テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2020.04.28

なぜ東横インは支配人の97%が女性なのか

 毎日経済人賞は、優れた経営手腕で経済界に新風を吹き込み、社会的、文化的な活動を通じて国民生活の発展に貢献した経営者をたたえるもの。2020年の第40回に、女性として初めてこの賞を受賞したのが東横インの代表執行役社長を務める黒田麻衣子氏です。講義とプロフィールから、その活躍ぶりをのぞいてみましょう。

創業時からの伝統で女性支配人率97%

 周囲を見ると、いきいきと活躍している女性は多いのに、国としての「女性活躍」は遅々として進みません。2019年末にも世界経済フォーラム(WEF)の発表したジェンダー・ギャップ指数で、日本は世界153カ国中、過去最低の121位に落ち込みました。

 となると、これは女性の活躍ぶりが問われているのではなく、社会からの評価ぶりに問題がありそうです。たとえば東横インでは、創業以来の伝統から「支配人の97%が女性」という積極登用を行っています。

 創業者は黒田氏の父親である西田憲正氏。ひょんなことからホテル経営に携わることになった西田氏は、1号店となったホテルの支配人にたまたま女性を起用します。それは西田氏行きつけの飲み屋のママさんだったのですが、次にオープンした2号店との間に稼働率で大きな差が出ました。

 調べてみると、女性が支配人をやっているホテルはとてもきれいで居心地がよく、一方の2号店はなんとなくタバコ臭く、暗くて汚いことが分かりました。「女性に向いた仕事なのかもしれない」という直感は、そのとき以来大切にされています。

 「女性のリーダーを出したいと思えば、やはり女性だけの組織にすべきだ」と思う、と黒田氏。その理由は、女性が男性に対して遠慮をしてしまうから。男性のいる組織では、「自分がリーダーをやります」と手を挙げる女性はまずいないとのこと。女性は調整役やガス抜き役にまわり、数字や評価につながる活動から外れがちになるとのことです。

 でも、まわりが女性ばかりであれば自ずとそこから女性のリーダーが出てくる。それは黒田氏自身が強く実感していることです。

女性の特性を生かした「現地採用」で地元色も

 「女子校育ちで、他の会社に就職したこともないため、女性だけの職場にあまり違和感がない」と述べる黒田氏は、2002年に東横インに入社しますが、出産のため2005年には一旦退社して家庭に入ります。2008年に副社長として復帰するのは、いわゆる専業主婦として3年ほど過ごした後のことです。

 地域に密着して生活する女性の特性を知っているため、東横インでは全国津々浦々に存在するホテルの支配人を「現地採用」に限っています。ユーザーにとっては、そこに泊まればその地域のグルメ情報や観光情報も得られるため、一石二鳥。地元愛のある人がホテル・スタッフをしていると、安心感が違います。

 さらに東横インでは、ホテル支配人募集について「未経験で構いません」と呼びかけています。これも創業時、人を育てていく時間がなかったことと関連しているのですが、結果的にはそれが良かった、と黒田氏。

 また、優秀な女性でも、「支配人をやりませんか」と声をかけると「自分はリーダーには向いていない」と固辞する傾向が見られます。一方、最初から「リーダーになりたい」という意識のある人は、心構えも仕事ぶりも違うと言います。

「上から言われたのでなく」動くのが女性の特徴

 さて、女性ばかりの社会は、どういうところが男性社会とは違うのでしょうか。黒田氏によると、「俺の背中を見て仕事をしてほしい」というのが男性社会の特徴だとすると、女性の特徴としていえるのは、遊んだりおしゃべりしたりしているように見えて、部下への目配りや声がけが行き届いているところ。また、上司に対しても積極的に「モノを言う」人が多いとのこと。

 これらは、出世や評価という先の計算よりも、今現在の職場環境をよくすることに重点を置いているからできることなのかもしれません。社外の取締役からは「横からの情報伝達が速く、上下の情報伝達が下手」と指摘を受けたこともありますが、上より横を重視するのが、女性の特徴なのでしょう。

 「周りの居心地がよくなければ、自分も居心地が悪い」と感じる点が強みとなり、一つの店舗内だけでなく、災害時などの拠点同士の助け合いも自主的に行われているようです。

 2020年4月6日には「東横INN東京駅新大橋前」店舗が、東京都の新型ウイルスコロナ軽症・無症状患者を受け入れたことでも話題になりました。同日には国内外17ホテルを休館し、4月9日には国内4ホテルを厚生労働省や自治体の要請を受けて一棟貸し出しすることも決めています。

 このような素早い判断も女性経営者ならではといえるのかもしれません。そこには、助け合いの精神が込められていることは間違いないでしょう。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」

経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」

東洋の叡智に学ぶ経営の真髄(1)経営とは何かをひと言で?

東洋思想を研究する中で、50年間追求してきた命題の解を得たと田口佳史氏は言う。また、その命題を得るきっかけとなったのは松下幸之助との出会いだった。果たしてその命題とは何か、生涯の研究となる東洋思想とどのように結び...
収録日:2024/09/19
追加日:2024/11/21
2

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

今求められるリーダー像とは(3)原敬と松下幸之助…成功の要点

猛獣型リーダーの典型として、ジェネラリスト原敬を忘れてはならない。ジャーナリスト、官僚、実業家、政治家として、いずれも目覚ましい実績を上げた彼の人生は「賊軍」出身というレッテルから始まった。世界を見る目を養い、...
収録日:2024/09/26
追加日:2024/11/20
神藏孝之
公益財団法人松下幸之助記念志財団 理事
3

冷戦終焉から30年、激変する世界の行方を追う

冷戦終焉から30年、激変する世界の行方を追う

ポスト冷戦の終焉と日本政治(1)「偽りの和解」と「対テロ戦争」の時代

これから世界は激動の時代を迎える。その見通しを持ったのは冷戦終焉がしきりに叫ばれていた時だ――中西輝政氏はこう話す。多くの人びとが冷戦終焉後の世界に期待を寄せる中、アメリカやヨーロッパ諸国、またロシアや同じく共産...
収録日:2023/05/24
追加日:2023/06/27
中西輝政
京都大学名誉教授
4

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

『江戸名所図会』で歩く東京~吉原(1)「苦界」とは異なる江戸時代の吉原

『江戸名所図会』を手がかりに江戸時代の人々の暮らしぶりをひもとく本シリーズ。今回は、遊郭として名高い吉原を取り上げる。遊女の過酷さがクローズアップされがちな吉原だが、江戸時代の吉原には違う一面もあったようだ。政...
収録日:2024/06/05
追加日:2024/11/18
堀口茉純
歴史作家
5

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

教養としての「人口減少問題と社会保障」(4)増え続ける社会保障負担

人口減少が社会にどのような影響を与えるのか。それは政府支出、特に社会保障給付費の増加という形で現れる。ではどれくらい増えているのか。日本の一般会計の収支の推移、社会保障費の推移、一生のうちに人間一人がどれほど行...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/11/19
森田朗
一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI)所長・代表理事