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DATE/ 2022.10.27

芸人が公開するリアルな「給料」

 若手お笑い芸人といえば貧乏の代名詞。収入のほとんどは本業以外のバイトに頼るのが通例といいますが、バイトにかまけ過ぎては肝心のお笑いのネタづくりやネタ合わせの時間が削られます。一方、有望であればあるほど、事務所からふられる大量の「仕事」をこなすため、バイトをしているヒマはなくなります。駆け出しの頃のギャラは雀の涙なので、交通費や衣装代で足が出るのが当たり前。下積み時代に誰もが一度はそういうキツさを味わうものと言われてきましたが、DX時代に入り、事情は変わったのでしょうか。

芸人の活躍の場はテレビだけではない

 売り出し前の芸人にとってのテレビは、名前や顔を売る最高のチャンス。ただし、あくまでも広告のためなのでギャラは度外視。しっかり収入につながるのは劇場出演をはじめ、一見地味に見えるスーパーなどの集客イベントや各地での営業なのだといいます。また、秋に行われる大学の学園祭なども、若手にとっては貴重な人気のバロメーター。2021年は、20校からお呼びのかかったコンビ「祇園」が学祭キングに輝いたと言いますが、2022年はどうなるでしょう。

 20校もの掛け持ちができたのは、2021年の学園祭は半分がオンラインで行われたためです。ウィズコロナでオンライン・オフラインのハイブリッド型イベントも増えましたが、同じぐらいよく見かけるようになったのが、ライブ配信やYouTubeなど、ネットを通じた芸人の露出でしょう。

 「キングコング」の梶原雄太、「オリエンタルラジオ」の中田敦彦などが芸人YouTuberの草分けとして有名ですが、2022年現在トップを走るのは、2018年にM-1グランプリ優勝を勝ち取り、20代で大ブレイクした「霜降り明星」。コンビ名義の『しもふりチューブ』、ツッコミ担当の「粗品」がボカロ作品などもアップする『粗品Official Channel』のどちらも人気で、2019年にスタートした『しもふりチューブ』の総再生回数は22年9月20日時点で7億5987万回に達しています。

 YouTubeは認知度アップと収入が両立するため、令和芸人にとって最もアツい場と言えるでしょう。動画再生回数によって決まるYouTubeチャンネルによる各芸人の推定月収は、数百万円から1千万円以上と言われます。とくに第七世代と呼ばれるデジタル・ネイティブ世代には欠かせないチャンネルです。

収入を告白する芸人の真意は?

 タレントとして自分から収入を暴露したのは、2014年の坂上忍あたりが最初でしょうか。近頃はテレビのトーク番組はもちろん、YouTubeやSNSなどに給与明細をアップするなど、進んで自分の収入を告白する芸人が増えてきました。 

 その心理はというと、やっぱり一番は話題づくりでしょう。容姿も私生活も恋愛経験も、観客に受けそうなものはなんでもネタにするのが芸人根性。収入が低いのは自虐として、高ければ意外性をねらっているということになります。実際に数字のインパクトだけでYouTubeなどの数字が爆上がりするかというと、それはケースバイケース。「覗いてみたい」と思わせるプラスワンが必要になります。

 また、公開されている収入の信頼度についても、ネタととらえておくのが大人のマナー。芸人に限らず複数の収入源があるのは、令和の今、珍しいことではありません。

夢がカタチになる手応えある職業

 今や年末の風物詩となったM-1グランプリの優勝賞金は1,000万円。コンビで等分してもひとり500万円になります。それを機にCM出演のオファーが殺到するため、M-1優勝者の収入は倍増どころか50倍以上にも跳ね上がるのだとか。

 誰もがめざしたいM-1優勝を目的に芸人になったと公言し、営業やTV出演を一切せずストイックに漫才に取り組んでいるのが、「ゆにばーす」の川瀬名人です。彼はデビューしたときから、自分の給料をTwitterで開示していることでも有名。その理由は、「M-1のファイナリストになったらこれだけもらえるということを後輩たちに知ってもらいたいから」だといいます。

 実際2017年末の「M-1」で決勝に進出して注目を浴びた後の年収は、2018年449万円、翌19年655万円ととんとん拍子。上場企業の平均年収605万円を追い抜きました。コロナ禍の20年は332万円と激減したものの、21年は581万円。22年に入ると、1月のギャラは110万1690円と大台を超え、直近の9月にも「お給金は942680円」とツイートしています。

 M-1へのエントリー数は、21年に6017組、22年に6550組と、19年以来連続で史上最多を更新しています。M-1だけでなく、ytv漫才新人賞(2月または3月)、R-1グランプリ(3月、ピン芸人対象)、ABCお笑いグランプリ(7月)と多くの登竜門を持つお笑い芸人への道。厳しくても、夢がカタチになる手応えある職業、勢いのある業界だからといえそうですね。
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