社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
モーツァルトとベートーヴェンの決定的な違い
「偉大な音楽家」と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトとルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが双璧といってよいでしょう。どちらも不世出の天才の名を欲しいままにする音楽家ですが、玉川大学芸術学部芸術教育学科教授の野本由紀夫氏は、この2人の間には決定的な違いがあると言います。
こうした音楽家の位置付けを画期的に変えたのがベートーヴェンでした。ベートーヴェンを境に音楽家は「職人」から「芸術家」へと変容を遂げました。作曲することで依頼人から報酬を得ることはかないませんが、いわばフリーランスとして自分の作りたい音楽を一音、一音にいたるまでこだわり、自分が気に入るまで徹底的に吟味して昇華させていく。こうした芸術家の時代になったのです。
野本氏は、例えば演奏会では聴衆が静かに大人しく曲を聞くのも、演奏中は咳払いもはばかられるようなかしこまった雰囲気になるのも、音楽が娯楽的なものから芸術的価値を強く持つようになったベートーヴェン以降のことだと言います。また、それまで重視されていたオペラに代わって、楽器による音楽・交響曲を音楽の最高峰的地位に押し上げたのも9つもの後世にのこる優れた交響曲をかいたベートーヴェンの功績と言ってよいでしょう。
自由、平等、博愛を旗印にした革命を背景に社会環境は大きく変化しました。パトロンのお抱え職人的音楽家というスタイルが衰退していく中で、誰の支配下にも置かれない自由で自立した芸術家としての音楽家が生まれ育っていったのです。
実際に彼は、革命の英雄ナポレオン・ボナパルトに心酔し、ナポレオンに捧げる曲として交響曲を作曲しました。しかし、そのナポレオンが世俗的な権力の象徴である皇帝になると聞いて、書き上げた楽譜をぐしゃぐしゃに丸めてしまったというほど、ベートーヴェンの失望は大きかったと言います。結局この交響曲はナポレオンの名をはずして「英雄交響曲」として世に送り出されましたが、いかにベートーヴェンが生涯に渡って、自由と平等を信念としていたのかがよく分かるエピソードです。
2020年はベートーヴェン生誕250年の記念すべき年となります。クラシック音楽の真の革命児ともいえるベートーヴェンの曲に親しむいい機会になるかもしれません。
モーツァルトとベートーヴェンの違いとは?
一言でいえば、モーツァルトの時代は音楽は娯楽であり音楽家は職人的要素を多く持っていました。王族、貴族、教皇といった注文主がいて、そのオーダーに従って音楽を作るというスタイルが一般的だったのです。注文に応えれば時に多額の報酬を得ることができましたが、その代わりクライアントの希望は忠実に再現しなければなりませんでした。曲調や楽器の人数、曲の長さ、どんな場で演奏するものなのか。すべて注文主あってこその音楽であったのです。こうした音楽家の位置付けを画期的に変えたのがベートーヴェンでした。ベートーヴェンを境に音楽家は「職人」から「芸術家」へと変容を遂げました。作曲することで依頼人から報酬を得ることはかないませんが、いわばフリーランスとして自分の作りたい音楽を一音、一音にいたるまでこだわり、自分が気に入るまで徹底的に吟味して昇華させていく。こうした芸術家の時代になったのです。
野本氏は、例えば演奏会では聴衆が静かに大人しく曲を聞くのも、演奏中は咳払いもはばかられるようなかしこまった雰囲気になるのも、音楽が娯楽的なものから芸術的価値を強く持つようになったベートーヴェン以降のことだと言います。また、それまで重視されていたオペラに代わって、楽器による音楽・交響曲を音楽の最高峰的地位に押し上げたのも9つもの後世にのこる優れた交響曲をかいたベートーヴェンの功績と言ってよいでしょう。
フランス革命とベートーヴェンのきってもきれない関係
では、なぜこのような変化がモーツァルトとベートーヴェンの間で生じたのでしょうか。2人の生きた時代を比べると、モーツァルトは1756年から1791年。ベートーヴェンはモーツァルトより14年ほど遅れて1770年に生まれ1827年に没しています。すなわち、モーツァルトは1789年のフランス革命後すぐにこの世を去ったのに対し、ベートーヴェンは青年期にフランス革命と同時代を生きているのです。自由、平等、博愛を旗印にした革命を背景に社会環境は大きく変化しました。パトロンのお抱え職人的音楽家というスタイルが衰退していく中で、誰の支配下にも置かれない自由で自立した芸術家としての音楽家が生まれ育っていったのです。
熱狂と失望と
このような時代を生きたベートーヴェンは、実は18歳でドイツの西端にあるボンの大学に聴講生として通っていたという記録が残っています。そこでベートーヴェンが学んだのは、ジャン・ジャック・ルソーやモンテスキューらの「啓蒙思想」でした。人間は生まれながらに自由にして平等であると唱え、人間性の解放を目指す思想を学ぶ最中にフランス革命が起きたのですから、ベートーヴェンがいかに革命に熱狂したかは想像に難くありません。実際に彼は、革命の英雄ナポレオン・ボナパルトに心酔し、ナポレオンに捧げる曲として交響曲を作曲しました。しかし、そのナポレオンが世俗的な権力の象徴である皇帝になると聞いて、書き上げた楽譜をぐしゃぐしゃに丸めてしまったというほど、ベートーヴェンの失望は大きかったと言います。結局この交響曲はナポレオンの名をはずして「英雄交響曲」として世に送り出されましたが、いかにベートーヴェンが生涯に渡って、自由と平等を信念としていたのかがよく分かるエピソードです。
2020年はベートーヴェン生誕250年の記念すべき年となります。クラシック音楽の真の革命児ともいえるベートーヴェンの曲に親しむいい機会になるかもしれません。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
近代医学はもはや賞味期限…日本が担うべき新しい医療へ
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(3)医療の大転換と日本の可能性
ますます進む高齢化社会において医療を根本的に転換する必要があると言う長谷川氏。高齢者を支援する医療はもちろん、悪い箇所を見つけて除去・修理する近代医学から統合医療への転換が求められる中、今後世界の医学をリードす...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/19
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13


