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なぜ中国に時差はないのか?
東西に広がる世界第4位の国土面積を有する中国ですが、2022年7月現在、「北京時間」と通称されている中国標準時が1つだけのため、国内での時差はありません。
しかし「中国に時差はない」という事実は、中国の北に位置し中国同様に東西に広がる国土面積世界第1位のロシアが11の時間帯に分けられ東西で最大10時間の時差があること、同じく国土面積世界第2位のカナダでは6つの時間帯があること、また国土面積世界第3位のアメリカでは本土だけで4つとアラスカやハワイを含めると6つの時間帯があることなどと比較すると、疑問がわいてきます。
そこで今回は、「なぜ中国に時差はないのか?」について、考えてみたいと思います。
「世界の国や地域の時差」を考える際の「時差」とは、“「世界時」(厳密には「協定世界時」)と「標準時」との差”を意味します。
まず「世界時」とは、経度零度の「本初子午線(グリニッジ子午線)」を基準とする平均太陽時(天空を一定の速度で運動すると仮定した仮想の太陽の動きに基づいて決められた時刻)を指します。次に「標準時」とは、世界の国々や地域がそれぞれに用いている地方平均太陽時を指します。
そして「本初子午線(グリニッジ子午線)」は、ロンドンの郊外にあった旧グリニッジ天文台を通る子午線を指します。1884年、ワシントンの国際会議で本初子午線が指定され、“経度と時刻の原点”となりました。この“時刻の原点”こそが、現在の「世界時」となっています。
ちなみに、「子午線」の「子」は北を、「午」南を意味し、その名が示すように、地球表面に設けた両極(北極と南極)を通って緯線と直角に交わる仮想の大円を指します(「経線」とも呼ばれています)。つまり、「子午線(経線)」は、“東西を分ける仮想の線”といえます。
世界の国々や地域の時差を考えるとき、この“東西を分ける仮想の線”がキーとなります。なぜなら、経度15度ごとに1時間の時差が発生するからです。
そのため、世界の国や地域はそれぞれの“東西を分ける仮想の線”こと「子午線」を基点に、「標準時」を設けます。そのことによって、「世界時」との相対によって世界標準の時差が発生すると同時に、国や地域内での平均太陽時に即した標準時間をもつことができるのです。
以上のような「世界の国や地域の時差」の考え方を、たとえば日本のように経度がほぼ15度の幅に収まる国にあてはめると、標準時が1つで国内での時差がないことが一般的となります。反面、経度が15度以上の国土を有する国々では、いくつかの時間帯を設けることが一般的となるのです。
約60度もある中国の経度を時差1時間内の目安となる15度で割ると、単純計算で4時間の時差となります。実際、中華民国時代(1912~1949年)には、5つの標準時がありました。しかし、中華人民共和国(現在の中国)が成立すると5つの標準時のうちの4つが廃止され、首都の北京に近い東経120度の子午線を基準とした、中国標準時(通称「北京時間」)に一本化されました。
このことから、中国には時差がない理由として、“あえて時差を設けなかった”ことがうかがえてきます。ではなぜ、中国は時差を設け設けなかったのか、そして現在も設けないのでしょうか。理由として、以下の3点が考えられています。
(1)政治的理由:標準時は、主に国の政治や経済の都合で設定される。中国の首都・北京にあわせた時間を国の全域で使うことによって、行政の統一がはかりやすくなる。
(2)地理的理由:中国の人口は、北京・上海・香港といった東側に位置する主要都市に集中している。これらの都市は経度にあまり差がなく、人口の大多数は標準時を一本化しても不便ではない。
(3)経済的理由:標準時を一本化することは、ビジネス面でも利便性が高い。中国の東西には経済格差があり、東側が経済的な発展を遂げビジネス面でも中心地となっているため、多数の権利が優先されている。
しかし、本来なら5つの時間帯が設定されていた、つまり最大で約4時間の時間差があることを考えると、北京から離れた西側の地域では、中国標準時と平均太陽時の間に大きなズレが生じてしまいます。
たとえば、中国標準時の正午、北京では太陽は真上に昇っています。しかし、新疆ウイグル自治区の中国標準時の正午は、日が昇ってまもない早朝です。新疆ウイグル自治区では、中国標準時の午後4~5時頃にならないと、太陽は真上に昇ってきません。
実際に生活してみると標準時と平均太陽時との大きなズレは大変不便で、生活に支障が出てきます。そこで新疆ウイグル自治区などでは、非公式に「新疆時間」(北京時間-2時間)を設け、それに合わせて鉄道の運行や放送などを行なっている場合もあるといいます。
いかがでしたでしょうか。中国をはじめ世界の国や地域を考えるときや訪れる際には、ぜひ空を見上げたり現地の時計を気に留めたりするなど、いろんな時差にも注意を向けてみてください。地球と世界の相対から、いつもと違った時間感覚や予期せぬタイムトラベルが楽しめるかもしれません。
しかし「中国に時差はない」という事実は、中国の北に位置し中国同様に東西に広がる国土面積世界第1位のロシアが11の時間帯に分けられ東西で最大10時間の時差があること、同じく国土面積世界第2位のカナダでは6つの時間帯があること、また国土面積世界第3位のアメリカでは本土だけで4つとアラスカやハワイを含めると6つの時間帯があることなどと比較すると、疑問がわいてきます。
そこで今回は、「なぜ中国に時差はないのか?」について、考えてみたいと思います。
時差を生む“東西を分ける仮想の線”とは?
ところで、「時差って何?」と問われたとしたら、あなたは正確に答えることができるでしょうか。「世界の国や地域の時差」を考える際の「時差」とは、“「世界時」(厳密には「協定世界時」)と「標準時」との差”を意味します。
まず「世界時」とは、経度零度の「本初子午線(グリニッジ子午線)」を基準とする平均太陽時(天空を一定の速度で運動すると仮定した仮想の太陽の動きに基づいて決められた時刻)を指します。次に「標準時」とは、世界の国々や地域がそれぞれに用いている地方平均太陽時を指します。
そして「本初子午線(グリニッジ子午線)」は、ロンドンの郊外にあった旧グリニッジ天文台を通る子午線を指します。1884年、ワシントンの国際会議で本初子午線が指定され、“経度と時刻の原点”となりました。この“時刻の原点”こそが、現在の「世界時」となっています。
ちなみに、「子午線」の「子」は北を、「午」南を意味し、その名が示すように、地球表面に設けた両極(北極と南極)を通って緯線と直角に交わる仮想の大円を指します(「経線」とも呼ばれています)。つまり、「子午線(経線)」は、“東西を分ける仮想の線”といえます。
世界の国々や地域の時差を考えるとき、この“東西を分ける仮想の線”がキーとなります。なぜなら、経度15度ごとに1時間の時差が発生するからです。
そのため、世界の国や地域はそれぞれの“東西を分ける仮想の線”こと「子午線」を基点に、「標準時」を設けます。そのことによって、「世界時」との相対によって世界標準の時差が発生すると同時に、国や地域内での平均太陽時に即した標準時間をもつことができるのです。
以上のような「世界の国や地域の時差」の考え方を、たとえば日本のように経度がほぼ15度の幅に収まる国にあてはめると、標準時が1つで国内での時差がないことが一般的となります。反面、経度が15度以上の国土を有する国々では、いくつかの時間帯を設けることが一般的となるのです。
中国が時差を設けなかった理由とは?
冒頭でも紹介したように、中国の国土面積は世界第4位と広く、約960万平方キロにもなります。そして、南北よりも東西に長く、最西端の新疆(しんきょう)ウイグル自治区から最東端の黒龍江省までの距離は約5200キロにおよび、経度差は約60度もあります。約60度もある中国の経度を時差1時間内の目安となる15度で割ると、単純計算で4時間の時差となります。実際、中華民国時代(1912~1949年)には、5つの標準時がありました。しかし、中華人民共和国(現在の中国)が成立すると5つの標準時のうちの4つが廃止され、首都の北京に近い東経120度の子午線を基準とした、中国標準時(通称「北京時間」)に一本化されました。
このことから、中国には時差がない理由として、“あえて時差を設けなかった”ことがうかがえてきます。ではなぜ、中国は時差を設け設けなかったのか、そして現在も設けないのでしょうか。理由として、以下の3点が考えられています。
(1)政治的理由:標準時は、主に国の政治や経済の都合で設定される。中国の首都・北京にあわせた時間を国の全域で使うことによって、行政の統一がはかりやすくなる。
(2)地理的理由:中国の人口は、北京・上海・香港といった東側に位置する主要都市に集中している。これらの都市は経度にあまり差がなく、人口の大多数は標準時を一本化しても不便ではない。
(3)経済的理由:標準時を一本化することは、ビジネス面でも利便性が高い。中国の東西には経済格差があり、東側が経済的な発展を遂げビジネス面でも中心地となっているため、多数の権利が優先されている。
時差がないため太陽とズレる地域の時間とは?
以上から、中国が時差を設けなった背景とともに、東側の主要都市部で生活する大多数の人々が、中国標準時を一本化しても実生活で大きな支障はないことが見えてきました。しかし、本来なら5つの時間帯が設定されていた、つまり最大で約4時間の時間差があることを考えると、北京から離れた西側の地域では、中国標準時と平均太陽時の間に大きなズレが生じてしまいます。
たとえば、中国標準時の正午、北京では太陽は真上に昇っています。しかし、新疆ウイグル自治区の中国標準時の正午は、日が昇ってまもない早朝です。新疆ウイグル自治区では、中国標準時の午後4~5時頃にならないと、太陽は真上に昇ってきません。
実際に生活してみると標準時と平均太陽時との大きなズレは大変不便で、生活に支障が出てきます。そこで新疆ウイグル自治区などでは、非公式に「新疆時間」(北京時間-2時間)を設け、それに合わせて鉄道の運行や放送などを行なっている場合もあるといいます。
いかがでしたでしょうか。中国をはじめ世界の国や地域を考えるときや訪れる際には、ぜひ空を見上げたり現地の時計を気に留めたりするなど、いろんな時差にも注意を向けてみてください。地球と世界の相対から、いつもと違った時間感覚や予期せぬタイムトラベルが楽しめるかもしれません。
<参考文献・参考サイト>
・『デジタル大辞泉』(小学館)
・『日本国語大辞典』(小学館)
・『日本大百科全書』(小学館)
・『世界大百科事典』(平凡社)
・「標準時」『地学用語集』(旺文社)
・「zone time」『理化学英和辞典』(研究社)
・『おもしろ雑学世界地図のすごい読み方』(ライフサイエンス著、知的生きかた文庫)
・中国の現地時間・時差 - 地球の歩き方
https://www.arukikata.co.jp/country/CN/info/localtime.html
・『デジタル大辞泉』(小学館)
・『日本国語大辞典』(小学館)
・『日本大百科全書』(小学館)
・『世界大百科事典』(平凡社)
・「標準時」『地学用語集』(旺文社)
・「zone time」『理化学英和辞典』(研究社)
・『おもしろ雑学世界地図のすごい読み方』(ライフサイエンス著、知的生きかた文庫)
・中国の現地時間・時差 - 地球の歩き方
https://www.arukikata.co.jp/country/CN/info/localtime.html
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