テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.05.20

ビルの窓の「赤い三角マーク」は何なのか?

 ふとビルを見上げたとき、窓についている赤い三角マーク「▼」。気になったことはありませんか?ビルによっては複数箇所、あるいはついていない場合もあり、何のために貼ってあるのか意味までは知らないという人は多いのではないでしょうか。

 実はあのマークには、とても大事な役目があったのです。

「▼」は消防隊の進入口(の代わり)となる窓を示している

 あのマークは「非常用進入口マーク」と呼ばれているものです。ビル火災など非常時の際、外部から消防隊が進入するための開口部を示しています。いざという時は、消防隊員が「▼」のある窓を破って入ってくるということですね。

 もともと「非常用進入口」については、建築基準法施行令で以下のように定められています。いずれも消防活動が迅速に、かつ滞りなく行われるために必要な条件です。

<「非常用進入口」設置の条件>
・3階以上の建物で、地上から31m(はしご車が届く位置)以下の階に設置すること
・足場となるバルコニーを設置すること
・夜間でも視認できる赤色灯を設置すること
・道路、または幅4mの通路に面する部分に設けること
・進入口の設置間隔は40m以内にすること など

 みなさんの中にも、ビルの屋上などでバルコニーに囲まれた扉を見たことがある方がいるかもしれませんね。

 ただし狭い都市部の土地の建物だとバルコニーを設置する物理的余裕がなく、設置条件に満たないケースがあります。そういった時は非常用進入口の代わりとなる「代替進入口」を設置することが求められます。

「代替進入口」とはその名の通り、非常用進入口の代わりになる開口部のこと。設置間隔を10m以内にしなければならないので数は多めになりますが、普段から通常の窓として使用できる、景観デザイン上見栄えがよいなどの理由で、現在のビルのほとんどが代替進入口を採用することが多いようです。そしてその代替進入口には、赤色反射塗料による一辺が20 cmの逆正三角形の標識(=非常用進入マーク)を入れるのが義務となっています。

 つまり「▼」のマークがある窓は本来の意味の「非常用進入口」ではなくその「代わりとなる窓」を示すものであるわけです。代替とはいえ消防活動で大切な進入口となりますので、進入口周辺に物を置いたりしないよう配慮しなければなりません。

※具体的な設置方法については自治体によって変わる場合がありますので、貼付する場合はあらかじめ行政や専門家にご相談ください。

非常用進入口はなぜ設置されるようになった?

 木造住宅が多く消防技術も未熟だった時代は、火事があると街ごと焼亡してしまう市街地大火がたびたび起こりました。消防法や建築基準法といった法整備が進むにつれ、そうした市街地大火はほとんどなくなりましたが、代わって増加したのがビル火災です。

 1960年代、高度経済成長期に突入した日本各地では、多くの高層ビルや旅館、ホテル、病院などが建ち並びました。しかしそこではひとたび火災が起きると数十人が亡くなる惨事になりやすく、大きな社会問題のひとつでした。特に旅館やホテルはレジャーブームにより増築がしばしば行われた結果、防災管理がおろそかになっていたのです。

 そこでこれらの火災を教訓として、1970年までに消防法や建築基準法が改正されました。その中で「排煙設備」「非常用照明装置」「非常用昇降機(エレベーター)」そして「非常用進入口」の設置が義務づけられたのです。その後も大きなビル火災は発生しましたが、そのたびに法が見直され、スプリンクラーの設置や規制強化など、時代に合わせてアップデートがくり返されています。

「▼」マークには、ビル火災の歴史的教訓という深い意味がこめられていたのですね。みなさんも、道すがら「▼」マークを見つけた時には、自らの防災意識について振り返ってみてはいかがでしょうか。

<参考サイト>
窓に貼られた赤い三角マークの意味、知っていますか?│株式会社フジタ
http://www.fujitanet.co.jp/chiebukuro/5505
飲食店などを改修される場合の注意点│高知市
https://www.city.kochi.kochi.jp/soshiki/58/kenchiku0903.html

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

トランプ関税はアダム・スミス以前の重商主義より原始的

トランプ関税はアダム・スミス以前の重商主義より原始的

第2次トランプ政権の危険性と本質(2)トランプ関税のおかしな発想

「トランプ関税」といわれる関税政策を積極的に行う第二次トランプ政権だが、この政策によるショックから株価が乱高下している。この政策は二国間の貿易収支を問題視し、それを「損得」で判断してのものだが、そもそもその考え...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/05/17
柿埜真吾
経済学者
2

大隈重信と福澤諭吉…実は多元性に富んでいた明治日本

大隈重信と福澤諭吉…実は多元性に富んでいた明治日本

デモクラシーの基盤とは何か(2)明治日本の惑溺と多元性

アメリカは民主主義の土壌が育まれていたが、日本はどうだったのだろうか。幕末の藩士たちはアメリカの建国の父たちに憧憬を抱いていた。そして、幕末から明治初期には雨後の筍のように、様々な政治結社も登場した。明治日本は...
収録日:2024/09/11
追加日:2025/05/16
3

【会員アンケート】談論風発!トランプ関税をどう考える?

【会員アンケート】談論風発!トランプ関税をどう考える?

編集部ラジオ2025(8)会員アンケート企画:トランプ関税

会員の皆さまからお寄せいただいたご意見を元に考え、テンミニッツTVの講義をつないでいく「会員アンケート企画」。今回は、「トランプ関税をどう考える?」というテーマでご意見をいただきました。

第2次トランプ...
収録日:2025/05/07
追加日:2025/05/15
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
4

相互関税の影響は?…トランプが築く現代版の万里の長城

相互関税の影響は?…トランプが築く現代版の万里の長城

世界を混乱させるトランプ関税攻勢の狙い(1)「相互関税」とは何か?

トランプ大統領は、2025年4月2日(アメリカ時間)に貿易相手国に「相互関税」を課すと発表し、「解放の日」だと唱えた。しかし、「相互関税」の考え方は、まったくよくわからないのが実状だ。はたして、トランプ大統領がめざす...
収録日:2025/04/04
追加日:2025/04/10
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス

「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24
三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授