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DATE/ 2021.04.29

「給与デジタル払い」のメリット・デメリット

 毎月給料日になったら、銀行にウン万円振り込まれる。まさに働いている意味を実感できる瞬間でしょう。ただ、この習慣が当たり前じゃなくなる日がやってくるかもしれないって知っていますか?

法律では銀行振込も「例外」だった

 どういうことかというと、厚生労働省がデジタル給与について「2021年度のできるだけ早期に制度化を目指す」と表明しているのです。PayPayやLINE Pay、楽天ペイのようなキャッシュレスサービスに給料が振り込まれるようなイメージですね。現状は賃金の支払いについて労働基準法第24条で「賃金支払の五原則」として、(1)通貨で、(2)直接労働者に、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定の期日を定めて支払わなければならないと規定されています。「(1)通貨で」は現金と同義なのですが、ここにデジタル払いも追加する、というのがデジタル給与になります。ちなみに「(2)直接労働者に」とあるように、本来は給料を現金で手渡しするのが原則ということになっています。銀行振込も例外という位置づけということですね、法律上では。

 もしこれが実現した場合のメリット、デメリットを考えてみましょう。従業員の視点だと、メリットは銀行振込と違い口座から引き落とさなくてもすぐに使えるので出金手数料がかからない、キャッシュレスサービスで支払いを行えばポイントがつく、などですね。一方企業から見ると、銀行振込コストを削減できる、振込の手間も銀行振込より減らせるなどコスト面での利点が大きいですね。デメリットは労働者にとって大きいのは取り扱い店舗やサービスが増えてきたとはいえ、どこでも使えるわけではない、という部分、まだ従業員と企業にとって共通の課題ですが、銀行に比べると安全性の面で不安を感じるケースもあるでしょう。人事システムなどを提供しているWorks Human Intelligenceが給与デジタル払いについて調査したところ、検討(予定含む)している大手法人は約26%で、目的の1位は銀行振込手数料の削減でした。一方で社員の希望に合わせて銀行振込とデジタル払いで分けた場合、給与支払い業務の負担が増加する恐れがある、という指摘もありました。

全額デジタル給与で受け取りたい人は小数か

 先々キャッシュレスサービスがもっと浸透すれば受け止め方は変わるかもしれませんが、今すぐ制度化された場合、全額をデジタル給与で受け取りたいという人はごくごく一部に限られるでしょう。となると、「結局負担が増えるんじゃないの?」という企業側の懸念もごもっともですね。考えうるケースとしては、日払いなど少額の支払いなら導入しやすいかもしれません。また、国内の銀行口座を所有していない外国籍の従業員向けに、という例もありそうです。

 デジタル給与の制度導入が議論される中、ソフトバンクやヤフーなどの企業がPayPayでの手当てを支給したことが話題になりました。実際にPayPayで付与を受けた従業員の声を聞いてみると「ネットショッピングでポイント付くから便利」「最近PayPay使える店増えてきたので良いと思う」と歓迎する声がある一方で「現金と違って実感がない。すぐ使っちゃう」という意見もありました。

 まだデジタル給与の導入が決定したわけではありませんが、実現すればまたそれに合わせたキャンペーンなども登場しそうですね。ビッグウェーブに乗れるよう備えておくのが吉でしょう。

<参考サイト>
給与「デジタル払い」解禁へ 知っておきたい10の知識│日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFK085NR0Y1A200C2000000/
賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei05.html
【ワークスHI調査レポート】大手247法人意識調査 「給与デジタル払い」を検討(予定含む)している大手法人は約26%|Works Human Intelligence
https://www.works-hi.co.jp/news/20210408

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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授