社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.10.30

世の中に蔓延る「陰謀論」とは?

 コロナ禍とワクチンをめぐる噂、2021年1月の米国議事堂襲撃事件の背景となった「Qアノン」など、世の中を席捲するリスクとして「陰謀論」が注目されるようになりました。SNSによる情報拡散の影響から信奉者は拡大し事態は深刻です。

 「陰謀論」「陰謀説」とは、ある出来事や状況について、明解な説明がなされていたとしても、偏見や不十分な証拠によって特定の集団や人物による謀略であると信じ主張することを指します。古くは宗教裁判や魔女狩り、近年大戦下のジェノサイドに至るまで、陰謀論は多くの歴史的な悲劇とリンクしています。

真偽不明の事件からの陰謀論

 では、世の中の代表的な陰謀論にはどんなものがあるのでしょう。

 米国の例として、ケネディ大統領暗殺事件陰謀論、アポロ計画陰謀論、アメリカ同時多発テロ事件陰謀説などが挙げられます。

 具体的にケネディ大統領暗殺事件陰謀論をみていくと、オズワルドによる単独の犯行が捜査に基づく公式説明になりますが、これに納得できない人々がいくつかの説を唱えるようになりました。「マフィア壊滅作戦に反発したサム・ジアンカーナを中心としたマフィア主犯説」「ピッグス湾事件の失敗を恨む亡命キューバ人主犯説」「軍産複合体の意を受けた政府主犯」が代表的な陰謀論になります。結果、米国では70%の人々がケネディ暗殺は単独犯ではなく複数犯による犯行を信じているという世論調査(2003年)にもその影響がみてとれます。これは、証拠物件の公開が政府によって不自然にも制限されたり、狙撃したオズワルドがダラス市警察本部でジャック・ルビーに射殺され、さらにそのジャック・ルビーが服役中に病死したという不可解な事象が重なっていることが影響しています。

陰謀論の主体

 陰謀論においては、その主体が特定の団体や組織、古くは民族に言及します。

 その代表的な例としては、紀元前よりユダヤ人が世界の政治・経済を支配しているというユダヤ陰謀論があります。このバリエーションとして、「カナン・フェニキア陰謀論」「新世界秩序陰謀論」「三百人委員会」、フリーメイソンの「三十三評議会」「十三人評議会」「イルミナティ13血流」が展開されています。

 この類型として、ロスチャイルド、ロックフェラー、モルガンなどのユダヤ系財閥が世界秩序を決定しているという陰謀論もよく知られています。

陰謀論が蔓延る理由

 不可解な事象について定説となっている合理的な判定が必ずしも真実とは限りませんし、新たな証拠によって説明が更新されていくことは健全な人類の営為と言えます。そこから、証拠や論理の検討・検証を経ることなく、飛躍した説や論を信じ呪縛されることは明らかな問題です。

 新型コロナのパンデミックにまつわる陰謀論がよい例となります。闇の勢力によってウイルスがばらまかれたという説、マスクはむしろ感染を拡大させるといった理論、ワクチンには極小のナノチップで人々を管理しコントロールするために作られたといった噂は、公衆衛生の改善を妨げる重大な障害につながる大問題といってよいでしょう。

 科学的、合理的、論理的な説明がされているのにも関わらず、なぜあきらかな偏見や不十分な証拠によって捏造された説に翻弄されるのでしょうか?

 陰謀論はかつて特定少数に限定されていましたが、メディアと環界の進化によって、20世紀後半から21世紀初頭に一般的な文化的現象としてとりざたされるようになりました。マスメディアによって世界中で広まり、一般的に信じられてしまったことが遠因となります。

 さらに、近年、スマホの普及とインターネットの一般化、SNSの日常化によって、陰謀論は情報として社会を侵食するようになりました。心理学で「エコーチェンバー」現象と呼ばれる、閉鎖的なコミュニケーション空間で、意見や信念が過激で極端になること、多様な考え方を受け入れられなくなる状態といってよいでしょう。

 陰謀論の流行を防ぐためには、なんでもフラットに議論できる開かれた社会を維持することが前提になりますが、新型コロナのパンデミックはこの前提を破壊しました。

 多くの人はあたえられた情報を検討・検証することなく受け入れます。家に籠もって、SNSなどの特定情報にふれているような状態は、ある種、洗脳環境と類似しています。

 陰謀論は、循環論法によって強化されてきました。論証や検証をとびこえて、信じるしかないフレームを思考に埋め込むような心理操作がみてとれます。

 陰謀論は宗教に隣接するトップダウン型の信仰対象ともいえ、ボトムアップ型で社会を改善していく分析的思考に基づく流れに逆行する関係になります。こうした状況においては、個々人の情報リテラシーを高めるような社会プログラムが切実に望まれます。

<参考サイト>
・中央公論.jp:「認知バイアス」がある限り、あなたも陰謀論を信じてしまうのかもしれない https://chuokoron.jp/culture/117778.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如

現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
2

『武功夜話』は偽書か?…疑われた理由と執筆動機の評価

『武功夜話』は偽書か?…疑われた理由と執筆動機の評価

歴史の探り方、活かし方(5)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈下〉

豊臣秀次事件に対する見方を変えた『武功夜話』だが、実は偽書疑惑もある。今回は、そのことに鋭く迫っていく。『武功夜話』は、豊臣秀吉に仕えて大名まで上り詰めた前野長康の功績を中心に記された史料だが、その発表・出版の...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/28
3

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた主な要因として、二つのオウンゴールを挙げる島田氏。その一つとして台湾のモリス・チャン氏によるTSMC立ち上げの話を取り上げるが、日本はその動きに興味を示さず、かつて世界を席巻して...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/25
4

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

編集部ラジオ2025(29)歴史作家の舞台裏を学べる

この人生を生きていくうえで、「歴史」をひもとくと貴重なヒントにいくつも出会えます。では、実際にはどのように歴史をひもといていけばいいのか。

今回の編集部ラジオでは、歴史作家の中村彰彦先生がご自身の方法論...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/27
5

一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界

一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界

習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?

「習近平中国」「習近平時代」における中国内政の特徴を見る上では、それ以前との比較が欠かせない。「中国は、毛沢東により立ち上がり、鄧小平により豊かになり、そして習近平により強くなる」という彼自身の言葉通りの路線が...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/09/25
垂秀夫
元日本国駐中華人民共和国特命全権大使