社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
なぜ遅刻をしてはいけないのか?
「遅刻は欠席よりきらわれる」。民族学者の梅棹忠夫は、「遅刻論」で説きます。どうしてそれほどまでに遅刻はきらわれ、ひいては「遅刻はしてはいけない」と流布されているのでしょうか。
「なぜ遅刻はしてはいけないのか?」という問いに対する答えは、大別すると以下の2パターンに分類されるように思います。
つまり、「信用」に関わる社会の基本ルールであり、ひいては自己「信用」の損失となるため、「遅刻はしてはいけない」となっているといえます。
つまり、取り返しのつかない「時間」を奪う行為であり、その結果として他者の「時間」に損失を与えるため、「遅刻はしてはいけない」となっているといえます。
さらに、クリエイティブな結果や真に経済的な能率が求められるシビアな現場においては、遅刻しなかったからといって創造性や有益性が担保されるわけではないといった、ある意味でよりシビアな意見もあります。
本来、「時間」の流れ方や使い方は生活スタイルや人間関係によって異なっています。また、違う観点から捉えれば、一見すれば絶対的で平等な「時間」を使った社会ルールの基本設定が、そもそも万人に無理な設定であり、個人的な人間を省みない設定になっているともいえます。
状況から「遅刻」だけを取り出して考えることは本来できないし、意味がないともいえます。とくに現代のような加速度的に変化し、時間への価値観が相対的に高まっている社会では、ある一つの状況だけを取り出して画一的な判断をすること自体が、自他ともに許容しあえないゆとりのない状況を招きかねない危険性を多分にはらんでいるのではないでしょうか。
ジャーナリストでコラムニストのトーマス・フリードマン氏は、あるとき待ち合わせ相手の遅刻がちっとも気にならないことに、それどころか遅刻したことを謝罪する相手に「遅刻してくれて、ありがとう」と答えていたといいます。そして、その真意を、「あなたが遅れてきたおかげで、自分のための時間をつくることができたからだ」と、『遅刻してくれて、ありがとう』の中で述べています。
トーマス氏の言からは、最も大切な自分の「時間」が自分でコントロールできないぐらい、「時間」の価値が厳密になっている現実がうかがえてきます。さらに並行して、「信用」の価値観も多様化しており、明文化されない社会ルールでお互いを縛りあって窮屈にしている事実もあるように思います。
もちろん、遅刻が良いとされたり推奨されたりするという意味ではありません(そもそも、遅刻が良いのであれば、待ち合わせ時間や定刻を設定しなければよい)。
また、さまざまな状況が考慮されるとしても、前述したようにとりあえず現段階での社会ルールは「遅刻しない」のプライオリティが高いことは事実であり、遅刻が相手の時間を奪う行為であることももっともではあることからも、属しているコミュニティで「遅刻はしてはいけない」という価値の比重が高いのであればそれに応じた行動を取ることは、ある意味で戦略的にも正しい行動といえます。
しかしながら、加速化する現代では、ただ遅刻しなかったからといって、「信用」や「時間」の価値を担保することが、以前に比べて相対的に低くなっているように感じられます。
「自身に厳しく他者には優しく」。「遅刻」を通して、次世代型の自他の「信用」や「時間」の価値を高め合うことを、相対的にも絶対的にもあらためて考える時代を迎えているのかもしれません。
「なぜ遅刻はしてはいけないのか?」という問いに対する答えは、大別すると以下の2パターンに分類されるように思います。
「信用」に関わる社会の基本ルールだから?
パターン1は、(1)「約束の時間を守る=遅刻しない」は社会ルールである、(2)「約束の時間を守れない=遅刻する」はセルフコントロールができず「信用」をなくす、――以上より、自身の「信用」という価値を失する行為であるため遅刻はしてはいけない、です。つまり、「信用」に関わる社会の基本ルールであり、ひいては自己「信用」の損失となるため、「遅刻はしてはいけない」となっているといえます。
相手の「時間」を奪う行為だから?
一方、パターン2は、(1)「時間」は「命」ともいえる程に重要なものである、(2)「遅刻」は他者の「時間(命)」という損害できない権利を奪う愚行である、――以上より、他者の「時間」という権利を著しく失する行為であるため遅刻はしてはいけない、です。つまり、取り返しのつかない「時間」を奪う行為であり、その結果として他者の「時間」に損失を与えるため、「遅刻はしてはいけない」となっているといえます。
「遅刻」に画一的な評価をする社会こそ危険?
他方、「時間」と違ったものに価値や「信用」を置く社会やコミュニティも多数あります。そういった社会やコミュニティでは、例えば最近知り合ったビジネスパートナーに約束の時間に会うことよりも、偶然道で再会した昔なじみの恩師や導師に感謝や祈りを捧げる時間を十分に取ることの方が大切だったりします。さらに、クリエイティブな結果や真に経済的な能率が求められるシビアな現場においては、遅刻しなかったからといって創造性や有益性が担保されるわけではないといった、ある意味でよりシビアな意見もあります。
本来、「時間」の流れ方や使い方は生活スタイルや人間関係によって異なっています。また、違う観点から捉えれば、一見すれば絶対的で平等な「時間」を使った社会ルールの基本設定が、そもそも万人に無理な設定であり、個人的な人間を省みない設定になっているともいえます。
状況から「遅刻」だけを取り出して考えることは本来できないし、意味がないともいえます。とくに現代のような加速度的に変化し、時間への価値観が相対的に高まっている社会では、ある一つの状況だけを取り出して画一的な判断をすること自体が、自他ともに許容しあえないゆとりのない状況を招きかねない危険性を多分にはらんでいるのではないでしょうか。
「時間」の加速が「信用」の相対的価値を低下させている?
さらに、加速化が進む現代において、遅刻のハードルも加速度的に上がっているのではないでしょうか。ジャーナリストでコラムニストのトーマス・フリードマン氏は、あるとき待ち合わせ相手の遅刻がちっとも気にならないことに、それどころか遅刻したことを謝罪する相手に「遅刻してくれて、ありがとう」と答えていたといいます。そして、その真意を、「あなたが遅れてきたおかげで、自分のための時間をつくることができたからだ」と、『遅刻してくれて、ありがとう』の中で述べています。
トーマス氏の言からは、最も大切な自分の「時間」が自分でコントロールできないぐらい、「時間」の価値が厳密になっている現実がうかがえてきます。さらに並行して、「信用」の価値観も多様化しており、明文化されない社会ルールでお互いを縛りあって窮屈にしている事実もあるように思います。
もちろん、遅刻が良いとされたり推奨されたりするという意味ではありません(そもそも、遅刻が良いのであれば、待ち合わせ時間や定刻を設定しなければよい)。
また、さまざまな状況が考慮されるとしても、前述したようにとりあえず現段階での社会ルールは「遅刻しない」のプライオリティが高いことは事実であり、遅刻が相手の時間を奪う行為であることももっともではあることからも、属しているコミュニティで「遅刻はしてはいけない」という価値の比重が高いのであればそれに応じた行動を取ることは、ある意味で戦略的にも正しい行動といえます。
しかしながら、加速化する現代では、ただ遅刻しなかったからといって、「信用」や「時間」の価値を担保することが、以前に比べて相対的に低くなっているように感じられます。
「自身に厳しく他者には優しく」。「遅刻」を通して、次世代型の自他の「信用」や「時間」の価値を高め合うことを、相対的にも絶対的にもあらためて考える時代を迎えているのかもしれません。
<参考文献>
・『おろか者たち(中学生までに読んでおきたい哲学4)』(松田哲夫編、南伸坊案内人、あすなろ書房)※(梅棹忠夫「遅刻論」掲載)
・『お金持ちが肝に銘じているちょっとした習慣』(菅原圭著、河出書房新社)
・『小学生になったらどうするんだっけ』(辰巳渚著、朝倉世界一まんが、毎日新聞出版)
・『遅刻してくれて、ありがとう』(トーマス・フリードマン著、伏見威蕃訳、日本経済新聞出版社)
・『おろか者たち(中学生までに読んでおきたい哲学4)』(松田哲夫編、南伸坊案内人、あすなろ書房)※(梅棹忠夫「遅刻論」掲載)
・『お金持ちが肝に銘じているちょっとした習慣』(菅原圭著、河出書房新社)
・『小学生になったらどうするんだっけ』(辰巳渚著、朝倉世界一まんが、毎日新聞出版)
・『遅刻してくれて、ありがとう』(トーマス・フリードマン著、伏見威蕃訳、日本経済新聞出版社)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
「ヒトは共同保育の動物だ」――核家族化が進み、子育ては両親あるいは母親が行うものだという認識が広がった現代社会で長谷川氏が提言するのは、ヒトという動物本来の子育て方法である「共同保育」について生物学的見地から見直...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/08/31
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本は第二次大戦後に軍事飛行等の技術開発が止められていたため、宇宙開発において米ソとは全く違う道を歩むことになる。日本の宇宙開発はどのように技術を培い、発展していったのか。その独自の宇宙開拓の過程を解説する。(...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/02
天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制
「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉
現代流にいうと地政学的な危機感が日本を中央集権国家にしたわけだが、疫学的な危機によって、それは早い終焉を迎えた。一説によると、天平期の天然痘大流行で3割もの人口が減少したことも影響している。防人も班田収授も成り行...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/01
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題
社会的時差ボケの発生には、働き方も大きな影響をもっている。特にシフトワークによって不規則な生活リズムを強いられる業種ではその回避が難しい。今回は、発がんリスク、メンタルヘルスの不調など、シフトワークが抱える睡眠...
収録日:2025/01/17
追加日:2025/08/30