テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2022.10.01

日本の国防意識は77カ国で最低?

 「世界価値観調査」(WVS:World Values Survey;ワールド・バリューズ・サーベイ)という国際プロジェクトをご存知でしょうか。

 2022年現在の最新版となる第7回「世界価値観調査」(最大77カ国から回答)のうち、日本の国防意識が77カ国で最低という結果が出たと考察されています。

「世界価値観調査」とは?

 「世界価値観調査」とは、1981年以来7回にわたり延べ120の国と地域を対象に18歳以上の男女1000~2000サンプルの回収を基本とした、個人単位の意識調査です。

 世界数十カ国の大学・研究機関の研究グループが参加し、基本的に統一の調査票を用い、各国国民の意識を調べ、相互に比較。調査対象分野は、政治観、経済観、労働観、教育観、宗教観、家族観など広範囲に及びます。

 1981年に初回調査を行い、以後1990年から約5年ごとの周期で行われています。そのため、中長期的な意識変化や価値観の変遷を調査できることも、「世界価値観調査」の魅力の一つといえます。

「国防意識」ワースト5とトップ5

 2022年現在の最新版となる第7回「世界価値観調査」(最大77カ国から回答)のうち、国防意識を考察できる質問文と結果は、以下となっています。

 【日本語版の質問文】
「問39 もう二度と戦争はあって欲しくないというのがわれわれすべての願いですが、もし仮にそういう事態になったら、あなたは進んでわが国のために戦いますか。(1つだけ○印) 1 はい/2 いいえ/9 わからない」

 【英語版の質問文】
「Q151. Of course, we all hope that there will not be another war, but if it were to come to that, would you be willing to fight for your country? (Code one answer)  1 Yes/2 No」

 【77カ国における「はい」のワースト5とトップ5】
1日本:はい13.2/いいえ48.7/わからない38.1
2スペイン:はい34.0/いいえ56.1/わからない9.9
3リトアニア:はい34.3/いいえ44.8/わからない20.9
4北マケドニア:はい38.7/いいえ47.4/わからない13.8
5イタリア:はい38.8/いいえ46.7/わからない14.4
 《中略》
73中国:はい89.7/いいえ10.3/わからない0.0
74バングラデシュ:はい90.1/いいえ4.3/わからない5.6
75キルギス:はい93.0/いいえ6.1/わからない0.9
76ヨルダン:はい93.8/いいえ4.4/わからない1.7
77ベトナム:はい96.4/いいえ3.6/わからない0.0

日本の「国防意識」

 以上のように、「もし戦争になったら進んでわが国のために戦いますか」という問いに対して、日本の「はい」の回答者は約13%と、77カ国中ワースト1となっています。そして、日本の「わからない」の回答者は約38%であり、77カ国中トップ1となっています。

 これらの結果から、日本の国防意識は77カ国で最低といえるとも考察されています。

 なお、前回の第6回「世界価値観調査」においても、「もし戦争になったら進んでわが国のために戦いますか」という問いに対して、日本の「はい」の回答者率は最低でした。

 しかし、第6回「世界価値観調査」では「いいえ」より「わからない」の割合が高かったことに対し、第7回「世界価値観調査」では「わからない」より「いいえ」の回答者率が高くなっているなど、意識変化や価値観の変遷も見えてきます。

「国防意識」の高い国の特徴

 一方、「もし戦争になったら進んでわが国のために戦いますか」という問いに対して、「はい」の回答者が多い国、すなわち「国防意識」が高いと考察される国の特徴はあるのでしょうか。

 第7回「世界価値観調査」での「はい」のトップ5のうち、ベトナム・ヨルダン・キルギス・バングラデシュは、「もし戦争になったら進んでわが国のために戦いますか」という問いに対して90%以上が「はい」と回答。4カ国に続く中国も、89%以上が「はい」と回答しています。

 これらの国々に共通している点は、近過去に戦争や紛争で大きなダメージを受けていたり、現在も領土問題や騒乱の火種を抱えていたりするなど、国防意識に対する当事者意識が高い国といえます。

自国の政治に対する関心

 他方、「世界価値観調査」は18歳以上の調査ですが、若年層の意識についての調査もあります。

 2018年度に内閣府が実施した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」では、調査時に満13歳から満29歳までの男女を対象とし、日本・韓国・アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・スウェーデンの7カ国のインターネット調査を比較しています。

 日本は「今の自国の政治にどのくらい関心がありますか」という問いに対して、「非常に関心がある」は12.2%、「どちらかといえば関心がある」は31.3%と、「関心がある」と回答した割合は43.5%という、7カ国中で一番低くなっています(なお、「関心がある」と回答した合計割合が一番高い国はドイツの70.6%、日本の次に合計割合が低い国は韓国の53.8%)。

 また、2013年度の調査時よりも6.6ポイント低くいなど、日本は若年層においても諸外国と比べ、自国の政治に対する関心度が最も低いことがうかがえる結果となっています。

 国防意識や自国の政治に対する関心を持つことは大切ですが、同時に極めてグローバリゼーションが進んだ現代において、すべての国は複雑に絡み合っているといえます。同時に、一人ひとりの国民が自分事として自国の価値や有り様を意識的に十分に考え、建設的に時間をかけて対話することも大切です。

 その際、「世界価値観調査」のような、中長期的視野を持った個人の意識の変化を知ることができる国際的なデータを活用することで、過去から現在を考え、現在から未来に繋げていくためのヒントを得られるのではないでしょうか。

<参考文献・参考サイト>
・『日本人の考え方 世界の人の考え方』(池田謙一編著、勁草書房)
・『日本人の考え方 世界の人の考え方Ⅱ』(電通総研/池田謙一編、勁草書房)
・World Values Survey Wave 7 (2017-2022) - WVS Database
https://www.worldvaluessurvey.org/WVSDocumentationWV7.jsp
・世界価値観調査 - 電通総研
https://institute.dentsu.com/keywords/wvs/
・「国のために戦いますか?」日本人の「はい」率は世界最低13%…50歳以上の国防意識ガタ落ちの意外な理由│PRESIDENT Online
https://president.jp/articles/-/58391?page=1
・特集1 日本の若者意識の現状~国際比較からみえてくるもの~│内閣府
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r01honpen/s0_1.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題

デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題

危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化

ショーヴィニズム(排外主義)、反エリート主義、反多元性を特徴とする政治勢力が台頭するなどポピュリズムと呼ばれる動きが活発化する中、「デモクラシーは大丈夫なのか」という危惧がかなり強まっている。アメリカのトランプ...
収録日:2024/09/11
追加日:2025/03/28
齋藤純一
早稲田大学政治経済学術院政治経済学部教授
2

 「知識の爆発」の時代、不可欠なのは世界の全体像の把握

「知識の爆発」の時代、不可欠なのは世界の全体像の把握

知識の構造化のために(1)テンミニッツTVの問題意識

現在の世界において、世界の全体像を把握するのは非常に困難である。知識の爆発が起き、専門家でさえ、状況を網羅的に理解するのが不可能になっている。その際に有効な方法は、各分野において信頼できる専門家を複数見つけ、そ...
収録日:2019/07/19
追加日:2019/09/01
3

日本の働き方の大問題~第2の人生を明るくする方策は

日本の働き方の大問題~第2の人生を明るくする方策は

編集部ラジオ2025(4)「壁」ばかりの労働市場をどうする?

日本では、2040年に働き手不足が1100万人になるといわれています。しかしその一方で、定年後の「労働市場」は、まことにお寒い限りです。
2025年4月の高年齢者雇用安定法改正で、企業には『雇用を希望する65歳までの労働...
収録日:2025/02/05
追加日:2025/03/26
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
4

気候正義という問題…野心的な気候変動目標は得なのか

気候正義という問題…野心的な気候変動目標は得なのか

水から考える「持続可能」な未来(4)前途多難社会から持続可能社会へ

気候変動に対処するべく持続可能な社会の実現が求められるが、実は世界はそうではない「前途多難社会」に向かっている。そうした中、どのようにして私たちは持続可能な社会づくりへと舵を取ることができるのだろうか。企業活動...
収録日:2024/09/14
追加日:2025/03/27
沖大幹
東京大学大学院工学系研究科 教授
5

生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状

生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状

生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地

日進月歩の進化を遂げている生成AIは、私たちの生活や仕事の欠かせないパートナーになりつつある。企業における生成AI技術の利用に焦点をあてる今シリーズ。まずは世界的な生成AIの導入事情から、日本の現在地を確認しよう。(...
収録日:2024/11/05
追加日:2024/12/24
渡辺宣彦
日本マイクロソフト株式会社 執行役員常務 エンタープライズ事業本部長