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DATE/ 2021.07.02

100円ショップが赤字にならない理由

 食品から便利グッズまで幅広いアイテムラインナップが魅力の100円ショップ。一昔前までは専門店に行かなければ買えなかったものでも、100円ショップに行けば簡単に、しかもワンコインという低価格で購入できるのですから、今や日常生活に欠かせないお店ですよね。近年は品質も格段に向上し、「安かろう悪かろう」のイメージは薄まりつつあります。

 ダイソー、セリア、キャンドゥなど100円ショップ大手5社の2019年度の出店数は7,600店超、さらに売上高は8,722億円に到達。2020年はコロナ禍による店舗休業や時短営業などで影響を受けたものの、巣ごもり需要による家庭用品の売上が伸長したそうです。

 100円ショップは、なぜ100円という低価格で、これほどまでに利益を上げられるのでしょうか?

大量仕入&大量販売が可能

 大量に仕入れれば仕入れるほど原価率は低くなり、販売する値段も抑えることができます。ただし売り切らなければ損をするばかりか在庫を大量に抱えてしまいかねませんので、薄利多売がかなう商売でなければ成り立ちません。その点、100円ショップは薄利多売で十分に収益を上げられます。

 特に大手であれば店舗の数は数百、数千にのぼるので、メーカーから一度に大量に、かつ安く仕入れられます。しかも、100円ショップを訪れるたいていのお客さんは、その安さからついつい何点も購入する傾向があるので、売り切りやすくなります。

 このように大量仕入&大量販売が100円ショップの大きな強みですが、大手100円ショップのひとつであるセリアでは全商品の90%をメーカーと共同開発・販売することによって過剰な生産数・在庫数を抑えてコストを削減し、安価に販売するという方法を採っているそうです。

マージンミックス戦略により、粗利率の高さを実現

 一部の商品を除き、100円ショップの商品はどんなに原価が高くても100円の値段で売っています。中には当然、原価100円以上のものもあるのですが、原価率が非常に低い商品を組み合わせて販売することで、総合的な粗利率を高くしています。これを「マージンミックス」といいます。

 前述したように、お客さんは100円という手頃さからつい何点も予定外の商品を衝動買いしてしまいがちです。そこをうまくついたビジネスモデルといえるでしょう。

 ちなみに、100円ショップで最も原価の安い商品は「歯ブラシ」で、その原価はなんと1円。次に「ビニール傘」の10円、「サングラス・ネクタイ」が20円、「電球・靴下」が50円、「乾電池」が80円といわれています。反対に原価の高い商品は「土鍋・フライパン・長柄のほうき」で、これらは100円以上の原価になるそうです。

他業種に比べ、人件費がかからない

 100円ショップの従業員はパート・アルバイトの比率が全体の94%を占めているといわれ、他業種に比べて圧倒的に正社員の数が少ないのも100円ショップの大きな特徴です。正社員を削減すれば、当然人件費も抑えられます。

 それができる理由として、100円ショップはほぼ全ての商品が100円ということから売上の計算しやすく、また商品に関する専門知識もあまり必要とされません。定額ですので、値札を取り付ける手間もかかりません。正社員の数が少なくても、店舗運営は可能なのです。

広告・宣伝費がほぼゼロ

 スーパーなどの多くの小売店では、値引きやセールなどお買い得商品をアピールするためにチラシなどを使って宣伝をうつ必要があります。その点100円ショップは値引きがなく、セールを行うこともありません。新店を出店する時はある程度必要かもしれませんが、「すべて100円」というコンセプトそのものが宣伝となりますし、メディアではおトクな便利グッズの紹介として頻繁に100円ショップの商品が取り上げられています。

 宣伝広告のために、店側が余計なコストをかける必要がないのです。

ネット通販と競合しにくい

 もしもネット通販で100円のものを買おうとすると配送料がかかってしまい、数点程度では店舗で買うよりも高くついてしまう可能性があります。この点で100円ショップとネット通販は客を食い合うことなく、うまく棲み分けができているのです。

アイテム数の豊富さから、リピート客がつきやすい

 100円ショップに入ると、定番商品からシーズンものまで、その品揃えの豊富さに舌を巻くことがありますよね。100円ショップ最大手のダイソーでは通常7万点のアイテムに加え、毎月800アイテムの新商品を出しているといいます。豊富なアイテム数に加え、常に売り場を刷新することでお客さんを飽きさせず、またリピートを促すことにつなげています。

その他、徹底したコスト削減

 100円ショップの商品の中には他店でも売られている人気商品があります。すでに人気のある商品なら売れるのは当たり前ですし、たとえ高コストの商品でも賞味期限間近のものを仕入れる、容量を減らすなどすれば、コストを削減できます。

 また、スーパーなどで見かけるオリジナル商品「プライベートブランド」は安くて高品質であるとして人気ですが、同じく100円ショップでもプライベートブランドを積極的に打ち出すようになっています。品質やオリジナル性をアピールすることはもちろんですが、自社で直接、企画・製造・販売できる点から、これまたコストを抑えられるというメリットがあるのです。

 こうした徹底したコスト削減により、100円という低価格が実現しているのです。

 いかがでしたか。100円ショップの店舗数はすでに「飽和」しているという見方もありますが、そのぶん今後はどのような進化を遂げ、個性を打ち出していくのか、今まで以上に注目すべきでしょう。

<参考サイト>
100円ショップ界屈指の高利益率を誇るセリア “安くておしゃれ”の裏に隠れた緻密な戦略とは
│IT medhiaビジネスONLINE

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2002/17/news023.html
100円ショップが安くても利益があげられる仕組みを解説│フランチャイズの窓口
https://www.fc-mado.com/useful/100yenshop/

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