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DATE/ 2020.03.01

値上げして失敗した店と成功した店、その差は?

 全国にはたくさんの小売店、いわゆるお店があります。さまざまな営業努力のうえに、それぞれのお店の経営は成り立っています。もちろん小売店だけでなく一般企業であっても営利目的である以上はいわゆるお店として、売上を計上して成功することを目的としています。

 そんなお店にとって、なによりも難しく、またなによりも重要なことは、“商品に適正な値段つけること”といっても過言ではないでしょう。値段のつけ方によって、お店は繁盛することもあれば、逆に倒産してしまう危険すらあります。とくに顧客の不満=顧客離れの要因となりやすい“値上げ”には、細心の注意と熟慮、そしてある意味で放胆な勇気と先見性が必要になってきます。

 それでも難しい値上げ。今回は、値上げして失敗した店と成功した店を取り上げ、その差を考察してみたいと思います。

値上げして失敗?

 「いきなり!ステーキ」:株式会社ペッパーフードサービスが展開するステーキ店のチェーン。2013年12月の銀座1号店の開店から、立ち食い形式、ステーキを量り売りで提供といったスタイルが受けて、店舗網を拡大しながら急成長を遂げました。しかし、ニューヨーク進出での惨敗や各地でのライバル店の台頭などで失速。さらに度重なる値上げが決定打となり、2019年12月期決算では2年連続の赤字となっています。

 「てんや」:ロイヤルホールディングス株式会社が展開する天丼屋のチェーン。2018年1月に看板商品「天丼並盛」(500円から540円)を含む6品を値上げします。主力商品がワンコインで食べられなくなった衝撃は大きかったのか、以降、既存店売上高のマイナスが続くといった芳しくない経営状態が続いています。

 「鳥貴族」:株式会社鳥貴族が運営する焼き鳥屋のチェーン。2017年10月にキャッチコピーのように浸透していた全品280円(税別)から全品298円に値上げをしたことにより、売上高が想定以上に失速することになりました。ただし、鳥貴族の値上げは専門家からみると中長期的な経営戦略としては一概に失策ともいえない面もあるようで、一例として2020年1月の直営店の既存店売上高が前年同月比7.5%増となるなど、復活の兆しも見えてきているようです。

値上げしても成功!?

 「QBハウス」:キュービーネットホールディングスが展開する低価格ヘアカット専門店のチェーン。2019年2月から通常料金を1080円から1200円に値上げし、増収に成功しました。値上げが成功した理由には、1)値上げした料金でも一般的な理美容店のカット料金より安い、2)全国展開の店舗が他の低価格ヘアカット事業者より好立地である、3)おおむねスタッフのカットスキルが値段に見合って担保されている――などが挙げられます。

 「カレーハウスCoCo壱番屋」:株式会社壱番屋が展開するカレー屋のチェーン。通称「ココイチ」。2019年3月にもポークカレーなどの主力商品を含めて値上げし、客数は減少したものの2019年9~11月の営業利益は前年同期比で22%の増加となっています。ところで、ココイチの値上げは今回だけでなく、過去にも何度も行われていますが、その都度一定の成功を収めています。背景には、ココイチの最大の魅力ともいわれる豊富なトッピングがあります。トッピング個々の値上げ幅が小さいため、固定客ほど値上げに気をとめにくいといったことがあるようです。

 「たいやき ともえ庵」:有限会社ともえ産業代表の辻井啓作氏が経営するたいやき屋さん。2018年2月に定番商品のたいやきを150円から180円に値上げし、値上げから3カ月で売上高増に成功しました。辻井氏の挙げる値上げの基本姿勢、1)定番商品の値上げに小細工は逆効果。基本は「ごめんなさい!」で、理由を伝えて顧客に正直に頭を下げる、2)値上げの理由を誠意と正確性をもって告知し、価格の正当性を顧客に理解してもらう――に、成功の秘訣があるように思います。

値段以上の価値をつくり認知してもらう

 成功店として取り上げた「たいやき ともえ庵」を経営する辻井啓作氏は、実は中小企業診断士でもあり、多数の中小店の値上げ戦略を支援してきた経験があります。その経験から、値上げには商品やサービスを、顧客が見たことがなく、価値が高く感じられるものとして演出することの必要性を述べています。

 値上げで成功した店は、単に商品の値段を上げることに成功したのではなく、自店の価値を上げることに成功した店といえるのではないでしょうか。

 ただし商売においては、どんな成功であっても、ときには失敗すらも、永続的ではありません。例えば、失敗例として取り上げた「鳥貴族」に復活の兆しが見えてきている反面、成功例として取り上げた「カレーハウスCoCo壱番屋」も度重なる値上げによって、「好きだけど、高くなりすぎた…」と感じる顧客の声も聞こえてくるなど、成功も失敗もあくまでも観測時点での結果ともいえます。

 失敗した店と成功した店の差を考察すると同時に、失敗した店であっても成功した店であっても、自店の現状を鑑みながら未来を描いてその差を埋めていく自己調整力も必要なのかもしれません。

<参考文献・参考サイト>
・QBハウス、1割値上げでも客数減“起きず”大幅増益…低価格&高い技術で「敵が不在」状態
https://biz-journal.jp/2019/10/post_121930.html
・ココイチ、「ほぼ毎年値上げ作戦」成功のわけ
https://toyokeizai.net/articles/-/278871
・外食9社、5社が営業減益 9~11月、消費増税が逆風
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54375740U0A110C2DTA000/
・「値上げの実践 たいやきともえ庵東京の定番150円から30円値上げの理論と現実」『商業界』(2018年7月号、筒井秀礼著、商業界)
・「いきなり!ステーキ」失速 相次ぐ値上げと大量出店の誤算
https://www.news-postseven.com/archives/20191204_1501125.html/3
・500円→540円の値上げで進む「てんやの客離れ」「天丼なのに手軽」のイメージが変化
https://president.jp/articles/-/29969
・鳥貴族の大失速が教える「商売の価格設定」こんなに難しい
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64293
・<東証>鳥貴族が1年8カ月ぶり高値 既存店7.5%増収、「復活が鮮明に」の声
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL10HVJ_Q0A210C2000000/
・『小さな会社・お店のための 値上げの技術』(辻井啓作著、CCCメディアハウス)

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