テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2022.01.27

世界の「労働時間」ランキング

 日本は賃金のわりに労働時間が長く、生産性が悪い――そんな話をよく耳にしますよね。実際のところ、日本の労働時間は世界に比べて長いのでしょうか。世界各国の労働時間は、どの程度なのでしょうか。調べてみました。

日本はランキング外? 世界の労働時間の長い国トップ10

 世界経済協力開発機構(OECD)が公開したデータによると、2020年の日本人の1人当たりの年平均実労働時間は1,598時間。世界26位となり、トップ10圏外でした。世界平均は1,687時間で、日本はそれよりも短いということになります。

<世界で労働時間が長い国トップ10(2020年)>
1位:メキシコ(2,124時間)
2位:コスタリカ(1,913時間)
3位:韓国(1,908時間)
4位:ロシア(1,874時間)
5位:クロアチア(1,834時間)
6位:マルタ(1,872時間)
7位:チリ(1,825時間)
8位:ルーマニア(1,795時間)
9位:イスラエル(1,783時間)
10位:アメリカ合衆国(1,767時間)
日本:1,598時間
世界平均:1,687時間
※以上、参考サイト<OECDの主要指標:労働時間 (Hours worked)>より

 世界で最も労働時間が長いのは、断トツでメキシコの2,124時間。2位は同じ中米のコスタリカで1,913時間でした。メキシコと日本では500時間(約20日)以上の差があります。3位が日本のお隣の韓国で1,908時間。日本よりも315時間(約13日)も長い計算となります。ずいぶん差があるように感じられますね。

 メキシコの場合、法定労働時間が週48時間で原則週休1日制だそうです。祝日も少なく、隣国アメリカからの企業が多く進出していることも労働時間に影響を与えているといわれています。

 しかしながら、労働時間当たりのGDP指数、いわゆる生産性で見ると、実はコスタリカとメキシコはワースト1位と2位。つまり二国とも労働時間が長く、かつ効率の悪い働き方をしているということになります。ちなみに日本はOECD加盟38か国中23位です。

 労働時間世界3位の韓国では、2007年に法改正で労働時間が週48時間から44時間に短縮されたものの、短くなって所得が減少した分を補填するために時間外労働をする人が増加。結果として長時間労働につながってしまったといわれています。

世界から見て日本人の労働時間が“短い”理由

 1年のうち250日間働いたとすると、先ほどの労働時間から換算して、日本人の1日の労働時間は約6.4時間となります。数値だけ見れば、日本は世界と比べると意外と働いていないと感じられるでしょう。1日8時間、10時間働いている一般労働者にとっては、信じられない数値かもしれません。実は、これにはカラクリがあります。

 上記のOECDの調査には、パートやアルバイトなどの短時間労働者、非正規労働者の労働時間も含まれています。OECDが発表した「パートタイム雇用率(2020年)」を見てみると、日本のパートタイマー(週30時間未満労働)の割合は全雇用者中25.8%で、世界第4位。世界平均だと16.7%なので、だいぶ高い数値です。

厚生労働省の調べによると、日本のパートタイマーの比率は右肩上がりとなっていて、平成7年(1995年)では14.5%だったのが、令和元年(2019年)には31.5%。約25年で2倍以上に膨れあがっていました。

 またパートタイマーの総実労働時間は1100時間程度、いっぽう一般労働者は2000時間前後で高止まりの状態。一般労働者の半分程度の時間で働くパートタイマーが増加しているため、労働者全体の平均労働時間は減少傾向となっています。

 つまり、世界平均より短い日本の労働時間は、パートタイマーの比率の上昇によるものと考えられるのです。

労働時間は短くなっても……

 労働時間で見ると減少している日本ですが、パートから正社員への転職が困難である、一般労働者の長時間労働も改善されていないなど、未だ労働環境の改善が必要な状況です。昨今はテレワークや在宅ワークなど働き方の多様化もあり、対応に苦慮する企業も少なくありません。
 
 これからは労働時間そのものよりも、労働の質、労働の在り方を、よりいっそう重視していく必要があるかもしれませんね。

<参考サイト>
・OECDの主要指標:労働時間 (Hours worked)
https://www.oecd.org/tokyo/statistics/hours-worked-japanese-version.htm
パートタイム雇用率(Part-time employment rate)
https://data.oecd.org/emp/part-time-employment-rate.htm
・労働時間の状況pdf (厚生労働省)
https://jsite.mhlw.go.jp/kochi-roudoukyoku/library/kochi-roudoukyoku/topics/topics222.pdf

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

分断進む世界でつなげていく力――ジェトロ「3つの役割」

分断進む世界でつなげていく力――ジェトロ「3つの役割」

グローバル環境の変化と日本の課題(5)ジェトロが取り組む企業支援

グローバル経済の中で日本企業がプレゼンスを高めていくための支援を、ジェトロ(日本貿易振興機構)は積極的に行っている。「攻めの経営」の機運が出始めた今、その好循環を促進していくための取り組みの数々を紹介する。(全6...
収録日:2025/01/17
追加日:2025/04/01
石黒憲彦
独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)理事長
2

最悪10メートル以上海面上昇…将来に禍根残す温暖化の影響

最悪10メートル以上海面上昇…将来に禍根残す温暖化の影響

水から考える「持続可能」な未来(1)気候変動の現在地

今や世界共通の喫緊の課題となっている地球温暖化。さらに、日本国内の上下水道など、インフラの問題も、これから大きな問題になっていく。地球環境からインフラまで、「持続可能」な未来をどうつくっていくのかについて、「水...
収録日:2024/09/14
追加日:2025/03/06
沖大幹
東京大学大学院工学系研究科 教授
3

なぜやる気が出ないのか…『それから』の主人公の謎に迫る

なぜやる気が出ないのか…『それから』の主人公の謎に迫る

いま夏目漱石の前期三部作を読む(5)『それから』の謎と偶然の明治維新

前期三部作の2作目『それから』は、裕福な家に生まれ東大を卒業しながらも無気力に生きる主人公の長井代助を描いたものである。代助は友人の妻である三千代への思いを語るが、それが明かされるのは物語の終盤である。そこが『そ...
収録日:2024/12/02
追加日:2025/03/30
與那覇潤
評論家
4

イーロン・マスクは何がすごい?生い立ちと経歴

イーロン・マスクは何がすごい?生い立ちと経歴

イーロン・マスクの成功哲学(1)マスクが「世界一」になるまで

2022年、フォーブス誌が発表した世界長者番付の一位となったイーロン・マスク。テスラの電気自動車やスペースXのロケット開発などを通じ、革新的なイノベーションを実現してきたことで知られるマスクは、いかにして現在のような...
収録日:2022/06/22
追加日:2022/08/23
桑原晃弥
経済・経営ジャーナリスト
5

このように投資にお金を回せば、社会課題も解決できる

このように投資にお金を回せば、社会課題も解決できる

お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(6)日本の課題解決にお金を回す

国内でいかにお金を生み、循環させるべきか。既存の大量資金を社会課題解決に向けて循環させるための方策はあるのか。日本の財政・金融政策を振り返りつつ、産業育成や教育投資、助け合う金融の再構築を通した、バランスの取れ...
収録日:2024/12/04
追加日:2025/03/29
養田功一郎
元三井住友DSアセットマネジメント執行役員