、「御の字」と「砂をかむよう」が取り上げられました。

「憮然」の“本来の意味”は何?

 ではここで、「憮然」の“本来の意味”を見てみましょう。

 『日本国語大辞典』を引くと、「憮然」は「意外な出来事に驚いて茫然とするさま。また、失望したり、どうしようもなかったりしてぼんやりするさま」と記されています。したがって冒頭の選択肢で選べば、「1)失望してぼんやりとしている様子」が本来の意味とされています。

 「憮然」は、今回の平成30(2018)年度のだけでなく、平成19(2007)年度および平成15(2003)年度にも調査されています。年度別の調査結果をあわせてまとめると、以下となります。

 【憮然の意味は?:年度別】
1)失望してぼんやりとしている様子:平成30年度28.1%・平成19年度17.1%・平成15年度16.1%
2)腹を立てている様子:平成30年度56.7%・平成19年度70.8%・平成15年度69.4%
3)1)と2)の両方:平成30年度6.3%・平成19年度2.0%・平成15年度2.7%
4)1)2)とは、全く別の意味:平成30年度1.5%・平成19年度0.7%・平成15年度3.4%
5)分からない:平成30年度7.4%・平成19年度9.5%・平成15年度8.3%

 以上のように平成30年度の調査では、“本来の意味”である「1)失望してぼんやりとしている様子」を選択した割合が約28%に留まったことに対して、本来の意味ではない「2)腹を立てている様子」を選択した割合が約57%という、逆転した結果が出ています。

 ただし、過去の調査結果と比較すると、“本来の意味”とされる方を選択した割合が一貫して増加している傾向にあります。

「憮然」の“本来の意味”は若年層ほど浸透?

 さらに調査結果を「年度・年代別」でまとめると、以下となります。

 【憮然の意味は?:年度・年代別】※1)と2)の比較
(平成30年度)
1)失望してぼんやりとしている様子:
16~19歳69.5%・20代47.4%・30代47.2%・40代31.4%・50代24.4%・60代18.6%・70歳以上18.7%
2)腹を立てている様子:
16~19歳22.0%・20代38.8%・30代42.0%・40代56.2%・50代63.7%・60代64.2%・70歳以上61.5%
(平成19年度)
1)失望してぼんやりとしている様子:
16~19歳36.3%・20代25.4%・30代19.0%・40代15.0%・50代12.7%・60代13.4%・70歳以上17.4%
2)腹を立てている様子:
16~19歳45.0%・20代59.3%・30代73.0%・40代77.8%・50代76.5%・60代75.5%・70歳以上63.9%
(平成15年度)
1)失望してぼんやりとしている様子:
16~19歳34.9%・20代19.0%・30代10.8%・40代14.1%・50代10.7%・60代13.7%・70歳以上26.1%
2)腹を立てている様子:
16~19歳39.6%・20代55.7%・30代73.7%・40代76.2%・50代80.9%・60代73.6%・70歳以上55.9%

 あらためて年齢別で見てみると、「1)失望してぼんやりとしている様子」と回答した年代はどの年度においても16~19歳の割合が一番高く、次いで20代の割合が高いという結果が出ています。

 特に平成30年度の16~19歳では69.5%と高く、「2)腹を立てている様子」の16~19歳での22.0%を大きく上回っています。同様に、平成30年度は20代と30代でも、「1)失望してぼんやりとしている様子」が「2)腹を立てている様子」を上回っています。

 一方、「2)腹を立てている様子」回答した年代は50代上の割合が高く、平成15年度および平成19年度よりも減少傾向にあるものの、平成30年度でも50代・60代・70歳以上は6割台前半となっています。

たまには言葉の“本来の意味”をめぐる思考を

 調査結果のまとめから、“本来の意味”とされる方を選択した割合が一貫して増加傾向にあることや、若年層の方が“本来の意味”とされる方を選択した割合が多いという結果が見えてきました。この結果の意味するところは、過去の調査結果が国語施策に生かされ、特に若年層の教育現場で活用されていることなのかもしれません。

 2008年から調査に関わってきた文化庁国語課・国語調査官の武田康宏氏は、「“本来と違う=間違い”ではない」とし、「慣用句に関する問いは“ただおもしろおかしくやろうとしているだけではないか”と誤解されることがないようにしたいと思っています。そして、正誤を問題にしているのではない、ということもきちんと伝えたいですね」と述べています。

 “生きている”ともいわれる言葉は絶えず変化しています。そのため、“本来の意味と違う”からといって、必ずしも“間違い”というわけではありません。しかし、“本来の意味”を知らないまま自己認識だけで他者とのコミュニケーションを図ったり、安易に過去の資料を参照したりすることなどには、ディスコミュニケーションや誤読などの危険性が潜んでいます。

 武田氏は、調査の設問を考える際に、「話題にしていただけそうな問いを入れる」ことを意識し、「調査の報道を見て、年に一度くらい、家族で囲むテーブルや仕事帰りの居酒屋などで、皆さんが言葉のことを話題にしてくださるような機会にしていただきたいという意図もあります」と述べています。

 言葉は思考にもコミュニケーションにも欠かせません。自身や他者のために惜しみなくよりよく使いながらも、たまにはメンテナンスのためにも“本来の意味”をめぐって思考をしてみてはいかがでしょうか。何気なく使っている言葉でも、深みが増して親しみが湧いてくるように思います。

<参考文献・参考サイト>
・国語に関する世論調査│文化庁
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/index.html
・「国語に関する世論調査」、『イミダス 2018』(集英社)
・「憮然」、『日本国語大辞典』(小学館)
・「憮然」、『デジタル大辞泉』(小学館)
・文化庁「国語に関する世論調査」 “中の人”に聞いた | 毎日ことば
https://mainichi-kotoba.jp/blog-20190907
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(4)サウジアラビアとイランの存在感

中東のグローバル・サウスといえば、サウジアラビアとイランである。両国ともに世界的な産油国であり、世界の政治・経済に大きな存在感を示している。ただし、石油を武器にアメリカとの関係を深めてきたのがサウジアラビアであ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/24
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
2

権威主義とポピュリズムへの対抗…歴史を学び、連帯しよう

権威主義とポピュリズムへの対抗…歴史を学び、連帯しよう

民主主義の本質(5)民主主義を守り育てるために

ポピュリズムや権威主義的な国家の脅威が迫る現在の国際社会。それに対抗し、民主主義的な社会を堅持するために、国際社会の中で日本はどのように振る舞うべきか。議論を進める前提として大事なのは「歴史から学ぶ」ことである...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/04/23
橋爪大三郎
社会学者
3

起業の極意!サム・アルトマンと松下幸之助

起業の極意!サム・アルトマンと松下幸之助

編集部ラジオ2024:4月24日(水)

ChatGPTを開発したことで一躍有名となったOpenAI創業者のサム・アルトマン。AIの発展によって社会は大きく、急速に変化しており、その中心的な人物こそが彼であるといっても過言ではありません。

そんなアルトマンが...
収録日:2024/04/15
追加日:2024/04/24
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
4

ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景

ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景

ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か

ルネサンス美術とはいったい何なのか。これを考えるためには、なぜその時代に古代ギリシャ、ローマの文化が復活しなければならなかったのかを考える必要がある。その鍵は、ルネサンス以前のイタリアの分裂した都市国家の状態や...
収録日:2019/09/06
追加日:2019/10/31
池上英洋
東京造形大学教授
5

ノーベル賞受賞「オートファジー」とは?その仕組みに迫る

ノーベル賞受賞「オートファジー」とは?その仕組みに迫る

オートファジー入門~細胞内のリサイクル~(1)細胞と細胞内の入れ替え

2016年ノーベル医学・生理学賞の受賞テーマである「オートファジー」とは何か。私たちの体は無数の細胞でできているが、それが日々、どのようなプロセスで新鮮な状態を保っているかを知る機会は少ない。今シリーズでは、細胞が...
収録日:2023/12/15
追加日:2024/03/17
水島昇
東京大学 大学院医学系研究科・医学部 教授