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DATE/ 2020.10.30

4つの因子が幸福度を高める「幸福のメカニズム」

 「幸福なんて人それぞれの主観の問題であって、幸せになるための仕組みや法則があるわけではない」というのが今までの常識でした。しかし、慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科教授の前野隆司氏は、「幸福」を哲学というより心理学的に分析、研究し、その結果として幸福になるためのメカニズムがあると唱えています。つまり、幸福はそのメカニズムを知れば誰でも幸福を感じる生活を手にすることができる、ということなのです。

幸福になるためには「4つの因子」が重要

 そうなると、当然そのメカニズムが知りたくなります。前野氏は、地位や財産などを得てもその幸福感は長続きしない。一方、環境・身体・心の三位一体の幸福感は持続すると考え、この長続きする幸せを手にする条件として「4つの因子」を挙げています。

 第1の因子は自己実現と成長の因子、名づけて「やってみよう因子」です。具体的には、夢や目標を持っている人は幸せだ、ということです。また、こういう人は目標達成の努力の過程で自らの成長を感じることができるので、それも大きな幸せ因子になるのです。

 第2の因子はつながりと感謝の因子で、「ありがとう因子」と呼ばれています。たとえば、誰かに「ありがとう」と心をこめて言ってみる。そうして心穏やかになるとき、「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンやセロトニンが、あなたの脳内に放出されているのです。「ありがとう」と言われた相手が笑顔を返してくれると、さらにあなたの幸福度は増すことになります。これは利他性とも関係がありますが、そうやって社会や人とのつながりが増えることで、ありがとう因子はどんどん伝播していきます。

 第3の因子は「なんとかなる因子」で、その名のとおり前向きと楽観の因子です。自分の長所も短所もひっくるめて自己受容できる人、楽観的でポジティブな人、些細なことは気にしない人の幸福度は高いといいます。総じて、人間の短所と長所は裏表の関係にあるものですが、例えば「のんびり屋で、てきぱきと行動できない」という短所は、時に「慎重で根気よくものごとに取り組むことができる」という長所にもなり得ます。このように、短所もポジティブに転換したり、細かなことにとらわれすぎず「なんとかなる」と思えることが、幸せになるための必要条件となるのです。

 さて、最後の決め手となる第4の因子は独立と自分らしさの因子、別名「ありのままに因子」です。人の目を気にし過ぎない人、自分らしさを持っている人、マイペースを維持できる人は幸福度が高いということです。一口でいえば、自分と他人を比べて評価したりしない、「他人は他人、自分は自分」という価値観でいるということですが、だからと言っていわゆるジコチューでいい、というわけではありません。

 自分なりの価値観を持ちながら、よりよい自分になるための努力を怠らない。やるだけやったら「なるようになる」と大きく構える。そうすれば、世俗的な評価など気にせず、ありのままの自分を好きになる。このように4つの因子は密接に連鎖しながら幸福度を高めていくのです。

年齢を重ねたほうが幸せになれる

 前野氏は、健康に気をつけるようにこの4つの因子を損なわないように意識すれば、誰でも幸福になることができると言います。さらに勇気づけられるのは、人間は年を重ねたほうが幸せの感度が高くなる、つまり些細なことでも幸福を感じることができるということです。年を取るごとにさまざまな苦労を経験するので、何気ないことでも「ああ、よかった。ありがとう」と幸せを感じ、感謝できる。そして、年齢とともに積み重ねてきた知識や技術を生かして、新たな夢、目標に向かいやすくなる。高齢化は恐れるに足らず、というわけです。

 幸福のメカニズムを知れば、「もう年だから」を悲観して口にすることもなくなるのではないでしょうか。
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