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『ホモ・エコノミクス』で思考する現代の「利己的人間」像
「ホモ・エコノミクス」という言葉を皆さんはご存じでしょうか。ホモ・エコノミクスとは、「合理的経済人」と呼ばれ、広くは「自分の経済的・金銭的な利益や利得を第一に考えて行動する人」を意味します。
明治大学政治経済学部教授(専門は現代思想・政治思想史)である重田園江先生は、ホモ・エコノミクスを「行動のいちいちに経済的な無駄を省き、できるだけ儲かるように合理的計算に基づいて意志決定する主体」といいかえ、ホモ・エコノミクスという人間像は「政治学にまで越境し、学術だけでなく現実の政治・政策にまで大きな影響を与えている」と説きます。
そのうえで、ホモ・エコノミクスについて「日本では数少ない政治経済学部に属する研究者として、一度は考えるべき」という思いから、重田先生は『ホモ・エコノミクス─「利己的人間」の思想史』を上梓されました。
続く第二部「ホモ・エコノミクスの経済学」では、ホモ・エコノミクスを経済論の中に組み込んだ一つの画期として、限界革命を担った三人の経済学者メンガー・ジェヴォンズ・ワルラスを取り上げています。そこでは、経済学の科学化・理論化・一般化を目標とし、市場における取引を経済学にふさわしい「モデル」として数学や物理学を利用した点を挙げながら、ホモ・エコノミクスの勃興期ともいえる19世紀の多様な思想を列挙しています。
さらに第三部「ホモ・エコノミクスの席捲」では、差別、犯罪、労働(人的資本)、農業そして政治など、多岐にわたるホモ・エコノミクスの拡張使用例を取り上げ、現代へと続くホモ・エコノミクス像をあぶり出しています。
そのため、今日的課題であるホモ・エコノミクスを前史までさかのぼり、いまではメインストリームとは関係なくなったような歴史の埃の下に埋もれたへんてこりんな理論や主張を王道経済学史から引っ張り出している点が多々あります。実はその「へんてこりんな理論や主張」の引っ張り出しこそが、本書の大きな魅力となっています。
しかしながら、その理論や主張は、初学者や場合によっては経済学や政治学に詳しい人にとっても分からない部分や納得できない部分も少なくないかもしれません。そこで、重田先生が物理数学の経済学への援用例として、自然科学を例に挙げて古典的経済学を批判したメンガー、経済学を数学化したジェヴォンズ、古典力学を経済学に援用したワルラス、さらには限界効用の数式よる表現が「限界効用逓減の法則に基づく経済理論」からさらに生産・分配の理論へと発展しやがて現代の理論経済学の基礎となったことなどを、「なんだかわけが分からない」と戸惑いながらも「ただ分からないのではなく、少しだけ分かる」と述べているように、新書という形態で通読することによって、多くの読者には最低でも「少しだけ分かる」という読後感をもたらす配慮が、本書には施されているのです。
ホモ・エコノミクスは、世界の見方を変え、社会を理解する文法を変えてきました。しかし、ホモ・エコノミクス的な価値観、つまりは「行動のいちいちに経済的な無駄を省き、できるだけ儲かるように合理的計算に基づいて意志決定する主体」は人間の一面にしかすぎず、自明でもなければ普遍的でもありません。
激しい社会変化によって人間の思想も大きく変動してきた現代、そして過去とはちがった特殊な変化がおこると予感される近未来にとって、ホモ・エコノミクスもですがそれ以外の多くの価値観も、これからますます自明でもなく普遍でもない見方が必要になってくることが予想されます。
ということで本書は、思想を固定することを警鐘しながら、多様なモデルについて「少しだけ分かる」感覚を一人ひとりが積み重ねて思考することの大切さと、その感覚を楽しむことの意味を教えてくれる貴重な一冊です。
明治大学政治経済学部教授(専門は現代思想・政治思想史)である重田園江先生は、ホモ・エコノミクスを「行動のいちいちに経済的な無駄を省き、できるだけ儲かるように合理的計算に基づいて意志決定する主体」といいかえ、ホモ・エコノミクスという人間像は「政治学にまで越境し、学術だけでなく現実の政治・政策にまで大きな影響を与えている」と説きます。
そのうえで、ホモ・エコノミクスについて「日本では数少ない政治経済学部に属する研究者として、一度は考えるべき」という思いから、重田先生は『ホモ・エコノミクス─「利己的人間」の思想史』を上梓されました。
思想史でたどるホモ・エコノミクス
本書の第一部「富と徳」では、“ホモ・エコノミクス前史”ともいえる、18世紀ヨーロッパでの富と徳をめぐる論争を、金儲け・道徳・欲望・支配・文化といった観点から読み解いています。続く第二部「ホモ・エコノミクスの経済学」では、ホモ・エコノミクスを経済論の中に組み込んだ一つの画期として、限界革命を担った三人の経済学者メンガー・ジェヴォンズ・ワルラスを取り上げています。そこでは、経済学の科学化・理論化・一般化を目標とし、市場における取引を経済学にふさわしい「モデル」として数学や物理学を利用した点を挙げながら、ホモ・エコノミクスの勃興期ともいえる19世紀の多様な思想を列挙しています。
さらに第三部「ホモ・エコノミクスの席捲」では、差別、犯罪、労働(人的資本)、農業そして政治など、多岐にわたるホモ・エコノミクスの拡張使用例を取り上げ、現代へと続くホモ・エコノミクス像をあぶり出しています。
多様なモデルを「少しだけ分かる」感覚
さて本書では、自己利益の主体=ホモ・エコノミクスが標準的人間像であることが当たり前とされ、「自由市場の擁護かそれ以外か」という対立軸しかなくなっているような現代から、過去を振り返る試みがなされています。そのため、今日的課題であるホモ・エコノミクスを前史までさかのぼり、いまではメインストリームとは関係なくなったような歴史の埃の下に埋もれたへんてこりんな理論や主張を王道経済学史から引っ張り出している点が多々あります。実はその「へんてこりんな理論や主張」の引っ張り出しこそが、本書の大きな魅力となっています。
しかしながら、その理論や主張は、初学者や場合によっては経済学や政治学に詳しい人にとっても分からない部分や納得できない部分も少なくないかもしれません。そこで、重田先生が物理数学の経済学への援用例として、自然科学を例に挙げて古典的経済学を批判したメンガー、経済学を数学化したジェヴォンズ、古典力学を経済学に援用したワルラス、さらには限界効用の数式よる表現が「限界効用逓減の法則に基づく経済理論」からさらに生産・分配の理論へと発展しやがて現代の理論経済学の基礎となったことなどを、「なんだかわけが分からない」と戸惑いながらも「ただ分からないのではなく、少しだけ分かる」と述べているように、新書という形態で通読することによって、多くの読者には最低でも「少しだけ分かる」という読後感をもたらす配慮が、本書には施されているのです。
これから多くの価値観にますます必要となる自明でもなく普遍でもない見方
「ホモ・エコノミクスが仮構され単純化された人間像にすぎないとするなら、人間とはいったいどんな存在なのだろう」「私たちはいま、人間が追い求めてきた富と豊かさ、そしてそれを追求する自己利益の主体=ホモ・エコノミクスが、根本的にあやまった価値観と結びついているのではないかと問いかけねばならないほど追いつめられている」と重田先生は説きます。ホモ・エコノミクスは、世界の見方を変え、社会を理解する文法を変えてきました。しかし、ホモ・エコノミクス的な価値観、つまりは「行動のいちいちに経済的な無駄を省き、できるだけ儲かるように合理的計算に基づいて意志決定する主体」は人間の一面にしかすぎず、自明でもなければ普遍的でもありません。
激しい社会変化によって人間の思想も大きく変動してきた現代、そして過去とはちがった特殊な変化がおこると予感される近未来にとって、ホモ・エコノミクスもですがそれ以外の多くの価値観も、これからますます自明でもなく普遍でもない見方が必要になってくることが予想されます。
ということで本書は、思想を固定することを警鐘しながら、多様なモデルについて「少しだけ分かる」感覚を一人ひとりが積み重ねて思考することの大切さと、その感覚を楽しむことの意味を教えてくれる貴重な一冊です。
<参考文献>
『ホモ・エコノミクス─「利己的人間」の思想史』(重田園江著、ちくま新書)
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480074645/
<参考サイト>
重田園江先生のゼミナールのホームページ
http://www.isc.meiji.ac.jp/~shisou/
『ホモ・エコノミクス─「利己的人間」の思想史』(重田園江著、ちくま新書)
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480074645/
<参考サイト>
重田園江先生のゼミナールのホームページ
http://www.isc.meiji.ac.jp/~shisou/
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