テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2020.08.18

今どきの若者の「プライバシー」感覚とは?

 インターネットが日本でも身近なものになり始めたのは90年代半ば、その技術・利便性は日進月歩で進化してきていました。現在では生まれた時から高速で繋がるインターネット環境に見知らぬ他人とも繋がることのできるSNSのあったいわゆるZ世代も二十歳を迎えています。

 彼らの世代はかねてからSNSの危険な側面を熟知していてプライバシー保護意識が高いといわれてきましたが、近年それを覆す調査結果も出てきています。今回はZ世代の若者たちのプライバシー意識についてリポートします。

Z世代のTwitterアカウントは実名が主流?

 ここ数年、SNS界隈の中ではTwitterが良くも悪くも注目されてきました。最近ではYouTubeに散見していますが、バイト先やコンビニで悪ふざけしている姿を投稿して炎上騒ぎを起こし、投稿者の本名から住所、学校、勤務先まで晒される騒動は何度となく起きています。また、匿名で投稿ができることから個人への誹謗中傷の温床となり、追い詰められた人が自死してしまう痛ましい事件が起きているのはご存知の通りです。

 そんなTwitterを利用している高校生たちの5割が実名でアカウント登録し、かつ投稿の公開範囲を「全体」に設定しているのがその内の4割という調査結果が出ています。特に発言に注意を払っている様子もなく、学校名から行動範囲、今日はサボるというようなプライベートなことまで赤裸々にツイートしている子たちもいるようです。SNSにアップされた女性の自撮り写真の瞳に映り込んでいる建物から住居を特定されたストーキング事件も起こる昨今、あまりに無防備ではと心配になってきます。

若者がSNSを実名でやるメリットとは?

 基本的に従来のSNSはハンドルネームをつけてやるのが一般的でした。Facebookのように実名でやるところもありますが、そこは本名から経歴まで登録を義務付けることでお互いの言動に節度を持たせる役割もありました。また、芸能人やスポーツ選手、ビジネスマン、クリエイターなどは、名前を明かすことでファンとの交流ができたり、信頼性を高め広報活動をしたりできるというメリットがありますが、若者が実名でやる理由はなんでしょうか。実際にTwitterを実名アカウントでやっていたことのある二十歳の学生に訊いてみました。

 彼らが実名でSNSのアカウントを作った理由は、「友達と繋がりやすい」「見つけてもらいやすい」からだったそうです。彼らはフルネームは危ない、個人を特定しやすい漢字は避けてローマ字で名前だけの登録が暗黙の了解と、個人情報流出に対しての用心はしていました。しかしお調子者がフルネームのアカウントでツイートを「全体公開」にしていたところ、先生に見つかり大目玉を食らったと知れ渡り、一斉に「一部にしか公開しない」ようロックをかけたそうです。

 彼の言葉を借りるならば、「どういうやつが集まるコミュニティーに所属しているか」で、傾向も違ったということでした。フォロワー、イイね!の数がステータスになっているグループもあれば、普通に調べ物ツールとして以上の使い方をしない子たちも居たそうです。Z世代の子たちは親世代よりもずっと新しいツールを使いこなし楽しさを見出せるぶん、プレッシャーを受けているとも窺えます。

あなたと私の位置情報共有アプリ

 SNSとは別に、近年ティーンエイジャーに利用されているものにZenlyをはじめとした位置情報共有アプリがあります。アプリを登録しているメンバーが現在どこにいるか、どのような経路で移動しているか、居場所の情報を共有するのを目的としたものです。誰と誰がこの店で1時間お茶をしている……そんなことまでわかるようになっています。

 プライバシーが筒抜けなのは気にならないのか、やはり実際に使っている子に訊いてみたところ、子供の頃から登下校の見守りアプリが入れられていた、それを親とではなく友人間で使っているだけだから抵抗がないということでした。一緒に登下校や遊びに行くのに大変便利だそうです。ただ、プライバシーを気にする感覚には個人差があり、そこまで親しくない同級生に登録してよといわれると断るのに苦労するそうです。最終的には距離感についてのマナー感覚が問題になってくるといったところでしょうか。

望もうと望まなかろうとやってくる新しいツールに対して

 携帯電話を持っているのが当たり前になった頃、首に鈴をかけられるみたいで嫌だと持たないようにしている方も一定数居ました。しかし、普及率が進むにつれて携帯を持っているのを前提とした社会になり、今では持っていないと非常に不便になっています。

 同様に若者たちに使われている最新のコミュニケーションツールも当たり前になっていくのかもしれません。よく用いられる例えですが、ナイフは本来の目的どおりに使えば肉を切り分けたり果物を剥いたりすることができます。しかし、人を傷つけてしまえば凶器です。スマホのアプリも悪用されれば人を傷つけるものになります。新旧問わず、すべてのツールは取り扱いを間違うと危険であると親子で話し合うことが肝要になりそうです。

<参考サイト>
・『高校生Twitter利用者の52.7%は「実名利用」、実名利用している高校生のうち41.1%は「すべての人」に情報を公開|MMD研究所
https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1703.html
・『アプリ「Zenly」で居場所も移動経路も公開 今どき10代のプライバシー感』朝日新聞GLOBE
https://globe.asahi.com/article/13520464
・『デジタルストーカーの仰天手口 SNS写真の瞳に映る風景から自宅特定、ピース写真の指紋から不正ログイン』東京新聞TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/19171
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か

地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か

海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ

海底はどうやってできるのか。なぜ火山ができるのか。プレートが動くのは地球だけなのか。またそれはどうしてか。ではプレートは海底の動きの全てを説明できるのか。地球史規模の海底の動きについて、海底調査の実態から最新の...
収録日:2020/10/22
追加日:2021/05/02
沖野郷子
東京大学大気海洋研究所教授 理学博士
2

「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味

「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味

未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査

現在の宇宙開発は「国際月探査」を合言葉に掲げている。だが月は人類の移住先にも適さず、探査にさほどメリットがない。にもかかわらずなぜ「月探査」が目標として掲げられているのか。それは冷戦後、宇宙開発の目標を失った各...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/16
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
3

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本

組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授
4

トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ

トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ

トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン

アメリカのトランプ大統領は、2025年5月に訪れたサウジアラビアでの演説で「トランプ・ドクトリン」を表明した。それは外交政策の指針を民主主義の牽引からビジネスファーストへと転換することを意味していた。中東歴訪において...
収録日:2025/08/04
追加日:2025/09/13
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
5

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率

日本の政治史を見る上で地理的条件は外せない。「島国」という、外圧から離れて安心をもたらす環境と、「山がち」という大きな権力が生まれにくく拡張しにくい風土である。特に日本の国土は韓国やバルカン半島よりも高い割合の...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/15
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家