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DATE/ 2021.08.18

海外で「週休3日」を導入した結果

海外で増える週休3日制の導入

 政府による経済財政の運営と改革に関する基本方針、「骨太の方針」。小泉内閣以降、毎年定められているこの方針に、かつて2021年には「選択的週休3日制」が盛り込まれて注目を集めました。これは、「労働者が希望すれば週休3日で働ける」という制度。現在の一般的な日本の労働者は週休2日で働いていますが、週休3日を選ぶこともできるという意味合いで「選択的」となっています。

 近年は育児、介護、闘病などを続けながら働ける環境が強く求められており、仕事だけでなくプライベートも充実させたワークライフバランスを大切にする人が増えています。さらに、コロナウィルス感染拡大防止のために出社の機会を減らしたいと考える企業も多くなっています。政府はこのような社会情勢を踏まえて、働き方の選択肢を増やすために週休3日制導入に乗り出したのです。

 もちろん、今まで週休3日制がまったく存在しなかったわけではありません。特に海外ではアイスランドですでにトライアルが行われていたり、アメリカやフランスの企業が導入して一定の効果を上げたりしています。週休3日制は、決して不可能ではないのです。

実際に導入した企業の手ごたえは?

 それでは、海外の週休3日制導入の動きを具体的に見てみましょう。

 アイスランド:2014年から2019年までと、2017年から2021年までの2回にわたってトライアルが行われ、全生産人口の1%にあたる約2500人の労働者が参加。賃金カットなしで大多数が労働時間を週5時間ほど短縮させることに成功しました。このとき生産性の低下は見られず、一方で労働者のストレスは軽減されて幸福度が上昇するという、多くの点で好ましい結果が得られました。

 シェイクシャック(アメリカ):日本でも人気のあるファストフードチェーン。1日の労働時間は8時間のまま、賃金カットなしで週の労働時間を40時間から32時間に短縮しました。この結果、女性社員の採用数が大幅に増加。これは、育児中の女性も働きやすい労働環境を整えられたからだと企業側は推測しています。週休3日制には利点があると判断し、導入店舗を拡大しています。

 ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル(フランス):求人ポータルサイトの運営企業。2019年にトライアルを行い、生産性の向上が認められたため賃金カットなしで正式導入しました。勤務時間が減ったことへの対策として、企業側は無駄な会議をなくすなどして時間を効率的に使うようはたらきかけ、従業員もタバコ休憩や雑談の時間を大幅に減らして業務に集中するようになったのです。

 以上のような週休3日制導入の牽引役となっている国がオランダです。オランダは1970年代のオイルショックによる不景気を乗り切った経験から労働者の権利を守る法制度が充実しており、政府が特に推奨しなくても週休3日の労働者が多いのです。性別や正規・非正規での賃金格差もなく、柔軟な働き方ができる国の代表格といわれています。

 世界的に見ると、週休3日制は労働生産性や労働者の幸福度向上に効果があると考えられており、好意的に受け止められていることがわかりますね。

日本で導入を進めるためには?

 一方の日本では、スポーツ用品のアルペンやファストファッションのファーストリテイリングなどが週休3日制を導入しています。ただし、ファーストリテイリングは1日の勤務時間を8時間から10時間に増やしており、週休3日でも全体の勤務時間は削減されていないことになります。また、勤務時間が減ると賃金も減るという考え方が根強く、海外と比較すると労働者に不利な条件が当然のように受け入れられている現実があります。

 日本の労働者にも週休3日制を導入してほしいと考える人は多いですが、不景気下の現状では「賃金が減らないなら」という条件がどうしてもついてきます。週休3日制には「理想的なワークライフバランスの実現」、「業務内容の効率化」、さらに「コロナやインフルエンザ感染リスクの低下」などのメリットがありますが、「賃金の減少」はこれらのメリットをしのいであまりあるデメリットですよね。

 しかし、海外企業の導入成功例を見てみると、賃金カットなしで勤務時間を減らすことは可能です。まずはほとんどの日本企業が採用している拘束時間ベースの給与体系を見直し、成果主義で評価する体制が必要でしょう。賃金が下がれば労働者が企業に抱く愛着度・エンゲージメントも低下し、結果的に生産性も低下してしまいます。

 また、デメリットとして「出勤日の勤務時間が増える」と考える労働者も多いです。しかしウェルカム・トゥ・ザ・ジャングルの成功例を見ればわかるとおり、冗長な会議やたびたびのタバコ休憩などを切り捨てれば作業効率は向上します。週休3日制は、無駄が多い勤務時間の“引き締め”を考え直すいい機会にもなるでしょう。

<参考サイト>
給与そのままの「週休3日」で生産性向上も アイスランドで試験導入│BBCニュース 
https://www.bbc.com/japanese/57731066
週休3日制をどう考えるか ~実態把握を中心に~│日本の人事部
https://jinjibu.jp/article/detl/hr-survey/2562/
週休3日制とは? 働き方改革の推進に向けて注目される制度を解説│日経ビジネス電子版 
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00081/061000209/

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