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DATE/ 2021.07.20

富士山はなぜ「文化」遺産なのか

世界遺産の種類とその対象

 日本の世界遺産といえば、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。姫路城や屋久島、2019年に登録されたばかりの百舌鳥・古市古墳群などいろいろありますよね。なかでも多くの方が思い浮かべるのが、富士山ではないでしょうか。

 世界遺産とは、国連内部の専門機関のひとつ・ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が登録を認可する、人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持つ建造物・遺跡・自然などの有形不動産のことです。1972年にユネスコ総会で採択された世界遺産条約を締結している国から選定されます。

 ひとことで世界遺産といっても、次の3種類に分類されます。

 文化遺産:建造物や遺跡など、人間がつくりあげたもの。
 自然遺産:人間の手が入っていない、地球の歴史がわかるもの。
 複合遺産:文化遺産と自然遺産が同じ場所にあり、両者の価値を持つもの。

 この条件に照らし合わせると、姫路城や百舌鳥・古市古墳群は文化遺産、屋久島は自然遺産となります。複合遺産は日本にはまだありませんが、たとえばペルーのマチュピチュや、エアーズロック(先住民族・アボリジニの言葉でウルル)があるオーストラリアのウルル=カタ・ジュタ国立公園などが登録されています。そして富士山は、自然遺産だと思いますよね。ところがそうではなく、富士山は文化遺産なのです。これはなぜなのでしょうか。

富士山はなぜ文化遺産に?

 実は、富士山もはじめは自然遺産での登録を目ざしていました。しかし、いくつかの難点があり、文化遺産での登録に切り替えたのです。その主な難点は次のようなもの。

 環境保全が進んでいない:登山者が多く、ゴミが放置されて美観が保たれていない。
 周辺に人の手が入りすぎている:特に山麓の開発が進みすぎて、自然が人為的に改変されている。
 同じような火山がすでに自然遺産にある:先に自然遺産に登録されているトンガリロ国立公園のナウルホエ山が、富士山とよく似た成層火山である。

 そこで、富士山の文化的な面を生かして文化遺産での登録を目ざすことになったのです。その主な理由は次のようになります。

 信仰の対象:活火山である富士山は何度も噴火してきたため、古くから神が住むと信じられてきました。この信仰によってつくられたのが、山麓の浅間神社です。平安時代には、仏教の流派のひとつ・密教と日本古来の山岳信仰が融合した修験道の修行の場となりました。鎌倉時代の宗教家・長谷川角行がこの信仰を系統的にまとめたといわれ、江戸時代に入ってこの教えが庶民にも広がると、富士講という組織に加わって富士山に登り、礼拝することが一大ブームになりました。

 芸術のモチーフ:富士山の端正で壮麗な姿は古くから日本人の心を捉えてきました。文学作品では和歌の歌集「万葉集」や「古今和歌集」などに富士山を詠んだ歌があるほか、「竹取物語」のような物語作品など多くの古典文学に富士山が登場します。また、江戸時代の画家・葛飾北斎の「富嶽三十六景」をはじめとする多くの絵画のモチーフにもなっています。富士山は日本人が生み出す芸術作品には欠かせない、日本人の創作意欲を刺激する存在なのです。

 こうして富士山は、浅間神社のような周囲の神社のほか、洞穴や湖などの構成資産を含めた文化遺産として2013年に世界遺産登録を果たしました。

世界遺産の登録基準は全部で10点

 富士山はさまざまな観点から検討して、文化遺産での登録に成功しました。世界遺産に選ばれるためには当然ながら条件があり、これをベースに議論が進められたのです。その条件とは、10点の登録基準のうちひとつ以上を満たしていること。ユネスコが定めた登録基準を以下に抜粋します。

(ⅰ) 人間の創造的才能を表す傑作である。
(ⅱ) 建築、科学技術などの発展に重要な影響を与えた、期間的または文化的な価値観の交流を示す。
(ⅲ) 現存するか否かにかかわらず、文化的伝統または文明の存在を伝承する無二の物証である。
(ⅳ) 歴史上の重要な段階を物語るうえでの顕著な見本になる。
(ⅴ) 特定の文化を特徴づける伝統的居住形態もしくは土地利用形態の顕著な見本になる。
(ⅵ) 普遍的価値を持つ行事、伝統、信仰、芸術的作品などと関連性がある。
(ⅶ) 最上級の自然現象、または類まれな自然美や美的価値のある地域を包含する。
(ⅷ) 生命進化の記録や、重要な地形学的特徴など地球の歴史の顕著な見本になる。
(ⅸ) 生態系や動植物群集の進化、発展において重要な過程を代表する顕著な見本になる。
(ⅹ) 絶滅危惧種の生息地など、生物多様性の保全にとって重要な自然の生息地を包含する。

 これらの基準のうち、(ⅰ)から(ⅵ)で登録された場合は文化遺産、(ⅶ)から(ⅹ)で登録された場合は自然遺産、文化遺産と自然遺産の両方の基準を満たして登録された場合は複合遺産となります。富士山は(ⅲ)と(ⅵ)を満たしているので、文化遺産として認められたということになります。

 もちろん、文化遺産として登録されたからといって富士山に自然的な価値がないというわけではありません。世界遺産はあくまで基準のひとつです。同じように、他の国の世界遺産にも自然的な美しさを持つ文化遺産はもちろんあります。ひとつの価値基準に縛られず、いろいろな視点で見てみると世界遺産をよりいっそう楽しめるでしょう。

<参考サイト>
富士山が世界遺産になる理由│フジヤマNAVI
http://app.fujiq-resorts.com/fujitozan/appeal/page/heritage/?mode=pc
日本の世界遺産一覧│文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/sekai_isan/ichiran/
世界遺産の登録基準│日本ユネスコ協会連盟
https://www.unesco.or.jp/activities/isan/decides/

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