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DATE/ 2024.04.23

スマホ・携帯の電波は身体に悪いのか?

 電磁波が人間の体に悪影響を与えるのではないか、という話はこれまでにも時折話題になります。その一方、現代ではスマホをはじめとして電磁波に関わるさまざまな機器が一般化しています。このままでほんとうに身体に問題はないのでしょうか。ここでは、総務省やWHO(世界保健機関)などの情報をみながら検証してみます。

電磁波とはなにか

 電磁波とは電流のある場所に発生するエネルギー波のことで、単位はヘルツ(Hz)で表します。周波数(ヘルツ(Hz))が高いほどエネルギーが高い状態であることを意味しています。この電磁波には高エネルギーのX線から、ラジオやテレビ、携帯電話、船舶のビーコンなどなど、さまざまなものがあります。この中でも電波と呼ばれるのは、X線などと比較して周波数がきわめて低くエネルギーも小さいものです。電波法においては、300万メガヘルツ(3テラヘルツ)以下の周波数のものを電波と規定しています。

総務省「熱作用はあるが健康に問題はない」

 レントゲンなどで使用されるX線をたくさん浴びるとがん等の原因となることは、すでによく知られています。これに対して電波は比較的影響はありません。ただし、高周波(100kHz(キロヘルツ)以上)のきわめて強い電波を浴びると「熱作用」により体温が上がるとのこと。この応用が電子レンジです。もちろんこの「熱作用」に関しては、人体に問題が起きないよう、十分な安全率の基準値が適用されており、電波が基準値を超える場所には一般の人は立ち入ることができません。通常生活に問題がないよう、また作業上必要があったとしてもすぐには影響が出ない数値になるよう、安全を意識した慎重な法整備がなされています。

WHO「現状では健康に有害な科学的根拠はない」

 電波の危険性に関しては、世界60カ国が参加するWHO(世界保健機関)国際電磁界プロジェクトをはじめとして、現在もさまざまな側面から検証が行われています。総務省の電波利用ホームページにあるWHOのファクトシートNO.304(2006年5月)では、健康に関するいくつかの方向からの検証の結果を踏まえ「非常に低いばく露レベル、および今日までに集められた研究結果を考慮した結果、基地局および無線ネットワークからの弱いRF(無線周波)信号が健康への有害な影響を起こすという説得力のある科学的証拠はありません」と結論づけています。

IARC「長時間通話はグリオーマのリスクを高める可能性」

 一方、同サイトにあるIARC(国際がん研究機関)の見解や、これを受けて発表された国立がん研究センターの見解からは、もう少し違った視点があるようです。IARCは2011年5月、高周波・電磁波により悪性脳腫瘍であるグリオーマ(神経膠腫)の発がんリスクについての調査研究報告に関するレビューを公表しています。これによると「携帯電話による通話とグリオーマの発がんの可能性について限定的ではあるがグループ2Bに分類される」とのこと。IARCの定める発がんリスクは、グループ1(十分に発がん性あり)・2A(おそらく発がん性あり)・2B(発がん性が疑われる)・3(発がん性物質として分類できない)・4(おそらく発がん性がない)となっており、グループ2Bは「がんを引き起こす可能性がある」ことを示していることになります。

国立がん研究センター「がんの発生が増加したという報告はない」

 この発表について、日本の国立がん研究センターは国内の状況をまとめ「これまでのいかなる報告においても、通常の携帯電話による通話(多くても1日25分以下)で、グリオーマや他臓器のがんの発生が増加したという報告はない」としています。また今回のIARCの調査結果でも、通常の携帯電話による通話がグリオーマの発生につながる十分なエビデンスはないとしつつ、過度の携帯電話による通話は避けた方がいいとしています。

通話はヘッドホン使用、枕元には長時間置かない

 ここまでの内容をまとめると、現状において、電磁波の健康に対する影響は明確にはまだわからないと言うよりないようです。特に長時間の通話と脳腫瘍の関係に関しては、この先のもう少し正確な情報を待ちたいところです。こういった現状でのリスクに対してセキュリティソフト大手Nortonのサイトでは「通話は耳に当てるのではなくヘッドホンやハンズフリーを利用する」「睡眠時の枕元など近くに長時間置かない」といった提案をしています。電磁波と健康に関する問題は、WHOを中心に世界のいくつかの地域で研究が進められているようです。今後のより詳細な情報を待ちましょう。

<参考サイト>
電波の人体に対する影響|総務省
https://www.soumu.go.jp/soutsu/tokai/denpa/jintai/
WHOファクトシート304 2006年5月(PDF)|World Health Organization
https://www.who.int/peh-emf/publications/facts/bs_fs_304_japaneseV2.pdf
携帯電話と発がんについての国立がん研究センターの見解(PDF)|国立がん研究センター
https://www.ncc.go.jp/jp/topics/2011/20110628.pdf
電波の生体影響に関する最新動向~安全な電波利用に向けて~|一般財団法人 電気安全環境研究所
https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/ref/relate/event/symposium/004.pdf
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西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授