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DATE/ 2021.05.02

相手を不快にさせる「余計な一言」とは

 話すことはコミュニケーションの基本です。しかしながら、楽しいおしゃべりのひととき、利益を交換しあったビジネスシーン、お互いを高め合った学びの場など、貴重な機会を「余計な一言」で台無しにしてしまった経験、されてしまった体験に、心当たりがある人も多いと思います。

 そこで今回は、相手を不快にさせる「余計な一言」について、例題をとりあげつつ、背景から考察してみたいと思います。

一言にこそ「余計」が宿る

 まずは例題として、真に「余計な一言」ともいえる、一文字からなる「余計な一言」の三例をみてみましょう。

1)不要な「さ」
 「書かせていただきます」「書か“さ”せていただきます」。あなたはどちらがしっくりきますか?後者は、いわゆる「さ付きことば」「さ入れ表現」などといわれる、「余計な一言」です。

2)「で」の誤用
 「あなた“で”いいです」「あなた“が”いいです」。あなたならどちらを言われたいですか?多くの人が、後者を選ぶのではないでしょうか。せっかくの一言が「余計な一言」となりかねません。なお「○○“は”いいね」の「は」も同様です。

3)「お」の乱用
 「美味しい“お”酒」「美味しい“お”ビール」。あなたはどちらかに違和感を覚えたでしょうか?名詞に「お(御)」を付ける場合、尊敬語・謙譲語・美化語などによって違いますが、安易に付けると「余計な一言」となってしまいます。

「余計な一言」が生まれる背景

 ではどうして、「余計な一言」を言ってしまうか。背景や注意点を、シーン別に取り上げてみたいと思います。

1)自己主張をコントロールできない会話泥棒
 情報不足で話題がなかったり、語彙が少なく会話の間を持たせられなかったり、さらには相手の話を傾聴する場であっても、意識的・無意識的に関係なく会話の主導権を握りたいあまりに、ついその場に関係のない「余計な一言」を発する場合があります。「でも」「だって」「けど」などちゃぶ台返しとなりかねない、逆接の接続詞で始める自分語りも同様です。

2)主体性のない丁寧“風”な言葉
 自信のなさや単なる知識不足による、長すぎる挨拶、過剰な敬語や尊攘語、もってまわった説明などは、一見相手を立てているようで実は主体性のない発言の多くは、「余計な一言」です。謙遜しているようで実は相手に主体性を強いて責任を押してつけているような、「させていただきます」「よろしいでしょうか」などの多用も同様です。

3)下手な毒舌・ユーモア・ナンセンス
 毒舌やユーモア・ナンセンスな言葉は、上手く使うことができれば印象深い発言になりますが、高度な話術や確かな関係性が背景になければ成り立ちません。残念ながら「余計な一言」となる危険性が高いため、特にビジネスや冠婚葬祭など公式や格式のある場では注意が必要です。“率直な発言”や“本音を言う”を意味する、「ぶっちゃけ」に続く言葉も同様です。

今・この場で・自分たちが・話すべきこと

 相手を不快にさせる「余計な一言」を言わないためには、やはり「今・この場で・自分たちが“話すべきこと”」の目的や本質をしっかりと認識し、そのための主題にそった話題を選び、知識や情報や良識を持ち寄って話し合うことが必要です。

 そのためにも、知識や情報だけでなく語彙を自身に取り入れて話題を増やしたり、会話の構成力や発声など話術を磨いたりするなど、知識のアップデートや技術の向上も必要になる場合も多々あります。

 そしてなによりも、現在進行形で話し相手を尊重し、この場でこそ相手を楽しませ、自分から積極的に目的のために高め合っていくような、話し相手と話すことへの好意的な態度が基本といえます。

 話すことの目的は様々ですが、大前提となる“一緒に話し合える機会にめぐまれたこと”が、本来は得難い機会といえます。そのような素晴らしい機会を「余計な一言」でかえって台無しにしないためには、言葉を不用意に誤用したり乱用したりしない態度が求められます。

<参考文献>
・『その一言が余計です。』(山田敏弘著、ちくま新書)
・『余計な一言』(齋藤孝著、新潮新書)
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